第165話、副官
俺と野田は執務室でプラチナの在庫計算をしていた。
俺達は、カマリア王宮内に建っている一つの建物を丸ごと接収して、というか借りて占領軍総合司令部という看板を掲げていた。最高司令官専用の部屋が俺の執務室で、司令官がカマリア王国の行政に口を出す役目だ。しかし、俺達は特に政治には関与せずに山から掘り返したプラチナのことに専念している。政治や経済のことなんて全くと言っていいほど知らないからな。
建前としては、日本チームによる総合司令部がカマリア王国を間接統治するという形だが、ギルバート王子が政治や経済、軍事の全てを直接的に管理していた。
人なつっこい感じの王子様だが、彼の政治手腕は一流らしい。今まで、王様に代わって政治を行ってきたのだ。
「じゃあ、香奈恵。よろしくな」
野田が、そう言ってスマホをテーブルに置く。
掘り出したプラチナは香奈恵の闇ルートで高く売れる。だが、プラチナよりもそれに含有されるレアメタルが珍重されていた。
地球においては希少な金属なので、ブローカーが香奈恵のスカートにすがりつかんばかりにして求めてくるそうだ。
榎本さん達には戦争報酬として、それぞれ五億円ほど渡したが、お金が減っちゃったなという感じはない。俺達の財産は日ごとに増してくる。金銭感覚が麻痺してくるほどのマネーのせいで頭がウハウハだ。
無職だった頃は、食い物を節約するくらいに財布が薄かった。その頃を思い出すと、まるで前世のことであるかのようにボンヤリとしている。お金が増えすぎると人間はバカになってしまうのだろうか。
「無人島でも買おうか」
野田がニコニコと笑いながら言う。
「おお、それは良いな」
俺も笑って答え、想像を膨らませた。
大きめの無人島を買って、桟橋を作り俺達のクルーザーを停泊させる。島の頂上にデカい邸宅を建てて贅沢三昧。夜は屋上に出て都会では見ることができない、くっきりと浮かぶ天の川を見ながらビールで乾杯だ。
プライベートビーチにコテージのような休憩所を作って海を見ながらのんびりするのも良いかな。アズベルや香奈恵、それに祐子さんが水着ではしゃいでいる。昼食の前に皆でビーチバレーだ……。
急にノックの音が聞こえたので、ハッとして妄想から帰還した。
「佐藤さん……あー、最高司令官殿、在室ですか」
入ってきたのはヒゲ面の重松さん。
「司令官はやめてくださいよ」
俺が言うと、ハハハと笑いながら中央のテーブルに座る。
「相変わらず、お金の勘定か」
「ええ、まあ」
ノートパソコンから目を外して重松さんを見る。
この建物の屋上には太陽光発電パネルを敷き詰めていて、それを大容量のバッテリーに充電している。各部屋にはCVCF(無停電電源装置)から引き出された電灯線が配線されていた。
「あんたも忙しいようだから副官を用意したよ」
関羽のようなヒゲ面の重松さんは、何事もないように言う。
「副官ですか……」
そうか、通常は司令官に副官が付きものだよな。
「ああ、自衛隊のときの知り合いで、和田啓治というやつだ。ちょっと変わっているが真面目な人間だから日本に帰ったときに、ついでに転送してきてくれ」
「はあ……」
まるで物扱いだが、大丈夫なのかな。
「今は無職で生活に困っているようだがら、五十万円くらいの月給を渡してくれればいい」
「はあ……、分かりました」
副官の給料というものは、それくらいが相場なのか。