第157話、混乱
帝国軍に向かって、しばらく進軍していると本隊の重松さんから連絡が来た。
「ピッ、こちら重松。帝国軍が迫ってきた、これから戦闘状態に入る。送れ」
藤堂さんが無線機のマイクを取る。
「こちら指揮車。了解した。こちらもすぐに向かう。送れ」
「ピッ、了解した。通信を終了する」
通信が切れる前に、兵達が騒いでいる音が混じっていた。
「では、作戦通りにいきましょう」
榎本さんはバッグから金ピカマントを取り出して身に付ける。藤堂さんも自動小銃を確認していた。
*
榎本軍師が率いる攻撃隊は少し荒れた平野を進む。
やがて、向こうに小高い丘が見えてきた。戦いの喧噪が遠く聞こえてきて、その騒がしさの中に榴弾やライフルの発射音が混じっている。
双眼鏡で見ると、丘に陣取っている一万人のアマンダ共和国軍を二万以上もの帝国軍が攻撃しつつ半包囲しようとしていた。
「急ぎましょう」
榎本軍師の指示で、部隊は少し速度を上げた。
ああ、いよいよか……寒気のような緊張感。戦いたい欲求と逃げたいという怯えが心の中でグルグルと撹拌されている。
俺の気持ちなどには関係なく、こちらの攻撃隊は舌なめずりしながら淡々と帝国の背後に近寄っていった。
攻撃隊は帝国軍の戦闘状況が分かるくらいに近づいた。
榎本軍師は馬に乗った近衛兵を呼び、前方の兵士に命令を伝えるように指示。
騎兵は部隊の先頭に向かって行った。
しばらくして、部隊は停止。藤堂さんと俺達も部隊の前に陣取って武器を構えた。前の方の赤い軍服を着た兵達はカマリア軍の旗を降ろして後ろに下がる。代わりに全軍がアマンダ共和国軍の旗を掲げた。
カマリア軍の振りをしたまま攻撃すると、カマリア王国が帝国を裏切ったと誤解される恐れがある。その場合、帝国にいる人質は皆殺しになるだろう。
「これより、我が軍は帝国を攻撃する」
その声に振り返ると、榎本軍師がメガホンを持って指揮車に立っていた。
傾いた日差しを受けてピカピカ光っている金色マント。それは全軍の指揮権を持つ軍師の紋章。
「銃撃開始!」
榎本軍師の命令と共に、俺達はショットガンを帝国軍にぶち込むんだ。
後ろにいる味方から攻撃されるとは、つゆほども思っていなかったのだろう。敵は、みっともないほど慌てふためいていた。
岩の陰に隠れながら、構わずに散弾を撃ち込む。無防備な背中は格好の標的で、俺と野田のショットガン、それに藤堂さんのマシンガンは気持ち良いほどに敵をバタバタと倒していく。まるで無双ゲームをやっているかのような虐殺劇。榎本軍師が言ったように生卵を砕いているよう。
「銃撃停止! 全軍突撃せよ!」
敵が大混乱しているのを確認したのか、榎本軍師が全面攻撃を指示。
弓隊が夕立のような矢を敵の頭上に降らせて混乱を助長させた後、騎兵を先頭に歩兵達は敵に向かって駆け出していった。
銃の射程距離だと流れ弾が重松さんの部隊に届く恐れがあるので俺達は後方に下がり、指揮車の横で待機した。
戦術的な作戦を工夫するだけで、こんなにも有利な戦闘になるのか。