第153話、ご機嫌うかがい
俺と藤堂さんは、馬車に乗って帝国の陣地に向かっていた。
その馬車は補給活動に使われる小型の物で、補給物資や士官などを運ぶ。二頭立てで、アマンダ軍の兵士が手綱を握っていた。
一応、道はあるのだが、もちろんアスファルトで舗装しているわけではない。サスペンションのない馬車は、思い切り揺れながら帝国の陣地を目指していた。
「大丈夫ですかねえ……」
俺は、隣の席にドッカリと落ち着いている藤堂さんに尋ねた。
「やるべきことはやった。後は運を天に任せるだけだ」
こちらを見て不敵に笑う元自衛隊の情報担当、相変わらず肝が据わっている。
「帝国の部隊です」
御者をやっている兵が俺達に告げる。
先を見ると大きな森があり、近くで人間が動いているのが見えた。二万の兵は森の中に駐留しているのだろう。
さあ、いよいよ飛び込みセールスだ。帝国をだまくらかすことができるかな。
馬車が部隊に近寄ると、馬に乗った警備兵が集まってきた。
しかし、馬車の上にカマリア軍の旗を立てているので、そんなに警戒はしていないようだ。馬車を停めて藤堂さんが外に出た。
「私はカマリア軍、部隊長のコリンズと申します。帝国軍におかれましては長旅お疲れ様でした。司令官閣下にご挨拶に上がりました」
そう言って敬礼した。続いて御者の兵も敬礼したので、俺も外に出て敬礼した。
帝国の警備兵は「そうか」と言って敬礼を返す。なんか態度が大きくて、素っ気ない感じ。
彼らの軍服は灰色で金の大きなボタンが付いている。どこか、第二次大戦の時のドイツ軍のイメージ。
俺達は警備兵に付いていき、森の手前で馬車を降りた。森の中には馬車が通れるような道がないので、徒歩で行くことになる。
森の中に入ると、兵隊が戦闘の準備に忙しそう。木の柵も作ってあるが、大したものではない。ここまでアマンダ軍が攻めてくるとは思っていないのかな。
しばらく歩くと、池の近くに大きな布製のテントが張ってあった。いくつかのテントをつなげて、大きな間取りにしている。そこが司令官の指揮所か。
身体検査をされてから、俺達はテントの中に通された。
中は思ったより広かった。中央にイスがあり、中年の男が偉そうに座っている。こいつが司令官なのか……。その後ろには軍服を着た数人の士官が立っていた。
俺達は偉そうな男の前に片ひざを付いて頭を下げた。
「遠路お疲れ様でございます、オズワルド公爵閣下」
藤堂さんはギルバート王子に教えられたとおりに挨拶をした。
司令官は、ウムと言ってうなずく。ホントに偉そうなやつだなあ。
そいつは小柄だが、俺よりも少しデカい感じか……。歳は三十二歳で皇帝の弟だというが、平凡な顔をしている。黒い髪で、頭に乗っている帽子には王国の紋章が光っていた。
目を細めて俺達を見下す表情は、どこかドイツ軍のゲシュタポを思い出させる。
「ギルバート王子はどうした。なぜ来ないのか」
不意に聞かれて、藤堂さんが黙り込んだ。