第151話、芝居
アマンダ軍、一万七千人のうち七千がカマリアの本営に向かって進撃した。
残りの一万は陣地で待機。偽装作戦が上手くいけば、二万の帝国軍を両方で挟み撃ちできるはず。
七千の攻撃部隊は榎本さんが率いている。その部隊には俺と野田、それに藤堂さんも一緒だ。
アマンダの陣地は重松さんとジョンソン連隊長が指揮を執る。祐子さんは日本にいて武器などの部材を調達する係だ。
俺達は榎本さんと一緒にスズキ・ジムニーに乗って走行している。彼のランドクルーザーも異世界に転送しているのだが、アマンダへの道は細くて曲がりくねった道が多いので、軽自動車の方が有利なのだ。
昼食を食べてから、しばらく進行すると一キロほど先にカマリアの本営が見えてきた。
小高い丘の中腹に茂みがあり、そこに柵を作ってカマリア軍が陣取っている。手前は少し荒れた平野が広がっていた。
車から降り、双眼鏡で様子をうかがう金色マントを着た榎本軍師。秋の日差しに照らされてキラキラ光っているので、隠密行動では身に付けることができないだろう。
「約束通り、軽く戦って逃げてくれるかなあ……」
野田が心配そうに俺を見た。
「大丈夫さ、あの王様に限って裏切るようなことはしない」
そうは言ったが、本当に約束を守ってくれるだろうか。なんか、不安になってきた。
「カマリアが約束を破って猛攻撃してくることはないでしょう」
双眼鏡を下げて、榎本さんがこちらを見る。
「密約を反故にしてもカマリア王国にとってメリットはありません。帝国の捨て石となって多くの兵を犠牲にすることは避けるはずです」
そうだよな……。俺達との密約を守れば兵を損なわずに済む。あの優しい王様なら、とるべき選択肢は一つだよな。
頼むよ裏切ってくれるなよという祈りのテレパシーを俺はカマリアの本営に送る。
そんなに心配すんなよ、と言うように目の前を赤トンボがツーッと横切っていった。
*
榎本軍師が率いる攻撃隊はカマリアの本営に近づいていき、百メートルほど手前で停止した。
助手席の天板は切り取ってあり、榎本さんはそこから上半身を出してメガホンを持つ。
後部座席に座っている俺と野田。赤壁の戦い以来の久しぶりの緊張感だ。張り詰めた空気に耐えきれず、助手席に立っている榎本さんのケツをツンツンと突いてやりたい衝動に駆られたが、それをやると運転席の藤堂さんに怒鳴られるだろう。
「攻撃開始! 全軍進撃せよ!」
メガホンから軍師の命令が放たれた。攻撃隊の七千は一斉に前進する。それに伴って指揮車も徐行を始めた。
さあ、小芝居の始まりだな。