第15話、ガイダンス
「ええっ! マジかよ」
驚きの声を放つ野田。
「本当にいたのね」
香奈恵もビックリしているようだ。呼び出すように言ったのは彼女なのだが、いざ本当に現れると衝撃を隠せないのか。
「それで何の用かしら」
ピンクのエプロンドレス。長いツインテールをいじりながらコパルが訊ねた。
「ははーっ、コパル様。ちょっと聞きたいことがあってお呼びいたしましたあ」
そう言って俺は畳に額を押しつける。
もしかしたら悪魔が見えるのは俺だけかも知れないと不安になっていたが、他の人にも確認できるんだ。良かった。
コパルは天井に頭が付くくらいの高さで浮いている。この角度なら幼女のスカートの中を覗くこともできるが、それをやると香奈恵から汚物扱いされるだろう。
「いいから早く言いなさいだわよ」
大きくてクリッとした目は俺を下等動物のように見ている。
「ははっ、転送について詳しいことを知りたいんですが」
俺が頼むと、コパルは細い腕をペタンコの胸の前で組む。
「そうねえ、転送は行ったことがある場所なら自由に行くことができるわ。持っていける物は、ええっと……人間が四十人くらいかしら」
けっこう重い物を運べるんだ。四十人というと二千キログラムくらいかな。トヨタ・ハリアーに乗ったまま転送できるだろう。
「一度、異世界に転送したら、次に異世界に行くには一日が過ぎないと転送できないだわよ」
そうなんだ。連続して行ったり来たりすることは出来ないのか。
「これでいいかしら」
「ははーっ、ありがとうございます」
頭を畳にこすりつけたまま横を向くと榎本さんが口を開けたまま固まっていた。これで信じただろう、チクショウ。
「まあ、頑張って王様になるだわよ」
土下座している俺の後頭部を踏まれている感覚。幼女に頭を踏まれている俺って一体……。
「浩二。もう、消えたわよ」
香奈恵が言うので顔を上げると天井が見えるだけ。
起き上がった俺を見る皆の目が、前と違っている。俺だって、やりたくてやったわけじゃないぞ。
「本当に悪魔というものがいたんだ……」
榎本さんが青ざめている。
「想像していたのとは違ってましたけどね」
そう言って野田が深いため息をつく。
「では、榎本さん。一緒に異世界に行ってもらえますね」
俺が頼むと彼はブンブンと頭を縦に振った。
「まずは準備をしないとダメよね」
「準備?」
俺が聞く。
「たぶん、長くなるから着替えとか持っていかないとダメでしょ」
そうか、香奈恵の言うとおりだ。長丁場になるだろう。
「あたしのタントちゃんで行きましょう。向こうでも移動することが必要になるかも」
榎本さんは一度、家に帰って用意するというので、野田が駅まで送っていくことにした。
俺も自宅に帰って準備しよう。