第148話、カマリア王都
俺達はジムニーに乗ったままカマリア王国の王宮を目指した。
車の周囲にはカマリア軍の騎馬兵がいて、一緒に王都の中心部に向かう。
町は大きな建物もなく質素な感じだったが、道は整備され清掃されていた。
神官のアズベルがいたので、俺達は攻撃されることもなく王都の中に入ることができたのだ。
王様に面会を求めると、それには許可が必要だというので、連絡係が馬で王宮に向かった。これは長く待たされるだろうと、うんざりした気分になったが思いの外、すぐに許可が下りた。
町並みは木造の家が多く、日本を思い出させる。珍しげに家の窓から覗いている人々は、ズボンとボタンで留めるシャツを着ていた。彼らの顔も日本人的な風貌だ。
車は王宮の門に入っていく。
宮殿を囲んでいる塀は石で作られているが、そんなに高くないので他国に攻められたときの防衛としては役に立たないだろう。
ジムニーを大きな玄関の前に停め、俺達は警備兵に囲まれながら石造り二階建ての建物の中に連れられていく。この王都でも他の建物は平屋だけだった。
俺達三人は広い部屋に通された。
拳銃などは危険な武器だと知っているよう。入念なボディチェックを受けたが、武器は持ってこなかったので問題ない。警備兵から敵意は感じられなかった。
牢獄のような所で待たされるかと思っていたが、その部屋は豪華な貴賓室だった。俺達は賓客として扱われているらしい。
しばらくして、ドアが開いて老人が入ってきた。
迷彩服を着た藤堂さんが起立して身を正したので、俺も真似をする。アズベルは優雅にゆっくりと立ち上がった。こういった場に慣れているのか。
王様と思われる老人は黙って長いテーブルの端に座った。その隣に中年の男が座る。歳は俺より下のようだが、背は俺よりも少し高い。
「アマンダ共和国の使者として参りました藤堂と申します」
そう言って深々と礼をしたので、俺も続く。
「随行の佐藤です。あ、あの、よろしく……」
こんな場合は何と挨拶すれば良いのだろう。
「神官のアズベルでございます」
少女はスカートの裾を両手でつまんで腰を下げた。ああ、本当に神官のようだなあ。日本ではテレビの前に寝転がって爆ニンニクポテトチップスを食べていたのに。
「私がジェームズ王です」
そう言ってにこやかな笑顔を浮かべた。
あれ、トルディア王国の王様のような威厳というものを感じられない。子どもの頃、近所にいた気の良いオッサン的な……。
ジェームズ王は五十歳過ぎで細面だ。体も細く、少し縮れた黒髪。細かな刺繍が施された半袖シャツのような物を着ている。
「初めまして、私は王子のギルバートです」
天然パーマのような癖のある茶色の髪。手足が長くスマートだが、顔は丸くて人なつっこい笑顔だ。
王子はフレンドリーな空気を発散していて、「あんたもオタクだろ。俺と一緒にアニメでも見ようぜ、なあ兄弟」と誘いたくなるような雰囲気。
交渉は上手くいきそうな気がしてきた。