第147話、ジムニー
俺達はスズキ・ジムニーに乗ってカマリア王国を目指していた。
森の中の細くて荒れた道を揺れながら進む。
その角張った軽自動車は、はっきり言って乗り心地は悪い。ターボエンジンはうるさいし、俺が座っている後部座席は狭くてクッションが堅く、長く乗っているとケツが痛くなりそうだ。
しかし、運転している藤堂さんに言わせると悪路を走行するのはジムニーが一番だという。コンパクトなので取り回しが楽で、四角い車体は車両感覚がつかみやすいとのこと。崖道や林道でも事故を起こす確率は低い。それはオフロード専用に設計され市街地を快適に走ることを考えていない日本車だ。
カマリア王国とアマンダ共和国とは貿易が盛んで荷馬車が行き来しているが、そんなに道は整備されていない。だから、このまま揺れながら行かなければならないのだ。
成り行きで俺もカマリア王国との密約を結ぶ使者に選ばれた。
あんな作戦を提案しなければ良かったかな……。
メンバーは藤堂さんとアズベル、それに佐藤司令官と呼ばれている俺。
何で俺が? と言ったのだが、いざとなったら転送して日本に逃げなければならないという。まあ、そうなんだけど……。榎本さんもそうなんだろうが、才能や能力を持っている人間は何かと負担が重くなるんだろうな。
ロングドレスのような服を着たアズベルは何も言わず、助手席でボンヤリと流れる景色を見ている。
その黒い服は神官を示す物で、それを着ていれば対戦国であっても殺されることがない。この大陸において、神官は神聖なものであり害を及ぼしてはならないという不文律があるからだ。それゆえ、神官は使者の一員として随行することが多い。また、神官を連れて行けば同行している人達も殺されることがない。
俺が付いていくのは、万が一のためだ。
神官の服を身にまとうときは下着などを一切着用しないしきたりになっていた。だから今、この食いしん坊美少女のドレスの下は全裸ということ。しかし、アズベルは慣れているようで、恥ずかしいという気持ちは持っていないみたい。
もうそろそろカマリア本国に着く頃だ。
「お腹が空いたですぅ」
アズベルがポツリと言った。
*
しばらく走ると、カマリア王国の柵が見えてきた。
トルディア王国の城塞都市のようにレンガで作られた城壁などではなく、丸太で組み上げた木製の柵だった。
藤堂さんは車を止め、通信機のスイッチを入れてマイクを取る。
「こちら特殊交渉部隊。目的地に到着した。送れ」
ちょっとの間を置いて返信が来る。
「ピッ、こちら作戦本部。了解した。任務を続行せよ。送れ」
野太い声の重松さんだった。電波状況が悪いのか少しハウリングを起こしている。
「了解した。これより王国の中に入る。通信を終了する」
藤堂さんはマイクをホルダーに置き、振り返って俺を見た。
「さあ、楽しい楽しい外交交渉だ」
角刈りの藤堂さんは本当に楽しそうに笑っている。自衛隊に勤めていたときは情報担当だというが、交渉も得意なんだろうな。
車は数人の兵が立っている門に進んでいった。