第142話、赤トンボ
俺達はトヨタ・ハイラックスに乗って前線に向かっていた。
日本メーカーのSUVは、道があるんだか無いんだか分からないような荒れた道を進む。ハイラックスはハードなオフロードで真価を発揮する自動車だ。デコボコ道をかなりのスピードで走っても乗り心地は悪くない。
カマリア王国はアマンダ共和国の南東に位置する。
両国は貿易を行っており、荷馬車の往来はあるが道は整備されておらず王国に向かうにはオフロード車でも揺れが大きい。ただ、赤壁の道ほどではないので、熟練兵揃いの帝国軍ならすんなりと進軍してくるだろう。
九月を過ぎようとする秋空。青い空には筋雲が流れ、野原にはトンボが飛んでいた。
……異世界にも赤トンボがいたのか。こちらの生態環境は日本とよく似ている。
のんびりとした平和な昼過ぎだが、人間は戦争をしないと気が済まない生物らしい。この道の先には俺達が加勢するアマンダ共和国と帝国・カマリア同盟軍との戦いが待っているのだ。
ハンドルを握っているのは重松さんで、助手席には榎本さんが座っている。榎本さんの膝には軍師の紋章である、金ピカマントがたたんで置いてあった。
後ろの席には俺と野田。荷台には当座の食料や武器などを積んである。揺れる車内から俺達は窓を流れる景色をボンヤリと見ていた。
俺は戦いに参加することを議長に約束した。
その謝礼として、これから共和国が手に入れたクズ銀は、全てこちらに渡してくれるこという約束を取り付けてある。
グラン将軍は病院に運ばれたので、榎本さんが全軍の指揮を執ることになった。ジョンソン連隊長はその副官としての役割。
俺と野田は、赤壁の戦いのときと同じように榎本軍師の予備兵力として待機するという。
今回の戦いは、以前のように天然の要害に守られているわけではない。それに敵は、こちらの二倍の兵力だ。さらに帝国軍の補給はカマリア王国で受けられるので、敵の輜重隊をゲリラ的に攻撃するという手段を取ることができない。
帝国軍は歴戦の勇者がそろっていて、部隊指揮官もアマンダ共和国より優秀……。
まったく……こちらの不利が極まっている状況なんだよな。
だがしかし、大きな不安は感じていない。
こちらには榎本さんが付いているのだ。戦争の申し子ともいえる天才軍師。トルディア王国防衛戦とアマンダ共和国の赤壁の戦いで帝国に大きな損害を与えて撃退した男だ。今回もハムスターの尻尾をひねるくらい簡単に帝国を翻弄してくれるだろう。