第140話、キーマン
それから一週間は日本で活動した。
異世界から転送してきたプラチナを香奈恵の闇ルートで売るのを手伝ったし、祐子さんと一緒に外国に行って銃器などを買い付け、それをミッキー老人の家に運んだ。
プラチナは全て売り払ったので、トルディア王国の宝石を売ることにした。
片手で握って隠しきれないほどの大きさのルビー。香奈恵は未練があるようだったが、所有していても他人に見せびらかすことができないのだから、売った方が良いだろう。
宝石の入手経路は話すことができないし、話しても信じてくれないのは間違いない。
俺は質屋の待合室で座っていた。
東京の外れにある、こぢんまりとしたビル。創業は戦前ではないかと思わせるほどの古い建物だった。
薄暗くて狭い待合室には俺の他に誰もいない。香奈恵はルビーを持って奥に入っていたのだが、一向に戻ってくる気配がない。値段のことでケンカしているのだろうか。
あのルビーは十億くらいするのではないかと思うが、そんな大金をこの古ぼけた質屋が払うことは不可能に思える。
「はあ……」
ため息をついた俺はイスの背もたれに体重を預けて天井を見上げた。
これから俺はどうすれば良いのだろう……。
アマンダ共和国軍は一週間前に出発している。今頃はカマリア王国と戦端が開かれている頃だ。
戦争中はカマリア王国からプラチナが入ってくることはない。しかし、共和国軍が勝利して、カマリアを占領してしまえば、今よりもプラチナを集めやすくなるのではないか。何とか議長に取り入って占領軍の一員にしてもらおうかな。
とりとめのないことを考えていると、不意にスマホが鳴った。
画面を見ると、相手はアマンダ共和国に滞在している榎本さん。
「あ、どうも、佐藤です」
「あ、はい、榎本です。こんにちは」
彼の声が浮ついているような感じがする。
「何かありましたか」
「はい、いや、それが、部隊が大騒ぎになっているらしくて……」
カマリア王国との戦闘に問題が発生したのか。
「議長から聞いたばかりなのですが、帝国軍も参戦するらしいのですよ」
頭をハリセンで叩かれた気がした。
ああ、そうか、そういうことだよな……。
カマリア王国だけならアマンダ共和国に勝てるわけがない。帝国は最初から、カマリアと共同でアマンダ共和国を叩くつもりだったのだ。
「今、議長から協力を依頼されています。どうしますか……佐藤さん」
えっ、どうして俺に聞くの?
……いや、そうだった。こちらの世界での銃器を転送できるのは俺しかいない。この俺が戦争のキーマンだったんだ。