第139話、異世界通信
「とにかく、武器は用意しておくか」
重松さんは胸ポケットからスマホを取り出す。
太い指で画面を操作すると、スマホを耳に当てた。
「オー、繋がる繋がる」
呼び出し音が聞こえるらしい。
野田は、コパルから日本との通信能力を与えられているので、彼の近くならスマホも使えるし向こうの部屋のワイファイにも接続できる。つまり、人間中継器を介して携帯電話やインターネットが使い放題ということ。
「お、祐子か。そっちで武器を調達してくれ。費用は香奈恵さんに相談だ」
重松さんはスマホを顔から話すと、「良いよな?」と俺に確認してきた。
「あ、はい、良いですよ。まだ資金は余裕です。かなり使っても平気ですから俺が許可したと香奈恵に言ってください」
俺は快諾する。トルディア防衛戦のときにかっぱらってきた宝石も残っているし、赤壁のときのプラチナも換金していない物が多量にある。
俺もスマホを取り出してネットを開いてみた。
日本と同じようにブラウザが表示され、ブックマークを選択すると見慣れたアニメ関連のサイトが出てきた。今は秋アニメのシーズンなので、面白そうなものをチェックする。
異世界で日本と通信できるというのは便利なことだったんだなあ。
*
俺と野田は、日本から持ってきた筆記用具をアレックス議長に売り込んだ。
異世界には存在しない効率的な用品を見て議長は驚いていた。議事堂に持っていった物は全て政府で買ってくれた。これで事務作業がはかどるだろう。
代金は当然、プラチナだ。議長は異常事態が発生したときのためにプラチナを集めていたので、適切なレートで引き換えてもらったのだ。
百円ストアーで仕入れた生活用品は町の雑貨店などに販売した。便利だということが分かったのだろう、物珍しさも手伝って、商品は完売。一般的にクズ銀と呼ばれているプラチナは政府が持っていて、市場に流通しないので代金は銀貨で頂いた。
その銀貨は、また議事堂に行きプラチナと交換してもらうのだ。
戦争協力よりも、こっちの商売の方が儲かるんじゃないかな。しかし、クズ銀は銀と共に隣のカマリア王国から輸入されているので、戦争が長引けばプラチナを手に入れることは不可能になるか……。
*
共和国で集めたプラチナは別邸に持ち込んだ。
かなりの重さになった貴金属を台車に乗せて庭に出してある。
プラチナの板を規則正しく積んで、それは腰くらいの高さになった。これを日本に持っていけば二十億円くらいになるだろうか。ノーリスクでハイリターンだぜ、グヘヘヘヘ……。
「じゃあ、行ってきまーす」
野田や重松さんが俺を見送っている。いつもは野田も一緒に行って香奈恵の闇ルートで換金した現金を山分けするのだが、彼がいないと日本と通信ができないのだから仕方がない。
アズベルが残っているので、野田も彼女と一緒に遊んでいたいのだろう。
日本のことに集中する。俺は野田の実家を思い浮かべた。すると、しばらくして視界に黒い霧が発生してきた。