第136話、将軍復帰
俺達は老人から車を借りてアマンダ共和国の議事堂に向かった。
町に行くためには山を一つ越えていかなければならない。山道に入ると木漏れ日を駆け抜けるようにオフロード車が走る。
異世界でも季節は日本と同じ秋。季節の変化も時刻も日本と同一なのだ。
山道を越えて町に出ると、その中央に石造りの議事堂が建っている。
立派な構えの玄関を通って中に入り、受付で議長の居場所を聞く。
三階に上り、執務室のドアをノックした。
「どうぞ」
中からアレックス議長の良く通る声がした。
「失礼します」
俺達が中に入ると、壁際の広い机に議長が座っており、その隣にはジョンソン連隊長と太ったオヤジが立っていた。
「やあ、あんたがエノモト君か。前の戦いでは世話になったな」
と、太ったオヤジが言った。だが、その声音に感謝の気持ちは感じられない。背は俺よりも高いので百七十センチくらいか。コメディアンのようなちょび髭がアンバランス。
そのオヤジは連隊長と同じ共和国軍の軍服を着ている。どこで会ったのだろう。
「はあ、どうも」
小さく頭を傾けて榎本さんが挨拶をした。
「エノモト殿。こちらはグラン将軍です」
忘れたのか、と言いたげにジョンソンが紹介した。彼のウェーブがかった赤毛は前と同じで、引き締まった体をしている連隊長。
榎本さんの顔が少しゆがむ。帝国との戦いで人質になり、榎本さんに見殺しにされたというか、殺されそうになったのが、このグラン将軍なのだ。捕虜交換で戻ってきてから現職に復帰したのか。
「それで、今日はなんの用かな」
まるで飛び込みセールスマンを追い払うかのような将軍の表情。その声も冷たい。
「あ、いえ、何というか……」
迷彩服を着た榎本さんが下を向く。盛り上がっていた軍師モードがハンマーで叩かれたよう。
「この国はカマリア王国から戦争を仕掛けられていると聞きました。状況を説明してもらいたいのですが」
重松さんが前に出て、凜とした声を放つ。
「どうして、あんたら部外者に教えなければならんのだ」
将軍は後ろで手を組み、大きな腹を揺すりながら拒否した。
「……」
重松さんは顔をしかめて黙り込む。
「まあ、将軍。榎本さんは国を救ってくれた英雄なのですよ」
議長が立ち上がってグラン将軍をなだめる。
「しかし、榎本さん。今回はあなたの出番はないようです」
「……と言うと?」
榎本さんが顔を上げて訊ねる。
「調査によると敵のカマリア王国は一万人ちょっとの兵力だそうです。それに対して共和国軍は一万七千を動員しました」
ロマンスグレーの議長は余裕の表情だ。
「敵に倍する兵力で戦うのだから、勝利は確実だ。それに私が指揮するのだから、敗北はあり得ないのだ」
グラン将軍が言い切った。