第133話、新しい能力
「もぉー! お尻が痛かったじゃないの」
空中のコパルは腕組みをして怒っていた。
「申し訳ございまません」
俺と野田は土下座して謝っている。
「……まあ、いいわ。それなりに面白かったし。じゃあ、新しい能力を与えるだわよ」
「ははーっ」
「異世界と日本で連絡が取れないと不便でしょ。通信できるようにしてあげるだわよ」
「ははーっ。ありがとうございます」
なんだ、それだけかよ。中途半端な能力だよな。
「それは、すごいです」
後ろから榎本さんの声。あれ、そうなの?
「うーむ、日本にいて異世界との情報交換が出来れば、転送するときのタイミングが取りやすくなる」
重松さんが野太い声で、うなるように言った。ふーん、そうなのかなあ。
「お前の周りで日本と同じ電波環境を構築するだわよ」
コパルは野田の方を向き、バトンを振り回した。
「ウェーブ・コネクション!」
萌え声が放たれると同時に野田の上に星が降り注ぐ。野田は口を開けて天井を見上げていた。
「じゃあ、私はこれで帰るだわよ」
「ははーっ、ありがとうございました」
細かな説明はないのか。不親切な悪魔だ。
「佐藤、お前は頑張って王様になるだわよ」
「あ……はい」
「また怠けたら、本物の馬に変えてやるだわよ。いいわね」
体から血の気が引く。
「分かりましたぁ! 絶対に王様になるでございまするぅ」
額をカーペットにこすりつけた。
「じゃあね」
そう言い残して悪魔は消えた。
俺と野田は上体を起こして大きなため息をつく。チェーン付の首輪は残っていたので、その記念品を俺達はノロノロと外す。精神的な脱力感がすさまじい。
客間には気まずい空気が充満している。俺達を見る皆の目が変な感じ。なんだよ、あんた達がやれって言ったから呼んだんだろうが。
「野田さんの近くで通信できると言ってましたけど……」
冷静な声で榎本さんが切り出す。少しずつ軍師モードにチェンジし始めているのだろう。
「つまり、異世界でも野田さんの周りなら携帯電話が使えるということですよね」
それを聞いて重松さんがうなずく。
「まあ、そういうことだろうな。野田さんに近づけば日本と通信することができる。逆に言えば、野田さんが異世界にいなければ通信できないということだよな」
と言ってウンウンと首を縦に振る関羽もどき。
「日本と同じ電波環境と言ってましたけど、ポイント的にこの客間のことでしょうね」
榎本さんの洞察は細かい。
「それならば、この部屋のワイファイルーターも使えるかもしれんな」
重松さんが胸ポケットからスマホを取り出し、客間に置いてあるルーターの電波を確認してうなずく。
「ま、これで、異世界で活躍しやすくなったわけだ」
藤堂さんが両手で膝をポンと叩く。
もう、皆の気分は戦争かよ。日本でも怠惰な生活も苦しくなってきたが、異世界で怖い思いをするのも御免こうむりたいものだ。
「ちょっと自宅に行ってきます」
力なく告げて、俺は立ち上がった。
どのような顔で現場監督達と会えば良いのだろうか……。あのような醜態を見せて、なんと言えばいいのか。俺の気は重かった。