第131話、幼女悪魔召喚
野田の実家に皆が集まった。
昼下がりの日差しがレースのカーテンから漏れている八畳の客間。
俺と野田、それに香奈恵とアズベル、榎本さん、藤堂さん、重松さんと祐子さんが一堂に会している。皆がそろうと客間も窮屈になるな。
「まあ、アマンダ共和国に行くのはいいんだが……」
ドッカリとあぐらをかいている重松さんが長い髭をさすりながら言った。
以前は無精髭だったが、ずっと伸びっぱなしで関羽状態になっている。日本で、そのような顔は珍しいので恥ずかしくないのかと思うが、戦闘能力が高い豪傑は細かいことを気にしないらしい。
「その前に、またあの悪魔の嬢ちゃんを呼んで新しい能力をもらったらどうだ?」
俺を向いて言っているということは、つまり俺がコパルを召喚しろということか。
前に呼び出したときのトラウマが、ぽっこりと出てきて心が震え出す。また女装するのか……。横を見ると野田も青くなっている。
「僕も重松さんの提案に賛成です」
榎本さんが同調する。ワークシャツにジーンズ、今日も平凡な服装だ。
「前は重い物を転送できるようになりました。ちょっと頼むだけで大変な効率アップになります。ダメ元で依頼してみるべき価値はあるでしょう」
冷静な口調だ。だったら榎本さんがやってみろよ。
「またやるんですか……?」
自分でも分かるくらいに声のトーンが低い。
「ああ、頼むよ。ビキニの水着姿に変身させられても笑わないからさあ」
そう言って重松さんがニヤついている。
女装でもヒットポイントが大幅に削られるのに、女の水着を着たら恥ずかしくて即死だぜ。見たくはないが、重松さんは自分がそうなっても平気なのかよ。いや、けっこう喜んだりして……。
「やってくれよ、佐藤さん」
藤堂さんも苦笑している。
皆の目が俺に集中して、断ることができるような雰囲気ではない。
「そうですか……、では呼びますか……」
チラッと野田を見てから、渋々と俺は部屋の隅に行って正座した。
「コパル様、コパル様ぁ、お出になってくださいな」
恒例の平伏して召喚する儀式。バンザイした状態で上半身をパタンパタンと上下させる。
アズベルはポテトチップスをポリポリと食べながらの見物だ。暇つぶしの見世物とでも思っているのか。
「呼んだ?」
可愛い声がした。両手を床に付けたままで顔だけ上げると、部屋の中央に派手な服を着た幼女が浮かんでいた。
「まったく、あんたは何をしているのかしら」
両手を腰に当てて、ダメ野郎を見るような視線で文字通り俺を見下している。
クラシックバレエのチュチュのような服装。フワッと膨らんでいるレースのミニスカートがキュートだった。ペタンコの胸にはツインテールが下がっている。赤い目をした蛇の髪留めは以前と変わらない。
「異世界で王様になると約束したわよね。まったく、日本で遊んでばかりで何もしていないじゃない」
スカートを揺らして怒っている様子。この角度だと中を覗くベストポジションで、白い下着がよく見える。見た目は魔法少女だが、性格は悪魔そのもの。
「はあ、いや、その……」
「あんまりグウタラしていると転送能力を取り上げて火山島にでも放り出すわよ」
可愛い声だが、この娘ならやりかねない。
「いや、それだけは勘弁してください。これから異世界に行って活躍しますから」
額を畳にこすりつけて懇願する。
「まあ、いいだわよ。それで、今日はなんの用?」
「はい、新しい能力をいただけないかと……」
畳に頭を付けた状態で頼んでみた。
「グウタラしているくせに、いっちょ前に要求をするのね」
腕組みをして困ったように小さい口を結ぶ幼女悪魔。
「それで、今日は何をして楽しませてくれるだわよ」
口の端が持ち上がって意地悪そうな表情になる。
「えーと、それじゃ、またコスプレなどを……」
そう言って野田を見る。彼は泣きそうな顔になっていた。
「ああ、あれは思ったよりも面白くなかっただわよ」
「はあ……」
「うーんと……じゃあ、あんたは馬になりなさい」
「はいっ?」
コパルは右手で空中をかき回すと、いきなりバトンが現れた。ゆっくりと降りてくるバトンをパシッと握る。そして、クルクルと頭上で回転させ始めた。