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異世界転生、王様になろう  作者: 佐藤コウキ
第3部、カマリア王国
130/279

第130話、榎本さんの基地


 客間に足を踏み入れて、俺は立ち止まった。

 畳の上にはベージュのカーペットが敷いてあるが、すり切れて色が薄くなっている。

 部屋の端には空になったペットボトルが散乱。……ここはゴミ捨て場かよ。壁には大きな本棚があって、戦略何とかという俺にとっては面白みがないような本が並んでいた。本棚はいっぱいになっているので、入りきらない本が床に高く積んである。

 本の山の所々にはライトノベルが顔を出していて、アニメ系美少女のイラストが見えた。


「どうぞ、座ってください」

 大きなテーブルが部屋の中央にあって、座布団が用意してあった。その座布団も色がくすんでいて、きっと洗っていないんだろうな。

 俺と野田は構わずに腰を下ろしたが、香奈恵はあからさまに嫌そうな顔で渋々と座布団に横座りになる。

「夕食はまだですよね。ピザでも取りますか?」

 榎本さんがスマホを持って聞く。

「わあーっ、ピザは大好きですぅ!」

 アズベルが大声を出した。そんなに腹が減っていたのか。

「ああ、ご馳走になろうかな」

 ドッカリとあぐらを組んでいる藤堂さんがにこやかに言った。平然としているということは、彼がこの汚部屋に来るのは初めてではないらしい。

 客間がこれなら、寝室はどうなっているのだろう。怖くて見たくない気がする。

「ちょっとトイレを借ります」

 俺は部屋を出て廊下の端にあるトイレに入った。

 もしかしたらと心配していたが、トイレは水洗の洋式だった。ああ、安心。

 部屋に戻るときに台所を覗くと、流しにはコンビニ容器が高く積まれていた。少し異臭が漂っている。まるで一昔前の俺のアパートのようだ。榎本さんは軍事関連以外には興味がなくて、掃除などは時間のムダと思っているのではないか。


 客間に戻ると、アズベルがタブレットを両手で持ち、宅配ピザのメニューを真剣な顔で見ていた。

「それで、話ってのは何です?」

 俺が聞くと榎本さんは気まずそうにうつむいてから顔を上げた。

「ええ、また、ちょっと、異世界に行ってみたいと思っているんです……」

 やはり、そうか……。俺に用があると言えば、それしかない。

「どうしてまた……、何か気になることでもあるんですか」

 一応は聞いてみたが、理由は分かりきっている。ただ、異世界に行きたいだけだろう。榎本さんが活躍できるのは異世界だけなんだよな。

「ええ、まあ……アマンダ共和国がどうなったか気になるんですよ」

 歯切れが悪い。そうじゃなくて、また異世界に転送して戦闘の指揮を執りたいんだろ。

「佐藤さん、とりえあえず皆で行ってみたらどうだ。俺も状況が気になる」

 そう言う藤堂さんも行きたいのか。

「お礼はします。もらった報酬の半分は使ってしまいましたが、手数料として一億円差し上げますから」

 榎本さんは必死なようだ。そんなに思い詰めているのか。

「いえ、そんな、お金なんて要らないですよ」

 俺は顔の前でブンブンと手を振る。

 半分というと二億円か。そんな大金を何に使ったのだろう。この家には高価な物は見当たらないのだが。

「どうしても気になるんです。よろしくお願いします」

 そう言って榎本さんが深く頭を下げた。

「分かりました、分かりました。行くだけなら構わないでしょう」

 笑顔で答えると榎本さんの顔がパッと明るくなる。

「ありがとうございます」

 彼は本当にうれしそう。俺は苦笑していたが、心は躍っていた。

 俺も異世界に転送したかったのだ。人殺しはしたくないし怖いこともやりたくない、そう思っているのは確かだ。安全な日本で贅沢三昧バンザイ! と楽しんでいる。

 だがしかし、心の下では異世界で活躍することを渇望していた。誰かが言ってくれるのをじっと待っていたのだ。今の生活を続けていくと心が腐っていくような気がして焦りを感じる。


 世の中には、何も考えずに目先の楽しみだけを求めて生きていく人間がいる。しかし、苦難の道でも自分の生まれてきた理由や人生の意味を追い求める人間もいる。

 人の迷惑を考えずにストーカーをする人間もいるし、傷ついても自分が納得できる生き方を追求する人間もいるのだ。

 やるべきことをやった、後悔しないで満足して死んでいけるという人生を俺は送りたい。


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