第13話、モンモン登場
香奈恵が画面を覗く。
「ねえ、誠一。実際に会って話してみたら?」
しかし、野田は首を横に振る。
「オフ会かあ……。ネットの人間は引っ込み思案が多いから簡単には出てきてくれないぜ」
それはそうだ。俺だって見ず知らずの人間と会うのは面倒で仕方がない
「手数料を払ってみたら? 交通費です、とか言ってさあ」
「うーん、そうだなあ……」
香奈恵の提案に野田は首を回す。
俺は壁の隅に置いてあるショルダーバッグを見た。それには札束がうなっている。
「まあ、やってみるか」
野田がチャットに書き込む。
しばらく待っていると返事が来た。
「おっ、了解だそうだ。時間と場所はどうしますか……と」
アポイントを設定する野田。
今日の昼過ぎにモンモンと会う約束をした。
平日に会ってくれるというのは、相手は暇なのかな。こちらは無職トリオだから毎日が祝日なのだが。
香奈恵は一旦、お金を持って家に帰るというので、俺と野田がモンモンと会うことになった。
場所は横浜駅に近いレストラン風の喫茶店だ。そこは野田とカラオケに行くとき、待ち合わせに決めている場所。
野田のSUVに乗って横浜駅に行き、ビルの5階にある喫茶店で待つ。
窓際の席、遅い昼食を食べながらモンモンの戦争知識に期待する。
目印として金貨を一枚、テーブルの端に置いた。
窓からは横浜の通りが見下ろすことができる。駅前なので人が多い。通りを流れる雑踏を眺めていると俺達の状況が非現実的で嘘のように思えた。
「こんにちは」
ハッとして右を見ると、そこには痩せた長髪のオヤジが立っていた。
「どーも、僕がモンモンです」
恥ずかしそうに言う中年オヤジは俺よりも少し年下かなあ。流れるような黒髪を肩まで垂らし、平凡な顔を赤らめて立っている。
まあ、ホンマもんの女子高生だとは思っていなかったけどさあ……いや、少しは期待していたか。
「あ、どうも、佐藤です」
俺と野田は立ち上がって頭を下げた。
そして、彼を対面の席に座らせる。
「わざわざ、すいませんね。モンモンさん」
そう言うと相手は細面の顔をしかめた。
「すいません、僕の名前は榎本です。榎本孝太郎、33歳です。エノモトと呼んでもらえませんか」
そりゃそうだな。他の席にも客がいる。その中でモンモンはないよな……。
眼鏡の奥には気弱ような瞳がウロウロ。平日の昼に来ているのだからニートかなあ。




