第127話、小人は閑居して
中断された撮影会。俺と野田、それにアズベルは仁王立ちしている香奈恵の前で正座していた。
俺は気まずそうに視線を窓に移す。
レースのカーテンの隙間からは、木の葉が昼下がりの日差しに光っているのが見えた。
「まったく、あんたらは何が楽しくて生きているのかしら」
香奈恵はゴミに向けるような視線で俺達を見ている。彼女は俺達と同じ34歳で、スタイルが良く、美人の部類に入るが性格はゆがんでいて、普段からマネーのことしか考えていない。
何が楽しくて生きているのか? 俺は何のために生きているのだろう……。最近は目的みたいなものが無くなっているような。
「アズベルちゃん。あんたもあんたよ、どうして誠一郎の言うままになるかなあ」
異世界から来た神官の少女は、正座がキツそうでモジモジしていた。
「だってえ、野田さんが美味しい物をたくさん食べさせてくれるって言うから……」
本当にアズベルは食いしん坊だ。
「あんたも現金をたくさん持っているでしょ。自分で食べに行けばいいでしょうが」
と、腰に手を当てて叱るように香奈恵。
「日本で、お金の使い方はよく分からないですぅ」
香奈恵はため息をついた。
「とにかく、このダメオヤジ共の言うことを聞いちゃダメよ。何をさせられるか分かったもんじゃない」
はーい、とアズベルがつぶやく。
「えーっ、それは横暴じゃないか。個人の趣味は自由だろうが」
野田が口をとがらす。
「あー? なんだってえ……、このアニメオタク変態ロリコンオヤジが」
香奈恵が般若のような顔で睨みつけた。切れ長の目が、さらに細くなっている。
「いえ、なんでもないです……」
またキックを食らうのは嫌なのだろう。鼻が赤く腫れている野田は黙り込む。
「まったく……働かずにいつも遊びまくっているから心が変な方向に曲がっちゃうのよね」
腕組みをして天井を向く彼女。
「小人閑居して不善を為すというけれど、あんたらの場合は、小人閑居して変態になるというところかしら」
言いたい放題だな、この女は。香奈恵だって仕事をせずに毎日のように買い物をしているだろうが、と文句を言いたかったが彼女の右フックは強烈だ。まだ腹の奥がズキズキする。手加減を知らねえのかよ、この出戻り女が。
「決めたわ」
彼女はフンと、鼻から息を吐き出す。
「あんた達、明日から働きなさい。藤堂さんが助手を探しているらしいから。私が話をつけておいてあげるわ」
そう言ってニコリと笑う出戻り女。
「藤堂さんというと藤堂探偵事務所かよ。何を勝手に決めてんだよ」
反論する野田。
「うるさいわね! あんた達は働かないから精神が腐っているのよ。少しは労働しなきゃダメ!」
異議を唱える権利も拒否することも認めない言い方だ。
俺と野田は目を見合わせた。
仕方ないな、少しは勤労にいそしむことにするか。まあ、遊びまくることにも飽きていたところだから。