第124話、囲師必闕
俺の放ったショットガンの弾は火花を散らして金属の盾にはじかれた。
隙間がないようにビッシリと並べられた銀色の障壁。それでも俺達はショットガンを撃ち続けた。重松さん達の榴弾が敵を襲う。密集している中で爆発すると数人が吹き飛び、十数人が負傷していた。
一方的な戦い……敵の兵士はどのような気持ちでいるのだろうか。
荷物は後方に運んだようで、残っている敵は歩兵だけ。大敗した後であり、伏兵も効果がなかったので、士気はとことん落ちているよう。隊長の指示を聞かずに勝手に橋を渡って逃げようとする兵が続出していた。
もう、戦いの決着はついた。後は、なるべく被害を抑えて撤退するしかない。敵は順番を決めて少しずつ逃がしていたが、恐怖は次第に増幅されて、しばらくすると我先にと橋に駆け込んだ。
敵の防御陣は崩れ始めた。先頭で防御していた兵が情けない悲鳴を上げ、盾を投げ出して後方に駆け出す。やがて吊り橋は人で埋まり、押し寄せる圧力で橋から投げ出される兵が続いた。
こちらが放った榴弾が、狙いを間違って橋に着弾した。
中央がちぎれ、吊り橋は分断。深い谷に、こぼれ落ちる人間の様相は非現実的で夢を見ているかのような感じだ。ダランと垂れ下がった橋に、必死にしがみつく兵達。底も見えないような谷なので落ちたら確実に死ぬ。
「攻撃中止!」
榎本軍師の停戦命令。もう、攻撃しなくても良いのか。
「帝国軍に告ぐ! 降伏せよ、さすれば君たちの生命は保証する。武器を捨てて投降するならば、この榎本軍師の名にかけて厚遇を約束しよう」
榎本さんの降伏勧告が谷間にこだました。敵は攻撃を中止してザワついている。彼らは迷っているのだろうか。
俺と野田は軍師の指揮車に近づく。
「榎本さん、どうして攻撃をやめたんです? このままいけば敵を全滅させることができたんじゃないですか」
俺が聞くと、彼は笑って首を振った。
「この戦いの戦略目的は帝国軍を母国に追い返すことで、壊滅させることではありません。このまま戦っても両方の兵を損耗させるだけで、戦略的に意味がないのですよ。敵が降伏する可能性が生じたならば、そのようにさせるべきでしょう」
彼は沈着な面持ち。どんなときでも目的管理を忘れないようだな。
「それに敵は退路を失って窮鼠と化す危険性があります。そうすると敵は必死に防戦し、味方の損害も大きくなる。囲師必闕と兵法書にも載っています。つまり、相手の逃げ道を完全に断って攻撃するのは戦術的に間違いなのです」
淡々と説明してくれる軍師。ああ、この人が敵でなくて良かった。
しばらくして、敵の部隊から白旗が揚がった。