第123話、追撃
いくら体験しても戦いの前は心がジリジリと緊張する。
日暮れが迫る谷間。俺達は茂みに隠れ、汗まみれの手でショットガンを握りしめていた。
向こうから乱れた足音が聞こえてきた。双眼鏡で見ると、それはジョンソン連隊長の部隊。敵を引き連れて、一時的に後退してきたのだ。
目の前を味方の部隊が走り過ぎ、その後ろから帝国軍が追いかけてくる。
大声を上げて敵が目前を通過していく。呼吸を荒くして榎本軍師の方を見るが、彼は何も言わない。……まだ攻撃しないのか。
敵が半分ほど進んだとき、やっと命令が発せられた。
「攻撃開始!」
近くなので、メガホンの声が頭の中に反響する。機械動作のように俺はショットガンを敵に撃ち込んだ。
細長く伸びた敵の追撃隊。その中央部分に銃と弓矢による挟撃だ。
道の両側から攻撃されて、たちまち敵は混乱した。
俺と野田はショットガンを撃ちまくる。油断していた敵は慌てふためいて何が起こったのか分からないまま死んでいく。
ショットガンと弓矢と重松さん達の軽機関銃の攻撃によって、瞬く間に半数以上の損害を与えた。
しかし、帝国軍は歴戦の強者達。しばしの混乱を収めて密集隊形に陣形を整える。
こちらも、擬似的に敗走していたジョンソン連隊長の部隊が引き返してきて攻撃に加わった。
三方向から攻撃された敵の部隊は次々と兵を失っていく。
もう全滅は確実だな……。素人の俺にも分かるような戦況。さすが榎本さんだ。日本にいれば冴えない無職のオッサンだが、異世界では帝国軍を手玉に取る名軍師。
敵の部隊から白旗が揚がった。
「攻撃中止!」
榎本さんの指示でピタリと攻撃が止まる。
敵は完全に戦意を失い、剣と盾を捨てて両手を挙げた。
軍師は味方のうち百名を後方待機とし、捕虜を後方部隊に任せた。
降伏した敵の手首を結束バンドで縛り、後方部隊に監視させる。
「追撃開始!」
残りの兵は隊列を整えて、また敵を追撃していく。
敵を撃破して、味方の士気は高まっている。全軍は小走りで敵の本営である、吊り橋に向かった。
運動不足の俺と野田は次第に遅れていき、最後部を息を切らせながらついていった。
橋に近づくと矢が飛んできた。敵は橋の手前に固まっている。五千人以上はいるだろうか。細い吊り橋の通路を荷駄隊がゆっくりと向こう側に通過しているところだった。
敵は密集し、盾を並べて物資の移送を防御している。
こちらも弓矢で応戦。俺達は岩陰に身を隠してショットガンを撃ち込んだ。重松さん達はハンドランチャーで榴弾を放つ。それは敵の真ん中で爆発して散弾をまき散らした。