第12話、お金と選択肢
玄関のドアが開く音がして香奈恵が帰ってきた。
「フフフ……、お待たせえ」
にこやかな顔で部屋に入ってきて、大きなカバンをテーブルにドンと置く。
パソコンの前に座っていた俺達は、立ち上がって飯台に近寄った。彼女がカバンのチャックを開けると、中には札束がギッシリと詰まっている。
「うおー!」
俺と野田が感嘆の声を上げた。
「はいはい、ちょっと待ってねえ」
香奈恵が次々と札束を取り出してテーブルの中央に三つの山を作る。一万円札がレンガのようにまとまっているのを初めて見た。高さが十センチほどのレンガ。
「一人あたり一千百万円ね。端数があるけど、あたしの手数料としてもらっておくわ」
そう言って、一つのレンガを自分のハンドバッグに詰め込む。
「ちょっと待てよ。金貨が100枚だったら、一千五百万円になるんじゃなかったのか?」
少し不満そうに野田。
「質屋の取り分があるのよ。報告しないで処理するには費用がいるんですって」
お金をバッグに押し込んでチャックを閉める香奈恵。
そんなもんか、と野田がつぶやきながら札束を持って奥に入っていった。
俺の取り分もショルダーバッグに入れる。こんな大金を手にしたのは初めてのこと。どうやって使おうか。パソコンを買ってスマホを新しくして……この際、車も買ってしまおうか。でも、都会じゃあ車庫代が大変だよな……。
頭の中で大金の使い道がグルグルと回り出した。お金を持つと選択肢が増えて大変だな。俺の周りの世界が急に具体性を帯びてくる。
少しトリップしていると、香奈恵がこちらを見ていることに気がつく。
「それで、王国のことはどうすんの?」
彼女は美形の剣士を心配しているのだろう。
「うーん、掲示板で呼びかけてみたんだけど、ろくな返事が来ないんだ」
そう言って俺は、またパソコンの前にあぐらをかく。
「この、欲求不満の女子高生モンモンさんが使えそうなんだよな」
パソコンの画面を指さすと香奈恵は顔をゆがめた。
「それって誰? きっと中年オヤジのハンドルネームだわよね」
「いや、分からないぜ。パリパリの女子高生かもしれない」
戻ってきた野田が言った。お金は押し入れにでも入れたのか。
「チャットで話してみよう」
野田はパソコンの前に座ると、慣れた手つきでキーボードをカタカタいわせる。
しばらくすると了承の返事が来た。相手は暇なのかな。
「今の状況は……です。教えてルナ先生」
つぶやきながらのキー入力。
「ルナ先生?」
香奈恵の疑問を黙殺して野田がじっと待つ。相手もパソコンに慣れているのか、すぐに返答が来た。
「どのゲームのことか教えてモンモン……と来たか。まあ、本当のことだとは思ってくれないよな」
ため息をつき、野田がキーボードで文章を打ち込む。
ほとんど待たずに返事が来た。それを見て野田が天井を仰ぐ。
「ダメだな。本気で答えてくれない」