第117話、乾坤一擲
翌朝、偵察隊から帝国軍が侵攻してきたという報告が無線で来た。
敵に察知されるので、ドローンを飛ばすことは出来ない。間接的な斥候の説明だけで対応するしかないのだ。
軍師は全軍に戦闘態勢を指示。いよいよ乾坤一擲の戦いが始まるのか。
俺は一体、何のために戦っているのだろう……。赤壁の数百メートル後方、茂みの中に隠れて膝を抱えている俺はとりとめもなく考えた。
アレックス議長は自分の国を守るため。榎本さんや重松さんは自分の能力を生かすために戦っている。
だが、俺と野田は儲けるためにショットガンを撃つ。黄金、プラチナ、宝石……お金が欲しくて戦いに身を置いている。
モルトンは言っていた、金銭欲を持っているのが普通の人間だと。しかし、お金を渇望するのが普通の人間の姿だとしても、立派なことではないよな……それは誰も褒めてくれない。
俺は王様になる。幼女悪魔のコパルに、そう約束した。
王様になってどうするのか、どうしたいのか……。国の最大権力を手にして、俺は何をしなければならないのか
「敵が来たぞ」
行き先不明でモヤモヤした頭に重松さんの声が響く。
山の中腹に設置した監視カメラの映像が、茂みに隠れて見ていた液晶画面に電波で届いている。それには大軍が赤壁に近づいてくる様子が映し出されていた。
やがて帝国軍は崖を登ってきた。
ジリジリと心が焦る。絶対防御壁を通過されてしまったんだよな。今までは崖の上から有利な戦いをしていたが、これからは地の利がなくなり、対等に戦うしかない。
黙って見ているうちに崖の上の敵は数百人に増えた。
こちらには気がついていないはずだが、敵兵は油断することなく武器を構えて密集隊形による防御陣を形成していた。さすが歴戦の帝国軍。
みるみるうちに崖の上は帝国の兵で埋め尽くされる。千人以上はいるだろうか。
十分に増えてから攻撃しなければ敵の損害を多くすることは出来ないが、多すぎると手に余るだろう。その加減が重要だよな。
「おい、榎本さん……」
機関銃を持っている重松さんが軍師の方をうかがう。ヒゲ面の豪胆な重松さんも焦っているのか。
「そろそろですかね……」
榎本さんは双眼鏡で敵を見ながら言う。重松さんと、その隣でカラシニコフを握っている藤堂さんがうなずく。藤堂さんは人を殺すのは初めてだろうが、大丈夫かな。
「プラスチック爆弾に点火!」
榎本さんの命令が放たれる。小箱のような物を持っていた祐子さんがスイッチをひねった。
赤壁の方から爆発音が響き、崖の上で密集していた兵達が吹っ飛んだ。
「攻撃開始!」
重松さん達がバネ仕掛けのように茂みから飛びだす。
「では、佐藤さん達も転送してください」
榎本さんの命令に俺はうなずいて、野田の手を握った。
野田の家を思い浮かべる。今は争いのない、平和な日本。
双眼鏡で状況を見ている榎本さんの姿がゆがみ、黒の世界に飛び込んだ。