第113話、モルトン議員
「それに今、共和国軍を率いているのは日本とかいう良く分からない世界から来た人間です。金銭のために戦っているのであって、私達のように愛国心を持っているわけではない。いつ裏切っても不思議ではないでしょう」
何を言ってんだ、この小太りメガネ野郎。温和な俺でもカチンときたぞ。
「ちょっと待て! それは聞き捨てならん」
モルトン議員の疑いに対して、重松さんが大声を出す。
「確かに俺達は対価をもらって戦う傭兵だ。しかし、戦いにおいては義理を通す。一度、依頼されたからには死んでも裏切ることはない。そんなに不安なら、あんたも安全な後方にいて文句を言っていないで前線に来て戦えば良いだろう」
ヒゲ面の重松さんが憮然として反論した。
「重松将軍の言うとおりです」
榎本さんが同調する。
「私達はトルディア王国の防衛戦でも最後まで戦い抜いた。劣勢になっても逃げたり裏切ったりしていません」
冷静な榎本軍師。
「とにかく、講和するべきです。なんなら私が使節として帝国に赴いても良い」
モルトン議員が議長に向けて主張する。
議長は困り果てたように腕組みをして下を向き、大きなため息をついた。
「モルトン議員の意見も分かるが、まだ敗北したわけではない。……もう少し待って戦況を見てからでも遅くないだろう」
そう言って、議長は榎本さんの方を向く。
「軍師殿、私は日本から来た人間を疑っていません。これからも戦闘の指揮を執っていただきたい……」
榎本さんは立ち上がって「承りました」と、しっかりした声で言った。
*
議事堂を出て、俺達は本営に戻った。
「あの野郎、とんでもねえやつだ」
榎本さんの控え室。野田が、いきり立っていた。
「あいつは雰囲気が、なんとなく上司に似ているよな」
「ああ」
野田の言葉に相づちを打つ、俺。
確かに人の神経を逆なでする男だ。性格的に好きになれない。
「しかし、まあこれではっきりしましたね」
榎本さんが藤堂さんに言った。
「ああ、そうだな。やはり引っかかったな」
満足そうな笑顔の藤堂さん。
「えっ、一体どういうことですか」
俺が榎本さんに訪ねる。何かを画策していたのか。
「スパイをあぶり出すために、わざと状況が悪化しているという嘘をついたのですよ」
そう言ってニヤリと笑う榎本さん。
「どういうことですか?」
俺の知らないうちに話が進んでいたのか。
「戦況が悪いという報告をすれば、スパイが会議に和睦を提案すると読んでいました。帝国としては犠牲を少なくしてアマンダを攻略したい。だから、スパイにもその旨が言い渡されているはず。嘘をついたのは、スパイが講和を言い出しやすくするためのフェイクです」
そうだったのか。藤堂さんのアドバイスでスパイ狩りをしたわけか。
「あのモルトン議員は俺に任せておけ。尻尾を捕まえてやる」
藤堂さんが自信満々という顔で笑っていた。