第112話、戦況報告会議
翌朝からは戦況の報告会議だった。
議事堂の大会議室には、榎本軍師を始め俺達やアレックス議長、それにモルトン議員などの一般の議員も全て参加した。
円形の大きなテーブルに着いているのは、榎本さんや重松さん、それに議長などの共和国側の議員だけで、俺達は壁際に置いてあるイスに座っていた。いわゆるオブザーバーというやつだ。確か、俺は司令官のはずだが……。
「では、榎本軍師殿。戦況を報告していただけますか」
テーブルの中央に座っているアレックス議長が広い会議室に通る声で要請した。
榎本さんは、コホンと一つ咳をすると背筋を正す。
「はっきり言って、現在の戦況は思わしくありません。赤壁に迫ってきた帝国軍を撃退はしましたが、敵は大軍です。また何度でも襲ってくるでしょう」
報告を聞いて議員達がざわめき出す。
あれ、そんなに悪い状況だったっけ? 最初は小競り合いだったが、次の戦いでは帝国に大打撃を与えたはずだが。
「では、帝国の進撃を防ぐのは難しいということですか」
議長が眉をひそめて問いただす。
「このままいけば、そのうちに最終防衛線である赤壁は突破されるでしょう。できれば、増援をお願いしたい」
榎本さんは、すました顔で兵の追加を要求。
どうして彼は、そんなことを言うのだろう。俺みたいな素人が考えても、今の赤壁を突破することなど不可能だと思うのだが……。議会には詳しい戦況が伝わっていないので、報告を鵜呑みにした議員達が騒ぎ出す。
議長が立ち上がった。
「増援だって! 徴兵できる人間は全て投入した。もう、戦闘に参加できる人間などいませんよ」
普段はクールな議長が取り乱している。
「そうですか……」
榎本さんの表情は変わらない。
「我々は軍師殿を信じて軍隊を任せているんです。こちらはできることは全てやった。後は現有戦力をもって防衛していただきたい!」
議長が強く言い切った。共和国には法律があるので、無制限に徴兵することができないのだろう。乱世において共和制というのも面倒だな。
「防衛ができないのなら、和睦するべきです!」
議長の隣に座っていたモルトン議員が大声で提案した。
小太りで眼鏡を掛けている。そのレンズの奥には小さな目が光っていた。
「元々、帝国に刃向かうことが無謀だったのですよ。今ならまだ、有利な条件で交渉できる。早々に使者を送り、講和の相談をするべきです」
皆がモルトン議員に注目した。
そいつは俺よりも背が低い小男だが、声のトーンが会議室に良く響く。
「しかし、それでは帝国の属国に成り下がるのでは……」
議長が口をゆがめて言う。
「共和制を存続させることが絶対条件です。それさえ飲んでくれれば、多少の貿易関税が高くなっても仕方がないでしょう。この大陸に共和制を残すことこそがアマンダ共和国の使命ではないのですか」
モルトン議員は正論をぶち上げた。彼は議会の弱いところを突いている。今まで議長の腰巾着だと見下していたが、なかなか侮れないやつ。
「しかし、それでは国の収益が激減する……」
つぶやくように言う議長。
「では、ずっとこのまま帝国と争うつもりですか。我が国の鉄骨製品のほとんどが帝国に輸出されている。今は貿易における最大の顧客を失っているのですよ」
議長は黙り込む。
そうか、戦争をやっていても経済は大事だよな。腹が減っては戦はできない。戦争とは経済が許す範囲内でしか行うことができないのか。太平洋戦争のとき、日本のように経済力や国力を無視して、精神力頼みで戦争を始めると悲惨な結果になる。