第108話、マイホーム
榎本さんが敵情を偵察したいというので、俺がトラックを用意することになった。
それは中国から持ってきたオンボロの車。それを崖から下ろすのは一苦労なので、一度、日本に転送してから、異世界の崖下に転送しなければならない。
自衛隊をスピンアウトした重松さんが、元自衛隊員の知り合いをスカウトしたいというので、一緒に日本に行くことになった。
議長が百キロくらいのプラチナを輸入してくれていたので、それを荷台に載せて日本に転送した。
野田の家に到着。
重松さんと一緒にリフト付台車でプラチナが入った木箱を土蔵に運ぶ。
そして、日本で香奈恵が用意してくれた医薬品などの物資をトラックに積み込んだ。
俺は建築中の自宅を見に行った。
それは実家の敷地内で、野田から借りている場所。鉄筋コンクリート二階建てのマイホームは、ほとんど完成していた。電動シャッター付の車庫もある。そこには三台入るので、フェラーリの他に普段でも気兼ねなく使える車を買おうかな。
のんびりした日本にいると、異世界での死闘が夢のよう。こっちでも戦争が始まれば、太平洋戦争の時のように地獄絵図が繰り広げられるのだろうか。
俺は戦争を知らない世代。この平和な時代に生まれたのは、もしかしたらスッゲー幸運なのかなあ。
会社で上司が嫌だとか、俺を認めてくれる場所がないとか文句を言っていたが、殺し合いがない時代に生きてこれたのは、それだけで十分に恵まれていることなのだろうか。
平和ボケした日本に住んでいると、平和の大事さに気がつかないのだろう。
工事をしている作業員や現場監督に軽く挨拶して野田の家に戻った。
*
異世界に戻り、榎本軍師とトラックに乗って偵察に行くことになった。
野田がハンドルを握り、石だらけの道をゆっくりと進ませていた。俺は助手席でショットガンを握っている。後ろの席には軍師と、その護衛役の祐子さん。
彼女は優しい顔をした日本女性という感じだ。エプロンを付け、掃除機でマイホームをきれいにしているという家庭的な雰囲気だが、今は迷彩柄の軍服を着てRPGというロケット砲を胸に抱いている。
軍師はリモコンを操作してドローンを先行させ、画面をみて索敵していた。
敵の姿は見えない。帝国は戦う気がないのだろうか。トラックは白っぽい排気ガスを振りまきながら進んで行く。
突然、パンッという音がして車が揺れた。
「なんだ、なんだ!」
野田がブレーキを踏む。
車から降りて調べると、タイヤがパンクしていた。
「古い車だからなあ……」
やれやれというように俺が息を吐く。
「いや、そうじゃないです。前輪の両方がパンクしている。これは釘か何かを仕掛けられたんですね」
榎本軍師が、しゃがんでタイヤを確認していた。
「えっ、帝国の仕業なんですか?」
そう言って車の下を見ると、長い板が草で隠されていて、たくさんの釘が板から飛び出ている。
「帝国は自動車の弱点を知っていたんですね。つまり、スパイから情報を得ていたということですよ……」
榎本さんが立ち上がって腕組みをする。
そうか、タイヤがパンクすると車は使い物にならないということをスパイが帝国に教えたのか。情報っていうやつは重要なんだな。
「何とかしなければなりませんね……」
そう言って榎本軍師が考え込んでいた。