第104話、投石器
「では、ジョンソン連隊長。よろしくお願いします」
そう言って最前線の指揮を彼に任せ、榎本さんが作戦本部に入る。俺達もそれに続いてプレハブの中に入った。
連隊長と榎本さんの関係はギクシャクしている。まだ、グラン将軍のことでわだかまりがあるんだろう。
本部の中には液晶テレビが置いてあって、四つのビデオカメラの映像が分割されて写っていた。四カ所にカメラを設置して、全体の戦況を確認できるようにしてあるのだ。
弓矢の応酬が始まった。帝国からも味方からも雨のような矢が放たれる。谷間の空間を行き交う弓矢で風景が曇ったように感じた。
帝国側から大きな石が飛んできた。それは弓を引いていた味方に当たり、その兵は倒れて動かなくなった。一発で即死かよ……。
投石器は二台あって、一台は大きな石をもう一台は複数の小さな石をまとめて飛ばしてきた。
ドーンと大きな音がして、作戦本部の窓にひびが入った。けっこう距離があったのに壁に当たったのか。マジで大丈夫なのか……。しかし、榎本軍師も重松さんも、その後ろに控えている祐子さんも動じる気配がない。ビクビクしているのは俺と野田だけ。
窓には金網が張ってあるので、矢は平気だが、飛んでくる十キロほどの石に長く耐えられるのだろうか。
帝国軍は戦車を先に出して、その後ろに歩兵が隠れながら付いて来ていた。
「まだ俺達は攻撃しないんですか」
野田が心配そうに聞く。俺も早くショットガンで攻撃したい。
「できるだけ引きつけましょう。まあ、今回で決着をつけてやりますよ」
頼もしい榎本軍師。戦歴を重ねるごとに自信が増しているようだ。
やがて敵は崖の下まで来た。
戦車を崖の手前に停めて、その上に乗っている兵士が絶壁にハシゴを掛ける。矢の雨を物ともせずに、盾で防御しながら作業していた。
ハシゴを岩の出っ張りに紐で固定すると、その上に次のハシゴを取り付ける。またたくまにハシゴは崖の上まで伸びてきた。
石や熱湯を落として敵を阻もうとするが、百戦錬磨の帝国兵はジリジリと登ってくる。
「そろそろですよね……」
ショットガンを握りしめる野田。俺も気がせくのだが軍師の命令がないと、やぐらに登って攻撃することができない。
「まだです……。もっと引きつけます」
冷静な榎本軍師。攻勢に出るタイミングは俺達には分からない。経験と生まれながらにして持つ天分が必要なのだろうな。
とうとう敵は崖の上に現れた。
味方の兵は槍で突き落とすが、命が惜しくないのかと思わせるような帝国の兵が次々と登ってくる。
やがて、敵の十数人が崖の端に陣取り、きっちりと足がかりを作られてしまった。
帝国軍の矢と投石は中断されたよう。登ってきた兵に当たることを恐れたのか。
「行くか?」
ヒゲ面の重松さんが榎本軍師さんに短く確認。
榎本軍師は深くうなずいた。
「では、攻撃を開始してください」
待っていたとばかり、重松さん達が軽機関銃を持って飛び出す。俺と野田も外に出て、やぐらを目指して走って行った。