第10話、帰還
とりあえず家に帰ることにした。
ビール缶やゴミをコンビニ袋に入れて、敷いていたシートをたたむ。それらを車に積んでから香奈恵はダイハツ・タントを発進させた。
「俺の家に行って話し合うか?」
野田の家は古いが大きくて部屋がたくさんある。泊まり込むことが何度もあって三人の集会場所のようになっている。
「そうね、もらった金貨をどうするかも相談しないとね」
ハンドルを握る香奈恵は、カーナビを野田の実家にセットした。
*
野田の実家は横浜の外れにある。
それは築三十年以上の古くて堂々とした家屋。うっそうとした林の中にあり、近くに民家は少ない。野田の両親は他界して今は広い家に一人で住んでいる。
そこに到着したのは午後十時前だった。
和室の客間に三人は腰を下ろす。気分がゆったりして、ため息が出た。
「これをどうやって換金しようか」
野田が袋をもって上下に揺らした。
「あたしが現金に換えてあげるわ。知り合いに貴金属を取り扱う質屋があるから」
香奈恵は大きく足を広げてリラックスしている。女も30歳を過ぎると恥じらいというものが無くなるらしい。
「色々と手続きが面倒なんじゃないのか?」
大量の金貨などを売るときは身元をはっきりさせなければならないと聞いたことがある。
「そこに抜かりはないわ。質屋のジイサンとは長い付き合いだから上手くやってあげる。ちょっと手数料を取られるけどね……」
そう言って香奈恵は片目をつむった。
そんなものなのか……蛇の道は蛇ということだな。物事には表と裏があるんだ。
「それで王様の依頼はどうするよ」
古畳に寝転んで金貨の袋を枕にしている野田が言った。
「どうするも何も……どうしようもないじゃないの」
香奈恵は壁際の冷蔵庫に行き、中から缶チューハイを取り出す。
「あたし達が異世界に戻り、王国を救う勇者として剣とか槍を持って敵陣に突撃するわけ? それはないでしょ」
缶チューハイのプルタブを開ける音が八畳間に響く。
キャンベル帝国はトルディア王国の5倍の国力があると聞いている。すると敵の兵力も5倍になるだろう。籠城したとしても勝てるわけがない。
「まあ、そうだけどさ……。放っておけばキャンベル帝国とやらに王国が蹂躙されてしまうだろう……なんか可哀想だよな」
野田が同情のため息をつく。
「あの美形の剣士が死ぬのはもったいないわよね……」
香奈恵は神妙な顔つきで缶チューハイをゴクリと飲んだ。
「キャサリン姫は帝国の人質になってしまうんだろうな……」
そう言って俺は彼女の行く末を案じて腕組みをした。
あの超美人の姫様だから、帝国のオモチャになってしまうだろう。
城では俺達が急にいなくなって大騒ぎになっているに違いない。
「それに召喚術者のアズベルちゃんも、どうなってしまうのか……」
野田は寝返りを打って天井を見る。彼はアズベルをアニメ番組の魔法少女ジュリアと重ねているのか。