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「聞いた?
猫耳メイドがあつかましくもチーズ工房に入れろっていきなり来たって!」
「聞きましたわ!
なんて事でしょう!
ブラド様の顔を立てて農場に入れて差し上げたのに!」
「許しがたいわ!
バンパイヤ名家の私達でさえこのダンジョンに入るのに、あんな大変な選抜試験を潜り抜けて来たのに」
「ごらんになって!私の畑のトマト!
この実の張り具合とツヤ!
これならブラド様に献上できるわ!
あのチンチクリンに触ったりされなくって本当よかった」
「あら、私のタマネギも順調よ!
土からこだわっておりますから!スパイラルアースワームを何匹投入したと思って?
甘味が違いますのよ」
「まあ!あのレアワームですの?
私のブロッコリーだって、」
「皆さま、
手が止まっていますよ
私達の精進した分だけ、ブラド様に納得していただける作品が作れるのでしてよ」
「「「「ミア様!
失礼いたしました!」」」」
「ブラド様も皆さまの頑張りにお喜びよ
さあ、がんばりましょう」
「ミア様のイチゴ、ミカリ様が美味しいっておっしゃったって」
「嘘!
なんて名誉なの!」
「さすがミア様、
ヴァンパイアの名家って伊達じゃ無いわ」
「あのサヌキヒメの鼻を抜ける香りと甘さ!
私達には出せないもの」
「「「あーー、羨ましい」」」
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「樽のおっさーーん」
「ブモォ~」
「おう!来たか!
例のヤツは?」
「もっちろん!
今出す!」
「ブモモ」
今日はずっとおっさん部屋に来るタイミングをうかがってたんだよねー
チョコにも散歩からすぐ帰って来るように言ってあった♪
オヤツの時間になってメイドはレジが忙しそうだし、
ブラドは侯爵夫人の接待中なのをそぉぉぉぉぉぉっと横目にショップを抜け出した
なんかあったらゴブに足止めするように指示してある
ブラドの前でヤツの作った物以外を口にすると、捨てられた犬みたいな顔するんだよねーー!
てるたまバーガーなんて発注して、晩御飯食べなかった日なんて絶望した顔してたもん!!!!!
その後、対抗してオリジナルてるたまバーガー作って出されたけどさー
美味しかったけどさー
なんていうの?
たまにはオーガニックナントカじゃなくって、あのガッツリ!いかにもファストフード!
ってのが食べたいんだよね!
だからこういうのはこっそり、おっさん部屋で食べる事にしてるんだけどね
お供のチョコはもちろん、おっさん達もウメー、ウメー言うから共犯だかんね
護衛のおっさん達に囲まれた私は例のブツを発注した
「ピザフットのー
クワトロプレミアムチーズのL、サラミ、ペパロニトッピング、
エビカニめっちゃラバーズのL、
照り焼きチキンエクストラマヨのL、
フットスペシャルのL、チーズましましーー」
テーブルの上に広がるピザ、ピザ、ピザ、
「ゴクリ」
おっさんのどれかの喉がなる音が生々しい
樽のおっさんはオレンジジュース片手に、
他のおっさんはコーラとオレンジとグレープパンチとなんかのミックス
みんなおっさん部屋に設置してあるドリンクバーを使いこなしてて、それぞれの黄金比率があって下手にドリンクバー使うと熱く語られるから要注意
ドリンクバーはコーラとその他、100:0がピザのサイコーのコンビだってきまってんのにね
ドリンクもいきわたってることだし、では
「「「「「「いっただきまーす!」」」」」」
「ブモーーーー」
あちち、ハフハフ
んんー!
まじ、うんま!
このチーズのこってりした感じたまらーん
ピザにのってカリカリになったサラミって反則級に美味しいよねーー
はーーー、コーラとピザって生き返る~
あれ?今ピザがピカっ光ったような気がするけど、ピザだってたまには光るよねー
「おい!ニュート!そのペパロニいっぱいのったヤツ俺が次に食べようと思ってたし」
「ふん、遅かったな」
「チョコ!上のサラミばっか食ってんじゃねー」
「モモッ!」
「銀狼の!あんたの好物はあっちの照り焼きチキンだろ!そっちをせめてからに、、
げー照り焼きのピザもう無いし!」
「弱肉強食ってやつさ」
「みんなさー
第2弾出すから、もっとゆっくりくいなよー」
「ちょっと侯爵夫人のお付の人ら喧嘩するなら外でやってほしいッス」
なんだろ、町内の子供会で行ったファミレスもこんなにお行儀悪くなかったような気がするわ
「あら、ミカリ、
こんな所で面白いもの食べているわね」
そこに場違いな少女の声が響いた
「きぇぇ」
変な声でちゃったよ
緑の髪に真っ赤なグラランスのティントリップがよく似合う女子中学生がいきなり現れた
ダンジョン統括のパメラ女史だ
おっさん達も何かを察して無言で別のテーブルに移動していくんじゃ無い!
おい!ピザの箱は持っていくんかーい!
「、、、、、
ふぅん、それ食べてるのブラドに知られたくないのね
ふぅん」
ひぃぃ!
もちろんミカリちゃんは空気読める系店長ですよぉ
忖度!忖度!
「こちら出来立てクワトロチーズピザと、生ハムのマルゲリータです!
お飲み物はシャンパンですか?ビールですか?」
「ふうん
とりあえずシャンパン
白でいいわ、3本ね」
パメラの細くて白い指がチーズの油にてらてらと光るピザの耳をつまむ
ピザは罪悪の印のように垂れ下がったチーズと共にパメラの赤い口の中へと消えていった
「あら、このピザとやら蘇生の付与がついてるわ
生意気ね」
パメラ課長にはブラドにチクられたらヤバいのもあるけど、いろいろあって頭が上がらないんだよね
フルートグラスに入れたクリュッグ98年がくぃーくぃーとすごい勢いで減っていく
「(樽!空気になってないでおつぎしろー)
あ、若い方がいい?
ですよねー!ヒュッテ行ってこい」
「はひぃぃぃ」
うわぁ、ピザって飲み物だっけ?
「サイドメニューのベーコン&クルトンのサラダと、ポテトとオニオンフライのLLもいかがですかぁ?」
「ふぅん、変わった食べ物だけど美味しかったわ」
その言葉とともに
ピザメニューとさらにサイドメニューを一周したパメラがようやく落ち着いたみたい
「パメラさん、バックヤードでデザートにしませんかぁ?
最近、新しいイチゴのデザートはじめたんですよぉ」
「あら?
そうね、シャンパンとイチゴってあうのよねぇ」
ミカリと緑髪の女子中学生はM’s cute に通じる扉に消えていき、おっさん達によるM’s cute なんちゃってホストクラブも閉店となった
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「おい、銀狼の!
何だったんだアレ?
あの女すごい威圧とすごい食欲だった」
それまで壁と同化していた侯爵家のお付きがつぶやく
「一度だけ見た事がある
メイドの上司だ
いつも来るわけでないから安心しろ」
銀狼の、と言われたずんぐりした男が口を開いた
冒険者パーティ銀狼の牙のオーリと言えば麓の街スノークでそこそこ名の知れたパーティーのリーダーであるが、ミカリ達の間では樽呼ばわりが通例となっている
「お前、侯爵家では新株のお付きだったな
このダンジョンでは目をつぶれる事は目をつぶれ
口外はするな
忘れろ、神経質だとやっていけない
特に婚礼の話には無心になれ」
先ほどまでパメラのピザにタバスコを振る係だった男がいやに感慨を込めてつぶやく
「ピザの事もこの部屋から出たら、一言も言っちゃいけないッス」
高速お酌のヒュッテもいつになく神妙な口調だ
「、、、、わかった
形態はどうあれダンジョンだもんな
それにしてもピザとやらうまかった」
「あのピザ美味しいだけじゃないッス
すっごい加護がついて来るッス」
「、、、、あのピザ食った後はしばらくケガしてもMPが減らない
何でかは俺も知らん、聞くな」
「ホントッスよ!チョコと散歩に行っても無傷ッス
ためしに次いっしょに行くッス」
「「そんな傷ついて当たり前な散歩には行けん」」




