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番外編3 フレアのある休日2

「だから私は何も知らないと言っている!」


「嘘を言うな!

何も知らない奴にどうしてドラゴン達が寄っていくのだ!

まだ離れずに近くをウロついているのだぞ!」


「S級冒険者のつてを使いあやしい奇術を手に入れ、ドラゴン達を扇動しようとしているのであろう!

何が目的だ!」


実用一点張りのソファセットにかけて、さっきから騎士団の奴らとずっとこの押し問答を続けている


そうなのだ、あのドラゴン達は「私に」近づいて来たらしい


私が騎士団の商業区の詰め所に連れて行かれれば、ついて来て詰め所の上空を離れず「ルールー」と鳴き続けた

さらにお互いを蹴落とそうと喧嘩をはじめる


街中にドラゴンは危険と言うことで、私は訓練用の開けたスペースが多く、近くに民家も無い騎士団の本署に連れて来られた


何故かドラゴン達も上空からついてくる

時おり屋根越しに「ルールー」と声がする

窓越しにたまにでっかい目が覗いている

目があってもウィンクなぞしてくるな!


「騎士副団長、竜騎士団の方がお見えです」


部屋にはフレアよりいくぶん年かさにみえる口ひげの男が入ってきた


「君かね、ドラゴンに怪しいなまじないをかけて魅了しようというのは」


騎士団より色の濃い制服、そして左手にドラゴンを操舵するためのグローブ、紹介されるまでもなくこいつは竜騎士だろう

胸に勲章がところせましとつけられている


目の虹彩の感じから竜人の血を引いている一族の出だろう

なるほど、お貴族サマだ


何にせよこれ以上話の通じないおっさんが増えるのは勘弁してほしい


「何度でも言うが、家を出て、市場に向かうところで、いきなりドラゴンが近付いてきた!

歩いていただけ!

荷物も散々調べただろう!」


「美しい」


「はぁ?」


「あ、いや、なんでも


お嬢さん、話はわかった


しかし、君の意図しないところでドラゴンたちを惑わせる何かが動いている可能性がある

お手数をおかけして非常に申し訳ないが、竜騎士隊の本署まで御足労願えないだろうか


申し遅れたが、私は竜騎士隊第二隊隊長エルキュール・ミュケーだ

エルとよんでくれたまえ」


「お嬢さんじゃなくって、S級冒険者のフレアよ」




私は三度目の場所移動となった


それが最悪だった

竜騎士隊の本署は竜騎士選定の儀のある王都の西の丘のそば

すなわちこの時期はドラゴンもたくさんいる


竜騎士隊本署の一室で私は頭を抱えていた


「どうして、こんなに増えているのよ」


騎士隊本署では3頭だったドラゴンが今は十数頭に増えている


本署の敷地に足を踏み入れた時、最初の3頭とは違うひときわ大きなオレンジ色のドラゴンが上空から近寄ってきて

「ルー」

と一声鳴いた


「まずい」


さけんだエルがすばやく大きな建物に誘導してくれたが取り囲むドラゴンは次々と増えていった


窓の小さな応接室のような部屋に通された時にはその数は10頭をゆうに超えていた

今も「ルールー」と競い合うように鳴いている


私を囲んでいるエルと、竜騎士と紹介された他の2人の男達の沈黙が重い

せまい部屋がよりいっそう狭苦しく感じる


「ドラゴンは『ルー』と鳴くのだな」


王都で生まれながらドラゴンの生体などほとんど知らなかった


「いや、ドラゴン達が『ルールー』と鳴くのは特別な時だ」


「特別な時?」


「大切な者に対する呼びかけだよ


番に対する言葉だ、求愛の言葉だよ


ただ、人にもこのようにと鳴くことがある」


ねえ、竜騎士隊長様、なんだか聞いたら私の人生が終わるような気がするから


「選定の儀で竜騎士を決めた時だ」


聞きたくなかった




本署に入ったあの日以来、私はその部屋を出る事を許されなかった


部屋は続きになっており、隣の部屋には寝室とシャワールーム、簡易キッチンがあった

他国の身分の高い竜騎士が逗留する時用の部屋らしい

食事は毎回職員がワゴンに乗せて運んできてはさげていく

窓は絶対に開けないようにとしつこく言われている


選定の儀のシーズンが終わるまでここに監禁されそうだ


私にまとわりつくドラゴンたちも今年は竜騎士を各々の竜騎士を見つけることはないだろうが、シーズンが終わればあきらめて一度竜の谷に帰り、来年また選定の儀に参加すればいいだろうということらしい


私や、私の部屋、持ち物全てを調べつくしたが何もドラゴンを惑わせる証拠となったものは出てこなかったのだろうからこの対処療法でいくしかなかったのであろう

私の都合はそっちのけで



頻繁に部屋に尋問にくるエルが何か思い当たることはないかと聞いてきたので


「いつもははかないスカートを履いていた」


と言うと、


「君は何をまとっていても麗しい」


とかすっとぼけたことを言うので、もうまともに話す気もなくなった


そのうちドラゴン達は喧嘩を始めた

エルいわく誰が私との選定の儀に挑むか決着をつけているらしい


ドラゴンのような魔法生物は物理的な攻撃の他に魔法も飛ばし合うので、対ドラゴン用の防御魔法のかかった竜騎士の本署でなければ壊滅的な被害が出ただろうとのこと

私が本署にいる事でいかに被害がおさえられているか、監禁の正当性を語られた


「い、いや、断じて君を閉じ込めたいとか、

独り占めしたいとかではないんだ!決して!」


エルも尋問が終わったなら帰ってほしい

毎日聞くこともそんなに無いだろう


ドラゴンは体の最も大きなファイアードラゴンが勝者となったとのこと

しかし他のドラゴン達も私のそばを離れる気はないらしい


毎日何らかのみつぎものが屋根から降ってくる

それはめずらしい薬草や木の実だったり、近くでしとめたらしい動物の死骸、あるいは魔物のそれ

カーテンの隙間からこっそり階下をうかがうとまるで殺戮現場の様相だ


エルに聞くと求愛行動の一種だが人にこのような行動をとるのは観察されたことがないらしい

ドラゴン側は竜騎士を選び放題だからね、と


私はドラゴンの番になる気もないし、竜騎士になるつもりもないから早くあきらめてほしい

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