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ダンジョンからの帰路、赤い花と緑のペガサスの紋章の馬車がある木陰にさしかかった時
その女がひっそりとたたずんでいるのが見えた
先行していた冒険者パーティ〈銀狼の牙〉は馬車を止め、斥候ヒュッテが声をかけた
「どうしたっすかゴブさん?なんか忘れ物っすか?」
先程M’s cuteでこちらを見送っていた店員のゴブであった
馬車より先に周りこんだにしては化粧の乱れもなく
フリルたっぷりの服も白いヒールも先程のまま汚れひとつない
「当方が呼びたてしたのだ」
答えたのは侯爵家の侍女のエーダだ
侍女とはいっても戦士のような体つきをしている
「奥様がお呼びだ、ついてこい
おまえ達は先にスノークへ戻れ」
明らかに護衛を必要としない侯爵家の一行を見て
〈銀狼の牙〉と侯爵家の侍従2人を乗せた馬車はゆっくりと動き出した
「ゴブ、おまえを呼び出したのには理由があります
おまえはあのダンジョンではなかなかの手練れと見ました
それなりの武があると見て頼みがあります」
「なんでございましょう」
「この2人は私が育てた侯爵家の精鋭部隊の者です
日々しっかり訓練はしておりますが、実戦には乏しいのです
経験を積むため、2人と手合わせをしてみてはくれないかしら」
「承ります
今からでしょうか?私は構いませんが」
「おまえはその格好でよろしいの?得物は?
それと持ち合わせがございませんので、真剣でもよろしいかしら」
ゴブはアイノとエーダの腰の物をちらりと視線をおくって答えた
「このままで何の問題もございません
ただ一つ私が勝ちましたらお願いがございます
それは- 」
はたして、馬車道で手合わせは行われた
アイノとエーダの実戦を積むためとは、てい良い言い訳で
実はダンジョンの実力を測る為の手合わせだった
「はじめ!」
御者の掛け声でまずはエーダとの対戦が行われた
「キエエエーーイ、、ぐぅ」
エーダがゴブに向かっていった一瞬の後
エーダは後ろを取られ地面に転がされていた
早すぎて自身でも何がなんだかよくわからなかった
「ご自身でも気付いておられるだろうけれど踏み込む時に軸がぶれます
左の腕の支えが弱いです」
アイノの時も決着は早かった
2、3度アイノが切りかかったが、ゴブはするするとかわしたのち
後ろに回りこみアイノの首をロックした
「ウッ」
「あなたは脇が甘い
もう少し軽い剣に替えて攻撃の後の体勢を素早く戻すべきです」
「ほほほ、手合わせというより指導であったわね
アイノ、エーダ、良かったわね
ゴブ、褒美としてあなたの希望は叶えてさしあげましょう
次回までに準備を整えてまいります」
「ありがとうございます。何卒よろしくお願いいたします」
侯爵家の馬車は再び走りだした
「「侯爵夫人、ぶざまな姿をさらして申し訳ございません」」
アイノとエーダは車中でタルトの入った箱を支えながら平身低頭していた
ゴブとの手合わせがあまりにも一方的な結果に終わったからだ
「よいのです
あの者の気配はおそらく人外
こうなることは薄々わかっておりました
あれにかなうとなると、おそらく王都の騎士隊長クラスでしょうね
それにこれであのダンジョンの力もうかがい知れました」
「しかし、何故でしょうね?
あのゴブという者ののぞみ」
「ええ、そうね
刺繍を習いたいなんて、、
ダンジョンで刺繍なんてきっと有史以来じゃないかしら、ほほほ」




