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「侯爵夫人のおなりである
ひかえよ」
ノイバン侯爵夫人こと私、アリタリア・スノーク・ノイバンはスノーク領の奥地に出来たダンジョンに来ていた
きっかけは冒険者の真似ごとをして冒険者ギルドに出入りしているノイバン侯爵家4男のカールだ
そこで聞きおよんできた情報によると、スノークの街から2時間ほど行った所に新たにダンジョンができたとのこと
そこは人に有益なダンジョンと判断され、王都からもしばしば高ランクのパーティが訪れているという
出来たばかりのダンジョンとは本来すごく不安定な物
いつモンスターが溢れてくるかも知れない所に入場規制までしいているとはどういう事だと聞いたが、聞きかじっただけのカールでは要領をえず、私が直に出向く事にした
武闘派の辺境伯の家に産まれ、王都の隣とはいえ魔物の多いこの土地に戦闘力を買われ嫁いではや30年
昔のようにひとりで魔物討伐に向かう機会は無くなったが、未だ腕は衰えてはおらぬ
ギルドがダンジョンとこざかしい協定など交わしているからおかしな事になるのだ
生まれたてのダンジョンなど些細な益にとらわれず武力で蹴散らせばよい
ギルドがどうしても一週間後にしてくれというので
ダンジョンの視察という名の討伐は今日となった
スノークの街を出てダンジョンまで馬車で道なき道を2時間と聞いていたが
街道から整備された1本道ができているではないか!
それに日々の討伐が行き届いているのか道中は魔物の気配がほとんどない
1時程で黒い扉の前に降り立った
今日のお付きの侍女はアイノとエーダ
どちらも私が教育した剣士達だ
「ふんぬ」
長年の間に馴染んだ戦闘服に身をつつみ、いざ参る!
ここは本当にダンジョンなのだろうか?
質実剛健のノイバン家よりはるかに豪奢なしつらえだ
ダンジョン特有のトラップの気配どころか
ピンクと黒の華奢な装飾は王都の貴族の館を夜会用に飾り立てたかのようだ
思わずハンカチを引っ張りだして汗をぬぐう
深く頭をたれる女たちに案内された先にはなんと!温室があった
王家主催の園遊会で見た事がある
王家の温室より規模こそ小さいが、明らかにこちらの方が見事な作りだ
曲線で構成されたフレームと複雑にカーブする透明度の高いガラスは、室内に咲き乱れる花々と相まってまるで宝石箱の中に迷いこんだようだ
外からは全く伺いしれぬ内部展開は明らかなダンジョンの特徴ではあるが
店主と名のった女とメイドは、その立ち振る舞いから明らかに戦いになれていない
おそらくゴブと呼ばれる美しい人形の様な女が唯一の戦闘員だろう
まだ向こうから何かを仕掛けてくる気配はない
流れるように紅茶と菓子をサーブしてくる
紅茶からは花のように甘い香りがして、菓子は工芸品のようなに繊細だ
白い花の咲き乱れる美しい温室でのこのような茶会など、王妃殿下でも味わった事が無いのではないか?
菓子はどんどん追加されテーブルの上はにぎやかになっていった
驚く事にティーカップは当家の家紋をイメージしてもちよったとは
アイノとエーダにも同席させた
ふむ、菓子に毒は無いようだ
待ちきれず紅茶を口に含む
今まで飲んだ紅茶の中で群を抜いて上質なものだ
菓子も見た事のない果実がのっているが実に美味い
手が止まらない
アイノ、それは私の分よ
タルトという菓子を3つ程食べてようやく落ちついた
目的であった視察に戻らねば
人気のシートマスクとやらは肌がつるんとなって王都のかしましい女どもにはさぞ人気がでそうだと思うが、私はあのバナナのタルトを持ち帰えらねばならぬ
息子どもに2ホール、私に2、いや3ホール、夫君には黙っておれば良いだろう
アイノ、エーダおまえたちも1ホールづつよね
おそらくこれがタルトを壊さないようにに持って帰る限界だわ
侍従2人は案内役冒険者の馬車に乗せて帰ればなんとか
なになにタルトはまだ多くの種類があると?
モモにブルーベリー?
聞いたことはないけれど美味しいことはわかるわ
今度来た時はそちらもいただくわ
さて、視察で来たのだから釘くらいは刺しておきましょう
「なかなかの手練れね
あなたとはじっくりお話ししたいわ」
人形のような女に呼び出しをかけておく
ガラス玉のような目が是と返してくる
さて、思わぬ長居だったと腰をあげかけた所で
「ブモ」
小鳥のような声がして振り向くとて、そこには天使がいた
あんなにかわいい生き物はいまだかつて見た事がない
短い手足、つぶらなおめめ、がっちり詰まった骨格
タルトをほうばるなんとも愛らしい仕草
チョコちゃん、まあまあ、お名前もかわいいのね




