26
せまい店の中はパニックだった
誰かが息をのむ音が聞こえる
ポテトをキメていたおっさんたちがイモをまき散らかしてかけつけ
フレアさんがメラメラと燃える剣をかまえている
自分で求人をかけたはずのメイドはへたりこんでいる
「お座り」
犬ならこれくらいできるだろう
パキパキパキと乾いた音をさせてデカいフレンチブルが腰を落とした
いくつかのイスをまきこんだようだ
「ひぃぃぃ」
あ、ローズさんが引きつけを起こして倒れた
私もわりとショック
仔犬が来ると思ってたし、
ちっさくってかわいいやつかと思ってた
「ちょっとかわいくないし、デカすぎ」
こちらを見つめるフレンチブルがショックを受けたように小さな目をまたたかせた
「どれくらいが、よろしいですか?」
「うーん、抱っこできるくらい?
ゴブだってお散歩行く時、こんなデカいの困るでしょ?」
フレンチブルの体はみるみる間にそのごっつい体が小さくなり、
頭を椅子の座面と並べるくらいになった
つぶれた鼻、真っ黒な目、三角の耳、牛みたいなツノ、あれ?犬ってツノあったっけ?
シッポらしき物を高速で振って上目遣いでクネクネと媚びてくる
ゴブが抱き上げる
よく見るとブサかわと言えなくもない?
「返品、、します?」
ゴブまで上目遣いでせめてくる
わかった
私の負けだ
「しつけはちゃんとして、
お客様にもかわいくご挨拶しなきゃダメなんだからね」
フレンチブルは毛がチョコレート色だからチョコちゃん
何にもひねりがないんじゃなくってシンプルと言ってほしい
結論からいうと、チョコは賢い子だった
お手もお座りもしっかりできる
ゴブや私の言う事はちゃんと理解するし、お客様に吠えたりもしない
ユリアーヌさんやタルのおっさん達にシッポを振ってご挨拶した
これならショップ内でのお出迎えも問題ない
ただ、チョコはメイドの事を格下に見ているらしく
メイドにはお手もせず、シッポも振らない
犬って集団の中で順位付けするっていうからそういう事なんだろう
今日はいろいろ決まったり、新しい仲間が増えたりした
これからもM’s cuteよろしくね!
--
魔剣を持つ手が震えていた
まさか炎帝剣のフレアがこんな所で魂を天に帰すことになろうとは!
メイドが召喚したベヒモスは思った以上のデカさと禍々しさだ
イヤリングの効果でいつも以上の戦闘はできるはずだが
こいつは私達なぞ、その脚をひと払いしただけで退ける事ができるだろう
確かにこの場所には抑止力となってくれる番犬が必要との話になった
けれど、まさかこんな厄災級をすぐに召喚するとは思わなかった
ダンジョンマスターのミカリがあまりにもお気楽そうな人物だから
ダンジョンというのを忘れて油断していた
厄災級を討ち取る事はできずとも、せめて一太刀だけでもーーー
「今日から看板犬になったチョコちゃんです」
ミカリはやはりお気楽なダンジョンマスターのようだ
絶望を予感させたモンスターは本物の犬のほどの大きさとなり
シッポを振りつぶらな目を向けてくる
ミカリが「お客様にかわいくご挨拶してね」と言ったのを忠実に守っているのだろう
「ちゃんといい子にできるじゃん」
そう言われて頭をぐりぐりと撫でられて得意げにしている
はたしてチョコちゃんは戦力にはなっても
抑止力になるかどうかわからないが
とりあえず魔剣をしまおう
そしてまだ
「イスが、イスがぁ、」
とうめくローズを連れて街に帰ろう




