第三話『館の中はどうにゃのにゃん!』のその①
第三話『館の中はどうにゃのにゃん!』のその①
ミーにゃんが消えた。この現実に頭が追っつかず、しばし呆然とにゃってしまっていたウチ。ふと気がつけば、みんにゃの視線がこちらへと注がれている。『さぁ、どうするの?』といわんばかりにゃ。
(このままにしておくわけにもいかにゃい)
にゃにはともあれ、ミーにゃんがどうにゃったのかを調べにゃければにゃらにゃい。にゃもんで、ウチは左右均等にゃ姿をしている館の真ん前、見た目にも重々しい黄銅色のドアの前へと立ったのにゃ。
(よぉし、入るのにゃん)
こういう時、気の合う仲間がそばに居るのはにゃんとも心強い。
「ミクリにゃん」「うん。開けよう」
ウチはネコ人型モードで立つと、縦長の玄関錠……いんにゃ。かたっくるしい表現はやめやめ。縦に長ぁい白色のドアノブ、でいいにゃん。
……ということでドアノブに手を伸ばしたのにゃ。どんにゃタイプのモノかといえば、レバー部分を指で押し下げにゃがら、ハンドルを手前に引くことで開く『アレ』にゃん。
(……にしてもにゃ。ノブで白色?
珍しいというかにゃんというか、今の今まで見たこともにゃい)
がちゃ! ぎいぃぃっ!
「にゃ、にゃんと!」
ノブに手が届く寸前、見かけとおんにゃじ重々しい音を立てながら、ドアはいともあっさりと開いたのにゃん。
「どういうことにゃん?」
「多分、『入れ』っていう意味じゃないかな。
ねっ、みんなもそう思うだろう?」
先頭のウチとミクリにゃんに固まるようにゃ感じで身を寄せている他の仲間も一様に、こくこく、と頷いたのにゃ
「にゃら、行くにゃよぉ」
ウチは中へと一歩踏み出したのにゃ。両開き型の窓は全部、木の雨戸……鎧戸ともいうみたいにゃのけれども……で閉め切られていてにゃ。開いたドアから射す三連太陽の光にゃけが唯一の灯りといっていい。
恐る恐る、でもって、一歩一歩足元を確かめるように前進していく。
「……にしても、こんにゃに暗いと」
「どこがどうなっているのか、さっぱりだよね」
当惑するウチら。すると、突然。
ばたん!
「し、しまったのにゃん!」
《ほぉらね。なんでもそろそろ出てくる頃と思ったわぁ。
ひゅうぅ。どろどろどろぉっ。ひっひっひっ。うらめしやぁあ!》
《イオラにゃん。化けネコ相手に、にゃにをやっているのにゃん?》
《はっ! そういえばそうだったわね。
これはお見それしました、先輩。……それとも、師匠のほうがいいのかしら?》
《どっちもごめんこうむるのにゃ。
ああでも……、イオラにゃん、にゃかにゃか似合うじゃにゃいの。
特にほら、目の上の、ぼこっ、と膨らんにゃ辺りから血が、だらり、とたれ下がっているところにゃんか。不気味さに加え、妙にゃリアルっぽさが、これまたにゃんとも》
《ミアンちゃん、有難う。さりげなく傷つけてくれて》
最後に入ったミロネにゃんの話に依ればにゃ。館の中に入って二、三歩進むか進まにゃいうちに、自動的に閉じられてしまったというのにゃん。
「困ったなぁ。こっちまで囚われの身になっちゃったよ」
ぼやくミクリにゃんに続いてウチも、
「おまけに真っ暗にゃん」と戸惑いの声を上げるしかにゃい。そしたら、ウチの言葉を繰り返すかのようにゃミロネにゃんの呟く声が。
「真っ暗……真っ暗……はっ!」
目を大っきく見開いた、と思ったら、ウチらに話しかけてきたのにゃん。
「みんな、変だとは思わないか。どうして真っ暗なんだ?」
「どうしてって…………そういえば!」
ミロネにゃんの疑問符のつく言葉に、真っ先に反応したのはミストにゃん。にゃにかに気がついたようにゃ表情もミロネにゃんとおんにゃじ、と思っていたら、ミリアにゃん、ミムカにゃん、と連鎖反応のようにそれは続いたのにゃ。
みんにゃアホと思っていた。仲間にゃと思っていたのにゃ。にゃのに気がつかにゃいのはウチとミクリにゃんにゃけ。にゃんか置いてきぼりを食らったようにゃさみしい感じにゃ。にゃもんで、ちらちらっ、と目配せをかわした末に下した結論は、
「ミロネにゃん、どういうことにゃ?」「教えてくれよぉ」
教えを乞うしかにゃかった。するとにゃ。ミロネにゃんはこともにゃげに、
「教えるもなにも、オレたち妖体が居るのに真っ暗なんてあり得ないだろう?」
この一言を聴いた瞬間、ウチも『はっ!』と。ミーにゃんから足蹴りを食らったようにゃ、めまいにも似た衝撃を受けたのにゃん。
きっと、ミクリにゃんもにゃ。それが証拠に、
「そうにゃん!」
「そうだよ!」
ふたりで顔を見合わせて叫んにゃのにゃもん。
ウチらは妖体。霊体の一種にゃ。にゃもんで普段でも霊波が自然放出される。淡い光と
ともににゃ。昼間は陽の光で目立たにゃいものの、夜やこうした真っ暗にゃ中では、ちょっとした『灯り』代わりにもにゃる明るさにゃ……のはず。にゃのにどうしたわけか、みんにゃがみんにゃ、これっぽっちも光を放たにゃいのにゃ。
「理由は判らないが、このままじゃあ、前に歩くのすら覚束ない。
小さいもので構わないから霊火を幾つか点けてみたらどうだろう?」
ミロネにゃんのいう通りにゃ。ここを自由気ままに歩くには灯りがにゃくては。
(夜空の下でにゃら星灯りも頼りに出来るのにゃけれども……、しょうがにゃい)
「にゃら、ウチが灯りを」
右前足を引っくり返して肉球を上にする。あとはちょっと心に念じるにゃけ。小っちゃいものなら、ぽんぽんぽん、と続けて五、六個ぐらいは楽に出せるのにゃ。
ところが……その必要はにゃかった。
ぱっ!
これも灯りの一種にゃろうか。館の天井に取りつけられた、まぁるい物が光ったのにゃ。割と大っきにゃサイズで、これ一つで部屋全体が明るくにゃったくらいにゃ。
「霊火にしては眩しいのにゃん」
「本当だねぇ。一体、光源はなんなのかなぁ」
「そんなことより」
ミストにゃんは物珍しそうに辺りをきょろきょろ。
「この館って全体がやたらと白っぽいのね。
棲んでいるのが誰かは知らないけど、潔癖症なのかしら」
ミストにゃんのいう通りにゃ。内側も天井も外壁とおんにゃじ白っぽい色に塗られていたのにゃん。『泥にゃらけににゃってこすりつけてみたいにゃあ』という誘惑に思わず駆られてしまうぐらいに。
《判ったわ!》
《にゃにをにゃ?》
《経った今、悟ったの。ミアンちゃんがなにをいわんとしているのかを》
《またろくでもにゃいことを考えたのにゃん?》
《ううん、どうかしら。『ろく』ではないかもしれないけれど、『なな』ぐらいではあるかもしれなくてよ》
《にゃにをいいたいのか、さっぱりにゃん。
まぁいいにゃん。で? にゃにを悟ったのにゃん?》
《ずばりっ。『綺麗なモノは汚くされるのを待っている』。そういいたいのね。
なかなか意味深だわぁ。ワタシといえども直ぐには否定する言葉が見つからないくらい。
……ということで、さぁミアンちゃん。思い立ったが即実行!》
《けしかけてどうするのにゃん?》
視界が、ぐん、と拡がったところで、あらためて館内を見回してみたのにゃ。
先ず目につくのは……やっぱ玄関ロビーの広さにゃ。『にゃにか置けばいいじゃにゃいの』と余計にゃお世話を口にしたくにゃるくらい、ムダに広いスペースにゃもん。
でもってお次は……そうそう階段にゃ。見たところ、館の左右双方に一つずつあってにゃ。カーブを描くように一階から二階へと、手すりとともに続いているのにゃ。この手すりがまたにゃんとも。階段の両側にて何本もの支柱や手すり子で支えられた様子にゃんか、見た目にも豪華にゃ。そうそう。豪華といえば、これらの柱と柱の間から覗ける赤い敷物のけばけばしさといったら。全体の白さと相まって、にゃんとも際立っているのにゃん。
とまぁこれぐらい……おぉっ、と。うっかりしていたのにゃん。ウチらの真正面、突き当たりと思われた壁に大っきにゃドアが一つあるじゃにゃい。壁とおんにゃじ白さにゃもんで、遠目には判別しにくかったにゃん。
さぁてと。一階をざっと見したあとは二階にゃ。ということで、ええと、一番手前に見えるのは……、ふむふむ。これも手すりにゃ。左右の階段の手すりをそのまま繋げるように端から端まで続いているのにゃん。色も形状も階段のそれとおんにゃじにゃもんで、一体感を覚えてにゃかにゃかよろしい。
そうにゃ。手すりがあるということは、あの下は通路とにゃっているのに違いにゃい。とにゃると、左右二つの階段が上がった先って、どちらも二手に分かれているのにゃ。片っ方はもちろん、手すりの下の通路。でもって、もう片っ方は奥へと向かう真っ直ぐの通路にゃ。ウチの位置からは確認出来にゃいのにゃけれども、左右ともに横壁には窓が覗けるからにゃあ。通路とにゃっているのは、まず間違いにゃいにゃろう。
それからぁ……、目の前の手すりの向こうって白壁しか見えにゃいのにゃあ。一体にゃんのために二階にゃんて……おおっ、と。またまたうっかりしていたのにゃん。こちらも大っきにゃドアが一つあるじゃにゃい。一階とおんにゃじで壁とドアの色が一緒にゃのにゃ。本当、紛らわしいのにゃあ。
(さぁてと。ウォッチングはここまでにしておくかにゃ)
《さて。どうしましょうか》
《精霊の間を模様替えする気にゃら、ミーにゃんとウチの要望もちゃんと聴いてにゃ》
ミクリにゃんが話しかけてきたのにゃ。
「見たところ、誰も居ないみたいだね。どうする? ミアン君」
「そうにゃにゃあ……」
ネコ人型モードで首を傾げて腕を組むウチの前を、ぱたぱた、と白いものが飛んでいく。
「まずはあそこに入ってみたらどうでありますかぁ?」
そういって一階の真っ正面にあるドアを指差すのは翅人型姿の格好をしたミムカにゃん。どうにも気ににゃってしょうがにゃい、といった様子にゃ。もちろん、首を横に振る理由にゃど、ウチにはにゃにもにゃい。というよりもにゃ。みんにゃの手前、考えているフリをしているにゃけで、実はにゃんにも考えていにゃいのにゃ。にゃもんで一も二もにゃく、それでいて多少の見栄も張ってにゃ。
「うんにゃ。にゃらば行くとするかにゃん」と重々しく頷いたのにゃん。
《ワタシ、かねがね思っていたんだけれど……、『うん。判っていた』『君がいってくれるのを待っていたんだよ』『それしかないだろう?』とかってね。本当は、みぃんな知ったかぶりかもしれなくってよ》
《うんにゃ。判っていたのにゃん》
二つ足でドアまで歩くとにゃ。おもむろにドアノブ……これもどういうわけか白色にゃん……へと手をかけたのにゃん。
がちゃがちゃ。がちゃがちゃ。
「ふにゃ?」
がちゃがちゃ。がちゃがちゃ。
「どうしたの? ドアノブ相手に悪戦苦闘しているみたいだけど」
「ミクリにゃん。これ、全然開かないのにゃけれども」
「ふぅぅん。……あっ、そうか」
「にゃにかを思いついたのにゃん?」
(まさか、ミクリにゃんが)
そうは思いにゃがらも一応、尋ねてみたのにゃ。
「あれだよ。やっぱり、ネコだからだよ」
「どういう意味にゃん?」
「ネコってほら。自分の棲み家は別としてさ。よそ様の家に入る時って、開いている戸口や窓から、そっと忍び込むっていうのが普通じゃない?
ドアノブを使うなんてネコにあるまじき所作をやったから、『ダメだよぉ』って拒否されたとボクは看破したね」
「にゃるほど」
「それもそうですね」
ウチに続いてミリアにゃんも異論はにゃいらしく賛成にゃ。
……に対して。
「そういうものかしら?」とミストにゃんが疑問符を。続いてミロネにゃんも、
「どんな理由にせよ、不可解な現象であることは確かだ。
この際、遠慮するという手もあると思うが? なぁミムカ殿」
触らにゅ神に祟りにゃし的発言。でもってミムカにゃんは、といえば、
「ミムカは多様型妖体。良く判らないのでありまぁす」と意見すらにゃい。
(ネコ型とそれ以外ではどうにも、そりが合わにゃいのにゃあ)
《そうだったの。ミアンちゃんはドアを開けて入ってはいけないのね》
《イオラにゃんったら、また妙にゃところに食いついてきたのにゃん》
《ドアだけに、といえないところが悔しいわ》
ともあれ、ミーにゃんをこのままにしておくわけにもいかず、ってことでにゃ。
「でもにゃ。ミクリにゃん。内側の壁にはこのドアしかにゃいのにゃよ。
どうやって忍び込むのにゃん?」
「そこが難しいところだけどね。まっ、『そっと入り込む』の『そっと』を、どう解釈するかで難易度は変わってくると思うんだ」
ますますもっていっている意味が判らにゃい。はて? はて? と頭の上に、『?(はてな)』を増産し続けるウチ。ほかのみんにゃも似たり寄ったりにゃ。それを見て気の毒に思ったのにゃろう。ミクリにゃんは言葉じゃにゃくて、行動で示したのにゃん。
「つまりさ。こういうことだよ」
話すのもじれったいとばかり、ウチとおんにゃじネコ人型モードで立ったミクリにゃん。こともあろうに両手のひらと両目から、小さめの霊光弾をぶっ放し始めたのにゃん。
だだん! だだん! だだん! だだん! だだん!
「いいぞぉ! 最高だねぇ!」
弾丸音とともに、ドアには丸っこい穴が次々と空いていく。しばらくして音が鳴りやんにゃ時には、もう穴ぼこにゃらけ。辛うじてドアとしての体面を守っている、くらいの感じで、見る者の哀れを誘わずにはいられにゃい。
「お母さん、ほら、ボクは頑張ったんだよ」
「エライねぇ。それでこそワタシの息子だよ」
誰かと誰かがそう語り合っているようにも思え、ウチは一滴の涙を……
「これでとどめだぁ!」
ぼがん!
ミクリにゃんお得意の正拳突きが炸裂!
ぼろぼろ。ぼろぼろ。ぼろぼろ……ばっしゃああぁぁん!
……零す前に、白いドアは崩れ落ちてしまったのにゃん。
「ふぅ。せいせいしたぁ。
ねぇ、ミアン君。これって『そっと』のうちに入ると思う?」
「いんにゃ」
ミクリにゃんを除く、みんにゃがみんにゃ、ぶんぶん、と首を横に振ったのにゃん。
たいしたことじゃにゃい、とは思うのにゃけれども……。
しばらくすると、一番後ろに居たミロネにゃんが飛んできたのにゃ。
「これもおかしい」
ミクリにゃんの自慢げにゃ横顔に視線を向けたまま、それと悟られずに、ぽつり、と呟いたのをウチは見逃さにゃかった。
《ダメじゃない。あんなことをさせちゃ》
《イオラにゃんもそう思うのにゃ?》
《当ったり前よ。ここは一瞬で消滅させなきゃ。あれじゃあドアの破片が散らばりすぎて、『あと片づけが大変』って苦情がくるのが目に見えているわ》
《物騒にゃ主婦の発想にゃん》