第九話『ワタガ神、降臨にゃん!』のその⑤
第九話『ワタガ神、降臨にゃん!』のその⑤
いざ、行動開始……の前ににゃ。どうにも心に引っかかるもんが。にゃもんで当の妖精に尋ねてみたのにゃ。
「にゃあ、ミムカにゃん。どうしてミリアにゃんをおぶって進んにゃの?」
「それがですねぇ。こんな風にいわれましてぇ」
『ひとりはみんなの為に。みんなはひとりの為に、ですよ。
あなたがミアンさんの背中に乗って、砂の嵐という苦境を突破したってことは、取りも直さず、ネコ型の妖体が、翅人型の妖体を助けたということです。つまり、あなたはネコ型に感謝しなければなりません。そして私はネコ型です。ゆえに、あなたが私を助けるのは当然のことなのです。つまり、おぶって進んでいくしかないのです。
いいですか? わたしを助けることで、ネコ型の妖体に恩を返す、つまりミアンさんに恩を返したことになるのです。判りましたね?』
「それでまぁやむを得なく、ってわけでありますねぇ。はい」
「にゃんと! ひどいもんにゃ。
にゃあ、ミリアにゃん。あんた、ネコ型妖精として、ちぃとは反省しにゃさい」
「そうですよぉ。ミリアは強引すぎますですよ」
「おや、ふたりがかりで非難ですか?
ひどいのはミムカさんも同じ。お互い様ではないでしょうか?」
「ええっ? ミムカのどこが、ひどいというのでありますかぁ?」
「だってミムカさんはネコ型になれますよね?
それなのにどうして、あの時は翅人型のままだったのですか?
ミアンさんの背中に悠々と乗っていらしたのですか?」
「ご、ごほん! それとこれとは関係ないのでありますよぉ。ねぇ、ミアン」
ミムカにゃんったら、痛いところを突かれた、といった様子にゃ。
(どっちもどっちにゃん。さて、どうしたものにゃん)
灰色の、じゃにゃい、空っぽの脳細胞が働くウチのアホ頭が、一つの答えを弾き出したのにゃん。
「ミリアにゃん、ミムカにゃん。今の話にゃ。館の件が片づいたら、ゆぅっくり、と聴かせてもらうのにゃよ。
あっ、それからにゃ。ことと次第に依っては、ふたりとも『お尻ぺんぺん』にゃから、そのつもりでにゃ」
『ええっ! そんなぁ!』
(んもう。こんにゃ時ばっか、声を揃えて心を揃えて。どうしようもにゃいのにゃあ)
《ミアンちゃん。本当に、『お尻ぺんぺん』したの?》
《ごめんにゃ。こればっかは内緒の話にゃん》
どうしようもにゃい不快は、『にゃおぉぉん!』の気合で吹っ飛ばして。
有言実行。作戦は直ぐに始められたのにゃ。
「それじゃあ、ミムカ殿。よろしく頼む」
「了解でありまぁす!」
ミロネにゃんの言葉に、右手を額に当ててと敬礼姿のミムカにゃん、さにゃがら、『作戦参謀長』と『実行部隊長』のような関係を匂わせる光景にゃん。
(まっ。実際にそんにゃ感じにゃしにゃ)
ふたりが作戦の要であることは間違いにゃい。
そして、あとも一つ、大事にゃことが。
ウチは空を見上げたのにゃん。
(にゃはっ。どうやら、レイアにゃんは約束を守ってくれたようにゃ)
ワタアメ雲が少しばかり前方へと後退したもんで、真上には真っ青にゃ空が拡がっているのにゃ。
「レイアの気が変わらないともかぎりませんです。なもんで即行で始めますですよぉ」
そういってすぐさま、ここが出番とばかり、颯爽と羽ばたいてにゃ。取り戻した空の色へ、溶け込むように身を浮かばせるミムカにゃん。左右の両腕を水平に伸ばし、十字の格好とにゃって目を閉じたのにゃ。口元を見れば、にゃにかを呟いているみたいにゃん。
「ミクリにゃん。あれ、にゃんていってんのにゃん?」
「アホだねぇ、ミアン君も。愚痴に決まっているじゃないの。『なぁんでいっつも自分だけが、ミリアにつきまとわれなければいけないのでありますかぁ』とかさ。
だよね? ミロネ君」
「状況から察するに『呪の詠唱』としか思えないが?」
(どっちが正解にゃん?)
ふたりともそれらしき答え。にゃもんで迷いに迷った挙句が、『直ぐに判ることにゃんん』と逃げの一手を思いついてにゃ。判断を先送りにしたのにゃん。
《ミアンちゃん。時にはね。決断力も必要なのよ》
《にゃら、今のイオラにゃんがあるのも、決断力のおかげにゃん?》
《もちろんよ。……誰のか、は別としてね》
とどのつまりが、ミロネにゃんの『読み』が正しかったのにゃろう。
ぴかぁぁん!
『始まったのにゃん』と思わせる光景が目の前に。ミムカにゃんの身体からほとばしる閃光が、周りの空間を琥珀色に染め上げていくのにゃん。
「にゃんともまぁ張り切っているのにゃん」とウチ。
「張り切りすぎだよ。あれじゃあ、霊力がゼロになっちゃうかもね」とミクリにゃん。
「かもではなく、ゼロだ。間違いない」とミロネにゃん。
「これでミッションが終わらなかったら、どうする気かしら?」とミストにゃん。
「大丈夫ですよ。ミムカさんには私がついていますから」
自信ありげにゃミリアにゃん。ウチは無性にツッコミを入れたくにゃった。
「ついていると、どうにゃるのにゃん?」
「ふれぇっ! ふれぇっ! ミ・ム・カ・さあぁん!」
「誰が胴長短足のネコに、チアリーダーをやれ、っていったのにゃん?」
ミリアにゃんの応援も手伝って(かどうかは、定かではにゃいにしても)、ワタアメ全体が、どんどん、小さくにゃっていくのが、目で見ても、はっきりと確認出来るのにゃ。
「収束を始めたのにゃ」
かくしてワタアメは……ついに母体の身体を真っ白に埋め尽くしたのにゃん。
「さて。どうなるか」
身を乗り出すミロネにゃん。もちろん、ウチらも。気持ちはみんにゃ一緒にゃ。
ここでワタガ神が動きをとめれば、ワタアメを放つのをやめれば、にゃにも起こらにゃいで済むはず。にゃのに、やめる気配は一向ににゃい。
(レイアにゃんったら、本当の本当に、この個体がお気に召さにゃかったとみえるにゃ)
真っ白とにゃった身体が、たちまち、真っ赤に……と、ここまでに留まらず、どんどん濃くにゃって、ついには黒くまでにゃってしまったのにゃ。膨らみ方も、もはやこれまで、と思うくらいにゃん。
多分、それほど時間はかからにゃかったのでは、とは思う。
どっががぁぁん!
すさまじい轟音とともに、ワタガ神は木っ端微塵にゃ。
「にゃ、にゃんと!」
(ウチとしたことが……、
にゃんでこうにゃるって思い巡らさにゃかったのにゃん!)
まさに、後悔先に立たず、にゃん。
衝撃波が大量のザラメやワタアメの欠片を伴って……、
ウチらに襲いかかってきたのにゃん!
ずばばばああぁぁん!
「ふにゃん!」
にゃんあんにも出来ず、頭を抱えてしゃがみ込むのが精一杯のウチにゃん。
《おめでとう! やったじゃない》
《まっ、ウチらが本気を出せば、こんにゃもんにゃ》
《ぷっ。まるでミアンちゃんの手柄みたいね》
《ウチが、じゃにゃくて、ウチらが、にゃから、これでいいのにゃん》
このどさくさ紛れに、というかにゃんというか、あの声が心に届いたのにゃ。
『ふっふっふっふっ。はっはっはっはっ。あぁっはっはっはっ!
やっとここから脱け出せるぞ。
邪霊子を使って、ゲームのミッションを無理矢理こちらへと変更した甲斐があった。全ては我の思い通りだ。
忌々しいが、貴様たちにも恩恵がある。我が残すカギもまた改造済みだからな。自分たちがこれからどうなるのか、楽しみにしているがいい。
ふっふっふっふっ。はっはっはっはっ。あぁっはっはっはっ!』
「レイアにゃん!」
思わず、叫び声をあげたウチ。無意識に身体を揺さぶって、ザラメやワタアメで埋もれた自分を起こしたのにゃろう。気がつけば四つ足で立って、お目目をぱっちり開いていたのにゃん。
ぱっ!
辺りは真っ暗とにゃる。でもにゃ。直ぐに明るさが戻ってきたのにゃ。
「これは……」
ウチの目に映る光景。それは元の真っ青にゃ部屋にゃん。
「ここでのミッションをクリアしたってことにゃの?」
誰ともにゃしに喋った言葉。でもにゃ。みんにゃが反応してくれたのにゃ。
「らしいね。おめでとう、ミアン君」とミクリにゃん。
「やったな、ミアン殿」とミロネにゃん。
「上手くいって良かったわね」とミストにゃん。
「どうでありますかぁ。ミムカの実力はぁ」とミムカにゃん。
「あれっ……。もう終わったんですか?」とミリアにゃん。
「もう、って……、あんたにゃあ」
《あら。もう終わったの?》
《あんたまでにゃにいってのにゃん?》
「モワァン! おめでとうなのわぁん」
ふたりのミーにゃんが、ウチのそばへと並んで飛んできたのにゃ。
(にゃんで身体が分かれるのにゃん?)
もう既に白と黒の二つに分かれている(とかいう話にゃ)のに、新たに緑を加え、三つにまで分かれてしまうにゃんて。
もうにゃにがにゃんにゃのか、さぁっぱりのぱり、にゃん。
尋ねようとしたのにゃけれども、相手の言葉がウチの口を塞いでしまったのにゃん。
「アタシのモワンなら、きっとやってくれると信じていたわぁん」
こっちは緑色で、心底、嬉しげにゃ顔。本物に間違いにゃい。
「なに抱きついているわん?」
こっちは黒色で、戸惑い顔。もちろん、ヤカンにゃんにゃ。
(緑の身体が現われたのは、ひょっとすると、ミーにゃんが元に戻れるっていう暗示にゃのかも)
にゃどと期待は膨らむ。ところがにゃ。
「いい子はおネムるのわぁん。早くおネムるのわぁん」
ヤカンにゃんが、この『おまじない』を唱えた途端、ミーにゃんの上と下のまぶたが、くっつんこしそうに。
「困ったわん。アタシっていい子すぎるから、もう……」
すうぅっ。すうぅっ。
あっけにゃくも、おネムにゃん。
「にゃ、にゃんと! ミーにゃんの弱点を突かれてしまうにゃんて!」
歯がゆい思い。誰かと共有したくてにゃ。
「ミクリにゃん、大変にゃあ。ミーにゃんがいい子すぎるもんにゃから、ほらぁっ。
たちまち寝ついてしまったのにゃん」
懸命に訴えたものの、どうしてかミクリにゃんは呆れ顔にゃ。薄焼きせんべいよりも薄いまなざしをこちらに向けるや否や、
「ねぇ、ミアン君。頼みがあるんだ。
一度でいいからさぁ。ミーナ君の頭を、ぼこっ、とやっていい?」
「にゃんと!」
ミクリにゃんに留まらず、他の友にゃちからもまた、『今こそ日頃のうっ憤を晴らさん』とでもするかの如く、非難の声が、ぶぅぶぅ、にゃ。
「そうね。『いい子』なんて聞いて呆れるわ。爆弾娘がなにをいっているのかしら」
両腕を組んで、ふぅ、とため息のミストにゃん。
「彼女の立場を鑑みれば、『爆弾姫』のほうが相応しい。
もっとも、迷惑この上ない、という点ではどちらも一緒だが」
一も二もにゃく賛成みたいにゃミロネにゃん。
「私は特には。ただちょっと……ムカッ、ときただけで」
ちょっと、の割には、『ムカッ』を強調しているミリアにゃん。
「ミムカも、ちょっと、イライラッ、ときただけでありまぁす」
『イラ』が二つも続いた分、ミリアにゃんよりもイラついていると思われるミムカにゃん。
にゃんとも評判が悪いのにゃ。これらの批判に対するウチの返事はもちろん決まって、
「面目にゃい」
続いて、頭を、ぺこり、にゃん。
《そうなの。いい子すぎると、非難されるのね》
《面目にゃい……って、まずいにゃ。いつの間にか口癖ににゃってしまったのにゃん》
ミーにゃんをおネムさせたはずにゃのに、どういうわけか、ヤカンにゃんも、みたいにゃのにゃ。一つの黒い身体に戻って、部屋の天井近くで仰向けに浮かびにゃがら、すやすやすやすや、おネムにゃん。
(静かでいいにゃん)
にゃもんで、ほったらかしにしておくことに。
部屋は、がらん、のままと思っていた。ところがにゃ。
「あっ、ミアン。あそこの床を見て」
ミストにゃんがネコ差し指で示した先、向こう側の部屋へと続く(かもしれにゃい)ドア近くに落ちているのは銅色のカギ一つにゃん。
「ミロネにゃん。これにゃろ?」
「らしいな。さぁ早くあそこへ」
「うんにゃ。やってみるのにゃん」
カギを拾ったウチは、目の前にあるドアのカギ穴へと差し込む。
(果たしてどうにゃるか)
爆発の際に届いたレイアにゃんの声、にゃんとも思わせぶりにゃ言葉が、まにゃ心に残っているのにゃん。
ドキドキ感が増す中、ウチはカギを右へと。
がちゃり。
「ま、回ったのにゃん!」
先の二回にゃって、回ることは回ったのにゃ。しかしにゃがら結果は……、『通路へ逆戻り』。今回にゃっておんにゃじ目に遭わにゃいとはかぎらにゃいのにゃ。それでも、この瞬間にゃけはどうしても興奮気味とにゃってしまうのにゃん。
《ねぇ。まずは下一桁から調べてみない?》
《にゃんにゃの? その下一桁って》
《もち。当選番号に決まっているじゃない》
《にゃんにゃの? その当選番号って》
《はっ! ……間違えちゃったわ。前の話であの話題が出たから、つい……。ワタシったら知らず知らずのうちに、引きずっちゃっていたのね。
どぉ思う? ミアンちゃん、こんなワタシって可愛い?》
《にゃにがにゃんなのか、さぁっぱりのぱり、にゃん。
とりあえず、今ウチが自信持っていえるのはこれにゃけにゃん》
《あら。なにかしら》
《アホにゃん》
《まぁ》
「いよいよかぁ」
ミクリにゃんを始め、その場に居る全員の期待を背中に感じつつ、ウチはドアを開いたのにゃん。
《通路に戻るのはいいとして、次のミッションはなにかしら?》
《あのにゃあ。『果たして、どうにゃる?』っていう、はらはらどきどき、のシーンをぶち壊してどうするのにゃん?》
《あらまっ。厳しいことで。となると、別な言葉を……あっ、そうそう。これってゲームなのよね? だったら、とぉってもいいのが》
《念のためにいっておくけどにゃ。コンプリートもゲームオーバーもダメにゃんよ》
《だったら、コンティニューは?》
「第九話も、にゃんとか終わったのにゃよぉ!」
「……あとがき、忘れていたのわん?」
「面目にゃい。
でもまぁ第十話が始まる前に書いたってことで、
許して欲しいのにゃん」
「まぁいいわん。
……アタシも、すぅっかり、忘れていたから」
「ところで、と。ねぇ、ミアン」
「みにゃまでいわにゃくても判っているのにゃん。
終わりのあいさつにゃろ?
ごっほん。
にゃら、またにゃあ」
「じゃなくって。第十話はどうなるのわん?」
「それは見てのお楽しみにゃんよ」
「あのね……」
『――ということで、ふたり揃って――
にゃら、またにゃあぁん!』