第五話『ヤカンにゃんのお願いを聴いてみようにゃん!』のその②
第五話『ヤカンにゃんのお願いを聴いてみようにゃん!』のその②
「思えば、あれ以来、ずうぅっ、と、なのわん。
館『カイラ』に尽くす日々を送っていたの」
懐古の念に耽っているようにゃ顔つきと言葉遣い。幼児姿とはどうにも不釣り合いで、違和感を覚えずにはいられにゃい。
《昔のほうが楽しかったわ》
《にゃんで生まれたての子ネコの姿でいうのにゃん?》
「ちょいとお待ちにゃさい。
確か、ヤカンにゃんを倒したのもカイラにゃんっていうんじゃにゃかったっけ?」
「本来であれば、あんまり詳しい話は出来ないのだけどね。でも今なら、いろいろと教えてあげられるわん。彼女って夜になるまでは眠りっ放しだから。
この館そのものが、実は妖魔女カイラの本体なの。
『館には極めて強力な妖魔力が内包されている』なぁんて類の噂を聞きつけて、『それならば手に入れてやる』とばかりに威勢良くここへ乗り込んできた妖魔たちが彼女の獲物。妖魔女の姿で現われて闘い、そいつらの命を奪って自分の力としてきたのよ。
でも今は違うわん。『館のまま、のほほん、とふんぞり返る女主人カイラ様』の目の前で懸命に闘う『下女に成り下がったアタシ』って構図ね。自分の命を守るためにイヤイヤながらも、館に訪れた妖魔らの命を片っ端から奪ってきた、いえ、奪わなければならなかったのわん」
「にゃるほどにゃあ」
「それは災難だったねぇ」
「ご愁傷様というところでしょうか。大変でしたねぇ」
ウチとミクリにゃん、そしてミリアにゃんは同情的発言。ところがにゃ。
「本当かしら。無理矢理、闘わされたなんて」
「話だけではなんともいえませんですねぇ」
「良く聞いてみれば、話の前後がおかしい。妖魔は常に自分の力を高めたいと願うものなのだろう? なのに『その気がなかった』というのは矛盾以外の何物でもない」
ミストにゃん、ミムカにゃん、そしてミロネにゃんと懐疑的発言がつづくのにゃ。
意見が真っ二つに分かれたからにゃろう。再びヤカンにゃんが喋り出したのにゃ。
「アタシは紛れもない被害者なのわん。さっきのケーキ、美味しいと思ったでしょ?
あれがアタシの正しさを物語っているわん」
「ケーキが? それはどういう」
言葉の意味するところを図りかねたらしく、にゃにやら問い返そうとするミロネにゃん。でもにゃ。ウチにはすぐさま、ぴぃん、ときてしまったのにゃ。
「にゃるほど!」
気がついたのはウチにゃけではにゃい。
「うん。間違いないね!」とミクリにゃんがいえば、ミリアにゃんも、
「私は端っから信じていました。この話は本当だと」と肯定の意を口にし、
「うんうん。どうやら真実のようね」とミストにゃんも信じたようにゃ。
「ミムカも頷きますですよ」との声が聞こえたあとには、
「君たち……。そうか、そういうことか。
しかしぃ」
遅まきにゃがらミロネにゃんにも、ヤカンにゃんがにゃにをいわんとしたのか、察しがついたようにゃ。にゃらば、ウチらとおんにゃじ反応をするかと思いきや、さに非ず。『なんでそのくらいのことで』とでもいいそうにゃ不満げたっぷりのお顔にゃん。それでも、自分以外が納得したという『現実』を受け入れたのにゃろう。しばらくしてから不承不承みたいにゃ感じで、
「まぁ君たちがそういうのであれば、オレにも異存はない」
ミロネにゃんが折れたことで、ミーにゃん同盟はめでたく意見の一致をみたのにゃん。
(あんにゃ美味しいものを食べさせてくれるご仁が、悪者やウソつきであるわけがにゃい)
《ごめんなさいね、ミアンちゃん。美味しいものを食べさせてあげられなくって》
《皮肉じゃにゃいって》
ヤカンにゃんも全員が自分を信用してくれたと思ったのにゃろう。話は現状を打破するための手段にまで及ぶこととにゃる。
「とまぁアタシのつらい現状を知ってもらったところで。
ものは相談なんだけどねぇ。どおぉ? アタシにかけられた封印を解いてくんない?
それが出来たら、お礼に、あなた方のお友だちとの分離を約束するわん」
「分離ってそんにゃ簡単に出来るのにゃん?」
「ブラックのアタシとホワイトのアタシが一つになりさえすればね。完全体であれば、不要な妖体とのおさらばなんて、おちゃのこさいさいなのわん」
(不要にゃ妖体にゃとぉ!)
許せにゃい暴言と、いきり立つウチ。
「ウチらには、とぉっても必要にゃのにゃけれどもっ!」
「そ、そうだったのわん。訂正するわん」
「どんにゃ風ににゃ?」
「じゃあ、もう一回ね。ごほん。
ブラックのアタシとホワイトのアタシが一つになりさえすればね。完全体であれば、とぉっても必要な霊体とのおさらばなんておちゃのこさいさいなのわん」
(にゃんてあんちょこにゃ)
「『不要』をウチの喋った『とぉっても必要』に変えたにゃけじゃにゃいの」
「こまかいことをいつまでもぐずぐずいわないで欲しいわん。悪気じゃないってことは判ったでしょ? 訂正もしたんだし、気分を治してもらいたいわん」
《治ったわ。……腰痛が》
《にゃんでこのタイミングにいうのにゃん?》
「全くぅ。……まぁ確かに、ぐずぐずいっている場合でもにゃい。
でもにゃ。封印を解くって、どうやるのにゃん?」
「館の二階はね。部屋が二つあるの。階段を上っていけば、ドアが一つあるから、そこを開ければ、一つ目の部屋には入れるわん」
「お部屋は二つにゃろう? も一つは?」
「それをこれからいおうと思ったの。二つ目は今話した部屋の奥にあるわん。入ったドアの向こう側にもドアがあってね。そこから中に入れるのわん」
「二つ目のお部屋に入ると、どうにゃるのにゃん?」
《ふふっ。満を持して、ワタシが颯爽と降臨!》
《にゃいにゃい》
「部屋の真ん中にね。赤い立方体の箱『パンドラ』が置いてあるの。その中にアタシの静体『ホワイト』が封じ込められているってわけ。だから、箱を壊してくれさえすれば、ブラックのアタシと一つとなって本来のアタシに戻れるの。ここからおさらば出来るのわん」
「それじゃあさ」
話にしびれを切らしたのにゃろう。ミクリにゃんが口を出してきたのにゃん。
「早く二階のドアを開けて部屋の中に入ろう。奥のドアもパンドラとやらもボクの拳でぶち壊せばそれでいいんだから」
「あのね……。それだけで済むのなら、とぉっくの昔にアタシがやっているわん」
「そうかぁ。そうだね」
「最大の難関はなんといっても館の妖魔力ね。
あり得ない現象を起こすことで、奥の部屋に入るのを邪魔しようとするのわん。
「あり得ないって、どんな?」
「いうなれば、館の本領発揮ってとこかな。高位の妖魔ですら成し得ないようなことを、いとも簡単にやってのけてしまうのわん。まぁ具体的にいっちゃうとね。一つ目の部屋に入って幾らも経たないうちに、別の空間へと吹っ飛ばされてしまうのわん。
アタシと闘わせずに、わざと部屋に入らせて、飛ばされた空間で力を奪うなんてことも実際にあったの。ほとんどが行った先で命を落とすんだけど、それでもやっぱり居るのよね。運良く戻ってこられる妖魔って。館にとって都合のいいことにね。そうやって命からがら館から去っていった連中って、みんながみんな、広報の役目を演じてくれるわん」
「ああ、さっきいった噂話って奴だね」
「そりゃあもう、あちらこちらに広めてくれるんだって。そのおかげなのかな。誰も来ない日なんて一度もなかったのわん」
「商売繁盛で結構だね。
ところで、と。今、別な空間に飛ばされる、とかいったよね?
そうなったら、どうやって帰ればいいんだい?」
「飛ばされた先の空間には、奇っ怪獣が居るわん。何体居るか判らないけど、本命は一体しか居ないわん。それを倒せば、元の部屋に戻れるわん」
「倒せなかったら?」
「戻りたければ、倒せるまで闘うしかないのわん」
「まさに前途多難。厳しいなぁ。
じゃあ、本命の奇っ怪獣を倒せば、元の部屋に戻れて、奥の部屋にも行けるんだね?」
「ううん。奥の部屋って強固な妖魔力シールドに守られていてね。そうそう、すんなりとは入れないのわん」
「だったら、どうやって奥に入るんだい?」
「カギを使うの。奥のドアはカギさえあれば、簡単に開けられるのわん」
「どこにあるのさ?」
「それも、さっきいった本命の奇っ怪獣なのわん。
倒すことが出来れば、手に入れられるわん。ただね」
「ええっ。まだなにか条件があるのぉ?」
「奥の部屋を開けることが出来るカギを持つ奇っ怪獣は、たった一体なのわん。何度、違う空間に吹っ飛ばされようが、何体、本命の奇っ怪獣を倒そうが、その一体に巡り逢わないかぎり、倒してカギを手に入れないかぎり、奥の部屋には入れないのわん」
「にゃんと!」
思いもよらにゅ言葉にゃ。黙ってふたりの会話を拝聴していたウチもさすがに叫んでしまったのにゃん。
「なぁんかエンドレスっぽい話になってきたなぁ」
ミクリにゃんもお手上げといった様子にゃ。
「ねぇ、ヤカン君。『ハズレ』のカギを差し込んだらどうなるんだい?」
「それはやってみてのお楽しみなのわん」
「あのにゃあ」
「まっ。その点に関しては心配しなくてもいいわん。
現にアタシだって、こうして、ぴんぴん、しているんだしね」
「じゃあ、君も部屋に入ったことがあるんだね?」
「もちろん、何度かチャレンジしてみたんだけどねぇ。
いまだに、なの。なもんでダメとは思うけど、まぁやってみてよ。健闘を祈るわん」
「そんにゃあぁ」
どうやら、おいそれと事は運ばにゃいようにゃ。前途が開けたのか、それとも閉ざされたままにゃのか、それすらも判らにゃいまま、ウチらは運命の見えにゃい糸に導かれていくしかにゃかったのにゃん。
《そんなに不安がらなくてもいいんじゃない?
未来が判らないのは誰しも同じ。
ワタシだって、……はぁふぅ。よもやこんなワタシになろうとは》
《そのため息の深さが、『期待していた自分』と『現実の自分』とのギャップを如実に物語っているのにゃん》




