第四話『ケーキって美味しいのにゃん!』のその②
第四話『ケーキって美味しいのにゃん!』のその②
「食べるか喋るか、どっちか一つにして欲しいのにゃけれども」
「そうしたいのは……むしゃむしゃ……山々なんだけどさぁ。
喋っている間に、これを食べられちゃう……むしゃむしゃ……恐れがあるからねぇ」
指差したのは減り具合が一番速いケーキにゃ。
「話があるなら……むしゃむしゃ……全部なくなってからにして欲しいなぁ」
「ミクリにゃん……。あんた、さっきからストロベリーにエライご執心みたいにゃのにゃけれども、今、口に入れているので何個目にゃん?」
「ボク? ボクはまだ五個目だよ」
そういいつつも、また一つ手に取ったのにゃ。
むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。
(まにゃ食べ終わっていにゃいのに手を出すにゃんて)
焦りにも似た思いが、ふつふつ、と。
「もうあと一個しかにゃいじゃにゃいの。こうしては」
「ダメダメ。これはボクの」
かたや、口の中が空っぽのウチ。
かたや、ケーキを口にほお張ったままのミクリにゃん。
食べる権利がウチのほうにあるのは火を見るよりも明らか。にゃのにミクリにゃんったら、追撃の手を緩める気は毛頭にゃいとみえる。自分のものにすることにゃけに執念を燃やしているのにゃ。
「これはウチがもらうにゃん!」
そういってけん制するも、
「いいや。ボクが頂くよ!」
と一歩も引く様子はにゃい。
(負けてにゃるものか)
『ウチの』『ボクの』と睨み合ったまま。しばし硬直状態と化したのにゃ。
(譲る気配はこれっぽっちもにゃさそう。とにゃれば、やっぱ早い者勝ちにゃん)
ここから先のことは、はたから見れば、どっちかが片方の真似っ子をしているようにも思えたかもにゃ。にゃんせ、件のケーキへと目を向けて前足を延ばし始めたのも一緒にゃら、『あっ!』と、驚きとも悲鳴とも取れる短い声を張り上げたのにゃって一緒にゃもん。
(まさか、こんにゃことににゃろうとはにゃあ)
思わにゅ落とし穴があったのにゃ。ケーキを狙うはにゃにもウチやミクリにゃんにゃけじゃにゃい。この場に居る全員にゃということ失念していたのにゃ。これが敗因とにゃって、最後のストロベリーは既に他の者の手中に。
《ミアンちゃん、でたらめをいってはいけないわ。ワタシがいつ取ったっていうの?》
《イオラにゃん、誰もあんたとはいっていにゃいじゃにゃいの》
「残り物には福があるとか。
誰も取らないようなので私が頂きますね」
むしゃむしゃ。
「そんなぁ!」
「にゃんと!」
お喋りにうつつを抜かしていたのが仇とにゃってしまった。『漁夫の利』のたとえの如く、ウチらのお目当てはミリアにゃんのお口の中へと運ばれてしまったのにゃん。
(ここは戦場にゃ。気を抜いた者は屍を晒すのみにゃん!)
「負けてたまるかにゃん!」
「ボクだってぇ!」
ケーキ争奪戦が勃発。本来、こういったものはにゃ。誰かが火を点ければ、自然と燃え上がるもの。仲良し子好しのはずにゃったミーにゃん同盟の仲間みんにゃ……妙な状態に陥ってしまったミーにゃんを除いて……が今や敵。『片方の前足で邪魔するものを追っ払っては、もう片方の前足でケーキをつかむ』の繰り返しにゃ。もう誰もが死に物狂いで口に運ぶありさまにゃのにゃん。
もちろん、ウチもにゃ。
(力尽くでも手に入れるのにゃあ!)
《はいはい。ワタシも参戦!》
《もう無理にゃって》
ケーキは次々にみんにゃの口の中へと運ばれていく。みるみる間に数が少にゃくにゃってくる。当然、闘いもどんどん熾烈にゃものに。
「いっち抜っけた」
そういって最初に戦線離脱したのが、『多分、そうにゃるにゃろうにゃあ』と予想していたミロネにゃん。続いて、『わたしも一通りは食べたから』とミストにゃんが、『争いはなにも生みはしませんよ』とミリアにゃんが、それぞれ戦場からの撤退を宣言したのにゃん。
(残る敵はミクリにゃんとミムカにゃんにゃ)
ほぼ同数のケーキを口にしたと思われる強豪三者が睨み合うその前には、銀色の大皿にちょこんと残ったショートケーキが一つにゃけ。しかもにゃ。それはにゃんと、モンブラン。ウチが一番好きにゃもの。でもにゃ。まずいのにゃ。ミクリにゃんもまたストロベリーに次いで好きらしいのにゃん。
横目で、ちらっ、とミクリにゃんの顔を覗いてみた。目がいつににゃく、らんらん、と輝いているのにゃ。『誰にも渡すもんか』との思いが、ひしひし、と伝わってくる。真っ正面のミムカにゃんにしてもにゃ。一歩も譲る気配がにゃい。恐らくふたりから見れば、ウチもそうしたひとりと思う。いずれもが前のめりの姿勢のまま三すくみの状態にゃ。
(勝負は一瞬で決まるのに違いにゃい)
余計にゃ技にゃど一切無用にゃ。誰かが前足を伸ばしたと見るや、思いっ切り振り払う。でもってその余勢を駆って空いているほうの前足でケーキをつかみ、口の中へと放り込むのにゃ。
(これしかにゃい。これしかにゃいのにゃん!)
そして……ついに事態は『静』から『動』へと移ったのにゃん。
真っ先に動いたのはミクリにゃん。『なにがなんでも食べてやる』との意気込みからか、にゃんと、前足を延ばすフリして身体全体をジャンプさせるという、荒技とも姑息ともとれる手段を披露、ケーキへと突進したのにゃ。
「し、しまったのにゃん!」
ウチもミムカにゃんも続いてジャンプ。しかしにゃがら、このわずかにゃ遅れが命取りに。ウチらふたりは示し合わせたかの如く、ミクリにゃんに飛びかかる格好とにゃったのにゃけれども、……ふぅ。残念にゃがら、結果は惨めにゃものに終わったのにゃ。ミクリにゃんは身体を、ぶるぶるっ、と左右に動かしたにゃけ。たったそれにゃけで、ダブル体当たりしたウチらを、いとも簡単に吹っ飛ばしてしまったのにゃもん。
「へへん! どんなもんだい! 百年経ったって君たちなんかには負けないよぉ!」
床に倒れたウチらをあざ笑うは、『ケーキ争奪戦の栄光ある勝利者』とほぼ決まった相手。しゃがみ込む姿勢の割に身体が浮いているのは、賞品のケーキがお腹の下にあるからに違いにゃい。
負けて忌々しい、とか思うところにゃのにゃろうけれども……、さにあらずにゃ。ほのぼのとして、にゃあんとにゃくのいいにゃあ。ミクリにゃんの、ケーキを『庇おうとする』『隠そうとする』『潰すまいとする』姿も、そして心遣いもにゃ。あたかも子供を可愛がる母親のようじゃにゃいの。にゃんともまぁ微笑ましいかぎりにゃん。
(唯一残念にゃのは、ミクリにゃんが『男の子』ということにゃ)
《ミアンちゃんをお腹に下に隠すとなると……、こんな感じかしら?》
《そんにゃに巨大化しにゃくたって》
「さてと。それじゃあ、お宝を」
こちらに視線を向けたまま右前足で探る仕草を見せるも、にゃんかもたつき気味にゃ。
(どうしたのにゃろう?)
ミクリにゃんの顔に『変だなぁ』といわんばかりの表情が。四つ足で、しゃん、と立ち上がると、左右の前足の間を覗き込む仕草にゃ。
「あれっ? ないや。どこへ行ったんだろう?」
きょろきょろ、と首を左右に動かし始めた。顔には明らかに戸惑いの色が浮かんでいるのが見てとれるのにゃ。
「おっかしいなぁ」
そういって首を上へと向けた、途端に、「あっ!」
視線の先には良く見知った妖精の姿にゃ。
「へぇ。これって意外とイケるわん」
宙に浮かんでいるヤカンにゃん……身体はミーにゃんにゃのに……の左手には小皿が、右手には食いかけのケーキがしっかと握られていたのにゃ。顔はと見れば、美味しげな面持ちでほお張っているのにゃん。
でもにゃ。二、三口、ほお張ったあと、はっ! とした表情へと変わったのにゃ。
「アタシ、自分が用意した物をいつの間に? どうして食べているのわん?」
またしても、『覚えがないわん』とでもいいたげにゃ様子。
ふぅむ。二体結合にゃら、あの身体の中にもミーにゃんの意志があるのに違いにゃい。ひょっとすると、普段はヤカンのにゃんの意志に抑えつけられているか、はたまた眠らされているか、のどちらかにゃのかもしれにゃいにゃあ。それが争奪戦を目の当たりにして持ち前の闘争心が目覚め、ヤカンにゃんの意志を振り切って、お得意の念動霊波でケーキを手にした。そんにゃ風にも考えられにゃくもにゃい。
もし仮にそうにゃとすれば……、逆にミーにゃんがヤカンにゃんの意志を抑えつけ、身体の占有権を手に入れてしまうことにゃって決してにゃいとはいえにゃいにゃあ。ウチらがにゃにもしにゃくてもミーにゃんは戻ってこられる。めでたし、めでたし、というわけにゃん。
これはあくまでもウチの見立てにゃ。真実とはかぎらにゃい。でもにゃ。そうあって欲しいとは思うのにゃん。
ミーにゃんの健闘であったことに期待しつつ、床からひょいと飛んで椅子に戻ったのにゃ。そしたら。
「ケーキを取られちゃった……」
ウチの耳に、誰にいうともなしの呟く声が。見上げれば、声の主とウチの、目と目が合ったのにゃ。
「ミアン君。それじゃあ、ケーキ争奪戦の優勝は……」
半ば呆然自失の体。テーブルから見下ろすミクリにゃんの情けにゃい顔つきったら。
(ノーマークの相手に、してやられるとはにゃ。まっ、これも勝負にゃ)
ウチは信じて疑わにゃい。
『ケーキを手に取ったのはヤカンにゃんの意志ではにゃい』と。
にゃらば当然。
「うんにゃ。ミーにゃんの勝ちにゃあ!」
そういって右前足を親友の身体へと向けるウチ。
ぱちぱちぱち! ぱちぱちぱち!
ミーにゃん同盟の誰もがおんにゃじ思いと見え、みんにゃがみんにゃ拍手喝采。
とまぁこうしてケーキ争奪戦は意外にゃ結末で幕を閉じたのにゃん。
《ミーナちゃん、羨ましいわぁ。ワタシだってノーマークだったのに……》
《その場に居にゃければ、どうしようもにゃいじゃにゃいの》
(でもにゃあ。にゃんとも可哀そうにゃ話にゃ)
勝利者のミーにゃん。いつもであれば、『アタシの勝利なのわん!』と息巻いて自慢げに肩をそびやかすのにぃ……。ヤカンにゃんとくっついたが身の不運。きょとん、とした顔をするにゃけ。もし、自分の意識があるのにゃらば、さぞかし無念のことにゃろう。
一方、敗者のミクリにゃん。こちらはもっと悲惨にゃ。勝利者から敗者へと転落。無様にゃ姿をさらす羽目とにゃってしまった。『他の敗者よりも心に痛手を被ったのでは?』と哀れみの情さえ抱くぐらいにゃ。
(どちらにしてもにゃ。報われにゃい結果で終わってしまったのにゃあ)
同情すること頻りにゃん。でもにゃ。ウチ自身については、
「美味しかったのにゃああ!」
舌に残るケーキの味わい、余韻に浸りにゃがら、つくづく思うのにゃ。
『幸せってこんにゃものじゃにゃいの』と。
締めは、ビスケットとやらの山盛りにゃ。薄い黄土色の硬めにゃ生地二つの間に、白いクリームが挟んである。その甘い香りに誘われて、心ゆくまで食べたのにゃん。
(……にしても、『一個足りとも残さず』で終わってしまうとはにゃあ。
おみやげでもくれにゃいかにゃあ)
《ひどいわ、ミアンちゃん。『ワタシの分もとっといて』って頼んだのに。
一番可哀そうで、報われないのはワタシじゃない。……ぐすん》
《にゃから、いつの話と思っているのにゃん?》
《それでそれで? ワタシへのおみやげは?》
《おみやげはウチらにもにゃかったのにゃ。
……っていうか、さっきからいっているにゃろう?
一体いつの話と思っているのにゃん?》
「にゃら、ミーにゃんはどっちにするのにゃん?」
「うぅぅん。迷うけどぉ。
今回はモンブランでいいかなぁ」
「にゃらウチはストロベリーにゃん。
コーヒーはどうするのにゃん?」
「浅煎りのほうで。ブラックで頼むわん」
「ウチは深煎りにゃん。あんまぁくしてにゃ」
「さてと。ケーキをちゃぶ台に置いたのにゃん」
「コーヒーも置いたわん」
「にゃら、座って」
「なら、座って」
「いったにゃきますにゃあん」
「いっただきますわぁん」
ずぶずぶっ。むしゃむしゃ。ごくごくっ。
ずぶずぶっ。むしゃむしゃ。ごくごくっ。
「ふにゃあ。ケーキといい、コーヒーといい、にゃんとも芳醇にゃ香りにゃん」
「うわっ。舌に乗せたら、すぅっ、と溶けたわん。
甘美な味わいに身も心もとろけそうなのわん」
ずぶずぶっ。むしゃむしゃ。ごくごくっ。
ずぶずぶっ。むしゃむしゃ。ごくごくっ。
「ふぅ。ごちそうさま。美味かったのにゃん」
「ふぅ。アタシも遅ればせながらごちそうさま。美味しかったのわん」
「にゃあ、ミーにゃん」
「なに? ミアン」
「せめて今回のお話のあとがきぐらい、こんにゃ風にしたかったにゃあ」
「本当本当。世の中、上手くいかないもんなのわん」