第四話『ケーキって美味しいのにゃん!』のその①
第四話『ケーキって美味しいのにゃん!』のその①
「なぁんかなぁ。居心地がいいような悪いような……」
ミクリにゃんがぼやくのも無理はにゃい。ウチらが今うずくまっている椅子の座り心地にゃけをいうのであれば、ふわっ、と柔らかく、でもって、あったかにゃ温もりまで伝わってくる質感にゃもんで、まっこと嬉しいかぎりにゃん。でもにゃ。それ以外は大いに不満にゃ。そのぉ、にゃんというか、家具が、いや、それにゃけじゃにゃい。部屋全体がオシャレというか、煌びやかすぎるのにゃ。
にゃんとにゃれば、ざぁっ、と見渡したにゃけでも……、大広間の壁、天井、そして床と、どこもかしくも白地に金色の帯が描かれた装いにゃん。綺麗にゃことは綺麗にゃのにゃけれども、いささか単調にゃ絵と目に映るのにゃ。きっと館の主も、『もちっと変化を』と思ったのに違いにゃい。これにゃらどうにゃん、と挑戦するかの如く、赤茶けた色地に銀の帯が施された家具……テーブルや椅子にゃどが、ででぇん、と据え置かれていたのにゃん。
たにゃ、こうした配慮が元で不満も起きてしまったのにゃ。どれ一つとっても際立った色彩にゃのに、対照的にゃ色の組み合わせにしたことで殊更、煌びやかさに拍車をかけた形にゃ。でもっておまけに、部屋と家具のいずれもが丁寧に磨き上げられたかのようにゃ艶のある仕上がり、とくれば、天井の灯りがもたらす強い光に照らされて至るところ、てっかてっか、の輝きとにゃるのも当然にゃ。
(にゃあんか落ち着けにゃいのにゃあ)
気まずいようにゃ、場違いにゃ印象をどうしても拭えにゃい。正直いって居心地が良くにゃい。ネコがくつろぎにくい場所にゃのにゃん。
(目を瞑ればいいのにゃろうけれども、ずうっ、と、ってわけにもいかにゃいしにゃあ)
出来ることにゃら直ぐにでもここから飛び出したい気分。でもにゃ、ミーにゃんをこのままにしておくわけにもいかず、ここは『忍』の一字で、ぐっ、と我慢にゃ。
(『忍』とか『我慢』とか……。ウチ自身がいっといてにゃんにゃのにゃけれども、
にゃんとにゃく自分がネコらしくにゃい気がしてきたにゃあ)
まっ、それはともかくにゃ。
ヤカンにゃんに文句をいいたくても、どうしたことか、またもや姿が見えにゃい。思うようにゃ行動が取れにゃい現状にイライラは募るばかりにゃん。
《ほぉら、ミアンちゃん。精霊の間も、綺麗綺麗に、てっかてっか、にしたわよ。
でも、ワタシが居るから平気よね? 居心地だって最高でしょ?》
《ウチらの要望も聴いて、っていったじゃにゃいの。どうしょうもにゃいのにゃあ。
まぁここはイオラにゃんの棲み家にゃし、どう造り変えようがイオラにゃんの勝手にゃ。
さてと。にゃら、ウチはここいらでそろそろおいとまを》
《えっ。帰っちゃうの?
イヤよ。こんなところにワタシひとりだけ取り残されるのなんて》
《ふにゃ? お荷物をまとめた風呂敷を背負ってどうするつもりにゃん?》
《一緒に逃げましょう。家族じゃない》
《あのにゃあ。こんにゃめちゃくちゃにしたのはあんたにゃろう?》
《それはそうだけれど……、あっ、だったら直せばいいだけの話じゃない。
どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったのかしら。
アホなイオラさん。
思い立ったが吉日、とかいうし、早速、取りかからなくっちゃ。
ほらほら。ぼけぇっ、としていないでミアンちゃんも手伝って》
《とどのつまりが、そうにゃるのにゃあ。ぐすん》
イライライライラ……どこまで続くかと思いきや、『にゃんと!』といわしめる事態が勃発。おかげで溜まりまくった不満を綺麗さっぱりと拭い去るほどの歓喜に、ウチ、いや、ウチらは包まれたのにゃん。
きゅるきゅるきゅる。すたすたすた。
ミクリにゃんがドアを壊したもんで、開けっ広げとにゃってしまった出入り口。そこを通ってにゃんの説明もにゃく現われたのは、『真っ白にゃ身体をした人形』としか表現のしようがにゃい妖しげにゃ連中にゃ。背の高さはウチがネコ人型モードで立った時の二倍以上はあるかも。顔は『のっぺらぼう』といささか不気味。口がにゃいせいもあるのにゃろう。無言のまま、ぞろぞろと五体ほど入ってくる。それぞれが大きにゃお皿その他をワゴン(大ざっぱにいえば、棚が二つある銀色の台車にゃ)に乗せて運んできたのにゃ。テーブルの上はみるみる間に、これらで埋め尽くされてしまう。どれもが銀食器……とウチの目には映ったのにゃ……の為、部屋の灯りに映えて、きらり、と輝く。
本来であればにゃ。ここで誰かに、『あれって一体、何者にゃん?』と疑問をぶつけたり、『また光ものが増えたにゃあ』と嘆いたりするところにゃのにゃろうけれども……、
ウチは今それどころじゃにゃい。いや、ウチにゃけじゃにゃさそう。
『おおっ!』
誰もがどよめきの声を。心ときめく、香りと眺めに圧倒されてしまい、目はお皿に釘づけにゃん。並べ終わった妖しの者らが、『自分らのお務めはこれにて終了』といわんばかりに、これまたにゃんの説明もにゃくドアから出て行ってしまったことすら、気にも留めにゃかったぐらいにゃもん。
《実は、現われた『妖しの者』五体のひとりはワタシだったのです。
……ということで、ネコ知れず登場はしていたのよ》
《その言葉、良ぉく覚えていてにゃ》
……これは余談にゃけれども、あとでヤカンにゃんに尋ねたら、『雑魚キャラなのわん。全然気にしなくていいわん』との答え。あらためていうまでもにゃく、ネコが許容出来る知識や記憶の幅って極めて狭いのにゃ。当然、情報の取捨選択は熾烈とにゃらざるを得にゃくにゃる。にゃもんで、すぐさま記憶の外へとほっぽり捨てたのはいうまでもにゃい。
《雑魚キャラにゃて》
《ごめんなさいね、ミアンちゃん。なにをいいたいのかさっぱりなの。
何分、歳なもんで物忘れがひどくて》
幾つもの熱ぅい視線がお皿へと注がれる中、『そろそろヤカンにゃんが出てきてもいい頃にゃ』と思っていたら……、案の定にゃ。
「えっへん! いぃい? 良ぉくお聴きなさい。
これらはみんな、今や伝説のデザートといわれ、どの世界でもめったにお目にかかることの出来なくなった、『ケーキ』っていう洋菓子なのわん」
まさに、どんぴしゃのタイミングにゃ。予想が当たったのと急に声が聞こえたのとで、思わず身体が、びくぅっ、と。
(ひょっとすると、ウチは『エスパー』にゃのかもしれにゃい)
《にゃあ、イオラにゃん。ウチがにゃにか当ててしんぜるのにゃん》
《だったら今、ワタシが背中に回した右手に握られているものは?》
《そうにゃにゃあ……。うんにゃ! ずばり、ヨモギ団子にゃん!》
《当ったりぃ! はい、これが景品よ。大事に使ってね》
《ハンカチ? にゃら、そのヨモギ団子は?》
《そうそう。忘れていたわ。
このままとっておいてもなんだし、それじゃあってことで、……ぱくっ!》
《にゃ、にゃんと!》
誰しもが一度ぐらいは、『自分は他の者の追随を許さにゃい、特別にゃ超越した力を持っているのに違いにゃい』と考えたことがあるのではにゃかろうか。もちろん、ウチとて例外ではにゃい。しかしにゃがら、ウチには自分を見失わにゃいでいられる、『自分は自分にゃ』と冷静に見つめ直すきっかけを与えてくれる強い味方が居るのにゃ。
その強い味方に今回もまた救われたのにゃ。どういうことかといえば……、
『ウチはエスパーかもしれにゃい。ウチには自分がいまにゃ知らにゃい化けネコパワーが備わっているのにゃ』との空想にまで踏み込んにゃ瞬間、脳裏にミリアにゃんの姿が浮かんにゃのにゃ。
ミリアにゃんとは、妄想癖のあるご仁でにゃ。この友にゃちの、『お出でお出で』の手招きを見た途端、『ダメにゃ。アホにゃらまにゃしも、あそこまでにゃってしまっては』と心にブレーキがかかり、無事に現実思考へと戻ることが出来たのにゃ。
(ふぅ。危にゃいところにゃん)
《ふぅ。美味しかったわぁ。ごちそう様》
《ぐすん。これも冷酷にゃ現実にゃあ。ずずっ。ぐすん》
《あら。もうハンカチが役に立ったじゃない。良かったわぁ。いいものをあげられて》
《……ぐすん》
恐らくは、お皿の中身に目と心が奪われている間にでも現われていたのにゃろう。ヤカンにゃんはウチらの頭上、テーブルの真ん中辺りの宙に浮かんでいたのにゃ。
「それでね。これは『モンブラン』といって味は…………、
でもってあっちは『ストロベリー』で…………」
にゃんか嬉しそうにケーキについての講義を始めたのにゃ。『いかに美味しいか』を特に強調してくるもんで、知らず知らずにうちにヨダレが、たらり、と。
(説明はもういいから早く食べさせて欲しいのにゃけれどもっ)
百聞は一見にしかず、とか。にゃらばウチは、百聞は一口にしかず、といいたいのにゃ。
ずるずるっ。ずるずるっ。ずるずるっ。ずるずるっ。
あちらからもこちらからもヨダレをすする音が。
(気持ちはみんにゃおんにゃじにゃ)
やがて……説明を終えたとみえ、ヤカンにゃんから待望の一言にゃ。
「さぁ。お食べなさいわん」
これが合図とにゃった。椅子の上で『まにゃか、まにゃにゃのか』とうずうずしていたウチらみんにゃが一斉にテーブルの上へと乗って、品定めを始めたのにゃん。
「さぁてと。どれから食べようかにゃん」
お皿ごとに種類の違うケーキが載せられているのにゃ。一つのお皿には八個のケーキ。どれもが食いでたっぷりの大きさで、にゃかにゃかの代物にゃん。
(にゃら早速)
「ウチはモンブランにゃ」
もぐもぐ。もぐもぐ。
「じゃあ、ボクはストロベリーっと」
むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。
「あっ、ミクリにゃんに取られてしまったのにゃ。……こうにゃればウチも」
むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。
「ええと、ミムカはですねぇ。よぉし、これでありまぁす」
かしゅかしゅ。かしゅかしゅ。
「そんにゃあ。チョコレートは次の次に食べるつもりにゃったのにゃよぉ。
……にゃらばウチも」
かしゅかしゅ。かしゅかしゅ。
「オレは果物を、と」
さくさくっ。むしゃむしゃ。さくさくっ。むしゃむしゃ。
「ウチとしたことが……。まさか、ミロネにゃんがこのタイミングでフルーツケーキに手を出すにゃんて。うかうかしてはいられにゃい。ウチも早速」
さくさくっ。むしゃむしゃ。さくさくっ。むしゃむしゃ。
「なら、私はこれにするとしますか」
ぱりっ、ぐにゃ。ぱりっ、ぐにゃ。
「ふにゃん! ミリアにゃんに本命のミルフィーユが取られてしまったのにゃん!
ウチも負けてはいられにゃいのにゃよぉ」
ぱりっ、ぐにゃ。ぱりっ、ぐにゃ。
「わたしは迷わずこれね」
むすゅむすゅむすゅむすゅ。
「にゃんと! 定番中の定番、シュークリームまで奪われてしまうにゃんて!
恐るべし、ミストにゃん。ウチも遅ればせにゃがら口にしにゃいと」
むすゅむすゅむすゅむすゅ。
誰もがケーキに舌鼓を打つ中で、ミクリにゃんの満足そうにゃ声が。
「ふぅ。美味しかった。
ところでさぁミアン君」
くるっ。
名前を呼ばれたもんで、ほお張りにゃがらも顔を横に向けてみたのにゃ。
「にゃに?」
ミクリにゃんがウチを、じぃっ、と見つめているのにゃ。気にはにゃるものの、口の動きをとめるほどの事態ではにゃい。
もぐもぐ。もぐもぐ。
「またモンブランを食べているんだ」
むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。
「うんにゃ。好きにゃもの。にゃにか問題でもあるのにゃん?」
「いや、食べちゃいけない、とかそういうことじゃなくてぇ……。
ねぇ、ミアン君。そりゃあ、種類はたんとあるよ。
でもね。ほら、同じものだってあるじゃないか」
むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。
「うんにゃ。にゃもんで食べているのにゃけれども」
もぐもぐ。もぐもぐ。
「ボクがいいたいのはね。『さっきから誰かが食べるたんびに横からいろいろと口を出してくるけどさぁ。そんなに目くじら立てて吠えなくてもいいんじゃないかなぁ』ってこと。
大体……ちょっと待って……むしゃむしゃ。むしゃむしゃ……直ぐにそうやって追い駆けるみたいな感じで同じものをほお張っているんだから……むしゃむしゃ……不満なんてなんてどこにも……むしゃむしゃ。むしゃむしゃ……ないんじゃない?」
「あのにゃあ」
一つの言葉の中に咀嚼の音が割り込んでくるもんにゃから聴き取りにくく、話の内容もさっぱりにゃ。
《ミアンちゃん、お願いぃっ! ワタシの分もとっといてぇ!》
《無理にゃん。一つ残らず平らげたのにゃもん。
そもそも、いつの話と思っているのにゃん?》