第三話『館の中はどうにゃのにゃん!』のその③
第三話『館の中はどうにゃのにゃん!』のその③
ウチは顔を上に向けて目を瞑ったのにゃ。途端に、『ヤカン』にゃんの喋ったことが頭の中を駆け巡る。
「ええと……この子……この子、と」
脳裏に、ぐにゃぐにゃ、としたものが現われたのにゃ。おまけに、ぼんやり、としか描かれていにゃいもんで、にゃにがにゃんにゃのかさっぱり。でもにゃ。それが一つの形を成していくにつれ、くっきり感も増してきたのにゃ。
「ひょっとして……ミーにゃん?」
「あのねぇ。ちょっと長すぎ……じゃいけないんだっけ。
うぉっほん。ひょっとしなくてもそうなのわん。館に突っ込んできただけならまだしも、選りにも選ってよ、アタシの核とまでぶつかってしまったのわん」
「ぶつかって、どうかにゃったのにゃん?」
「どうかなったもクソもないわん。前代未聞……かもしれないわん……の二体結合妖体となってしまったのわん!」
「ねぇねぇ、ミアン君」
口を挟んできたのはミクリにゃん。どうしてか、にやにやとした表情にゃ。
「今の聞いた?
二体結合だって。ふふっ。なんかさぁ。イヤらしい響きを感じるなぁ」
(どさくさ紛れに、にゃんてことを口走っているのにゃん)
「ミクリにゃん。それは考えすぎというものにゃよ」
鼻であしらうかのように、このひとことで済まそうと思ったのにゃ。ところが、『沈黙は金』にゃのに、ヤカンにゃんまでもが要らにゅ反応をする始末にゃん。
「そんなことないわん! アタシだって女の子なのわん!」
誤解を解こうとしての弁明かもしれにゃい。でもにゃ。それが返って火に油を注ぐが如く、にやにや感を増す結果とにゃったのは、かえすがえすも残念至極にゃん。
「ふふふっ。こういうのを『語るに落ちた』っていうんじゃないかなぁ。
どっちかといえば、そのほうが断然イヤら……うおぉっ!」
どがっ!
あまりにうるさいもんにゃから、ちょいと黙ってもらうことにしたのにゃ。
にゃにをしたかといえば……、前方へと軽くジャンプして、前足が下で後ろ足が上という、身体を斜めに浮かせた格好に。前足が床に着くと、すぐさま蹴って今度は後方へとジャンプ。この勢いを駆って身体は斜め上へとすっ飛び、想像たくましい誰かにゃんの顔面へ、後ろ足二つに依るダブル蹴りを食らわせたのにゃん。
ひゅぅぅっ…………べちっ。
(哀れにゃもんにゃ)
仰向けに吹っ飛ぶ相手。勢いが尽きると、こちらに背を向けた姿で真っ逆さまに床へと激突。頭から落ちたせいにゃろう。首がほぼ45度の角度で曲がっている。にゃもんでか、お喋りが一切聞こえてこにゃい。
(おとにゃしくにゃったにゃ。さてと。それにゃら)
今一番考えねばにゃらにゃいのは、『二体結合』という極めて特異にゃ状況下に置かれてしまったミーにゃんのこと。
(親友の一大事にゃ。にゃんとしても救わねば)
《二体結合ってこれかしら? アンドゥ、トロ、ワァ》
《ウチを背中に張りつけて、にゃに、くるくるっ、と回っているのにゃ》
かっか、と燃え盛る友情の炎を心にたぎらせにゃがら、ヤカンにゃんとの意見交換を再開したのにゃ。
「ウチのほうもそれでは困るのにゃ。にゃにか分離する方法はにゃいのぉ?」
「ないこともないんだけど……、それを話す前に知ってもらいたいことがあるわん」
「にゃにをにゃ?」
「アタシってね。身体を二つに分けて行動することが多いの。一つは今喋っているこの黒い身体で『ブラック』って名前。こちらは『動体』の身体で今みたいにお喋りしたり、動き回ったりすることが出来るわん。でもって、もう一つは白い身体で『ホワイト』って名前なの。こちらは『静体』。『ブラック』とは違って喋ることも、身動き一つすることもなく、ただじっとしているだけ。その代わり、宿主を自分の手足として自由自在に操れるってわけ。
身体が一つであろうと、二つに分れていようと、本来の姿であれば、あなた方の手のひらに乗るくらいの小さな霊火でしかなかったのに……。くっついてしまったせいね。ご覧の通り、今は、『凛としていて可憐でおしとやかで美しすぎる乙女』となってしまったのわん」
(形容詞をやたらとつけているのにゃあ。
にゃんか自分を評価しすぎのきらいがあるのにゃけれども)
《そうよね、ミアンちゃん。ぷんぷん!
ワタシへの評価を勝手に使うなんて許せないわよね》
《原形にゃしの変幻自在にゃお方が、にゃにをいっているのにゃん?》
「ええっ!」
ウチらからちょっと離れた先で驚きにも似た叫びが。『にゃにごと』とそちらへ向いたら、……いつの間に復活したのにゃろう。ミクリにゃんが首を45度に傾けたまま、びゅうぅん、と目にもとまらにゅ速さでこちらへと駆け寄ってきたのにゃ。
「ふふっ。ツッコミどころ満載だねぇ。
誰が凛としていてぇ? 誰が可憐だってぇ?
誰がおしとやかだってぇ? 誰が美しすぎるってぇ?」
ウチとヤカンにゃんとの間に割り込むや否や、またまた口を挟んできたのにゃん。
にゃもんで当然、
ひゅぅぅっ…………どがっ!
またまた後ろ足でダブル蹴りにゃん。続けて、『これがトドメ』とばかりに顔面へと拳を振るおうとしたところにゃ。どうしたわけか今回はヤカンにゃんも協力。ウチも予想外の同時攻撃に。二つの力が相まって今度は天井までひとっ飛び。哀れミクリにゃんは『大』の字とにゃって、めり込んにゃのにゃ。
「……おや? 今アタシってなにをしたわん?」
自分の握った拳を目の前に、きょとん、とした顔。どうやら、殴った自覚がにゃいらしい。
(まぁそういうこともあるのにゃろうにゃあ)
ウチはこうみえても理解あるネコ。自分でやっておきにゃがら、『どうしてこんにゃことをやってしまったのにゃ』と嘆いたり、『どうしても想い出せにゃいのにゃん』と綺麗さっぱり忘れたり、にゃどの事態は、誰しもが生きていく上で多かれ少にゃかれあるものにゃ、と心得ている。にゃから少しも気ににゃらにゃい。にゃもんで、『ヤカンにゃん。あんたはにゃ』と事情を説明してから、ふたりで天井を見上げたのにゃ。
《ワタシも想い出せないことがあるの。自分にとって都合が悪ければ悪いほど》
《都合の悪い、って覚えているじゃにゃいの》
(今度こそミクリにゃんも当分は静かにしてくれるにゃろう)
並んで合掌したあと、ウチは再びヤカンにゃんと向き合う。
「それで? 肝心要の『ホワイト』にゃんは、どうにゃっているのにゃん?」
「実はある事情があって、宿主を操る霊力が思うように使えないばかりか、ブラックのアタシさえも近よれない、応答することも叶わない、っていう『ないない』づくしのありさまなのわん。これではたとえアタシにその気があったとしても、あなた方の『ミーにゃん』とやらを元の妖体に戻すなんて夢のまた夢。当たり前に考えれば、あれこれ思案するより、諦めたほうが賢明かもしれないのわん」
「そうにゃの……」
がっくり、にゃ。にゃって進もうとしていた道が閉ざされてしまったのにゃもん。
「にゃら諦めるしか……」
とぼとぼとぼ。
「ちょ、ちょっと待つわん。何故にしょげた格好で立ち去ろうとしているのわん?」
呼びとめられて、はっ! としたのにゃ。
友情の炎もどこへやらにゃ。すっかり意気消沈してしまった心は、自分でも気がつかにゃいうちに四つ足を帰り道へと進めさせていたのにゃ。
「にゃって今いったじゃにゃいの。諦めたほうが賢明って」
「諦めるのが早すぎるわん。もっと粘っこくしつっこくの生き方をしたほうがいいわん」
「それって『諸刃の剣』的考えにゃ。度を越すと、誰からも嫌われる存在とにゃるにゃけにゃよ。もしも、あんた自身がそういう性格にゃら、少しずつ治していったほうがいいと思うのにゃ」
《さぁミアンちゃん。諦めるのか。それとも粘っこくしつっこくか。
どちらの生き方を望むの?》
《うぅぅんとぉ。理想でいえば、真ん中ぐらいかにゃ》
《まっ、意外と平凡》
《そういうイオラにゃんは?》
《そうねぇ。真ん中ぐらいかしら》
心優しいネコの忠告。にゃのに、相手は気にも留めていにゃいようにゃ。
「あのね。いつから友だちづき合いについての議論となったわん?
そうじゃなくって。ああ面倒くさい。要するにね。アタシもこのままじゃ困るからなんとかしたいと思っているのわん。ぶっちゃけた話、さっきの『諦めたほうが』は、あなた方をこちらのペースへと誘い込む為の方便。アタシの言葉を聞いて『そんにゃあ』って抗議の声を上げたら、『でしょ? だから物は相談なんだけどね』と話を続けるつもりだったのわん。それなのに、さっさと諦めてどうするわん? アタシの努力はどうなるの? って泣きたいわん」
(ネコに向かって長々と、にゃにをわけの判らにゃいことを喋っているのにゃん)
「あのにゃあ。そういう小細工はネコには向かにゃいと思うのにゃ。意図したものと反する結果とにゃるのがオチにゃよ。さっきもいったと思うのにゃけれども、にゃにを喋るにしてもにゃ。相手のことを良く考えてからでにゃいとダメにゃの」
「……のようね。学習したわん」
「うんにゃ。いい返事にゃよ。『大変良く出来ました』のハンコを押して上げたいくらいにゃ」
《あらっ。ニャムネちゃんのハンコの話を、それとなく、さりげなく、持ち出したわね。
ひょっとして、にゃあまん『ウチもミーにゃん』の宣伝のつもり?》
《あんたが指摘した時点で、
『それとなく』でも、『さりげなく』でもにゃくにゃってしまったのにゃん》
ヤカンにゃんは呆れ顔にゃ。
「ここは幼稚園じゃないって。まぁいいわん。じゃあ、単刀直入にいうけどね。
どう? アタシと取引をしない?」
「取引? 一体にゃにを?」
「こちらが出す要求を受け入れてくれるというのであれば、特別の温情をもってなんとかしてあげてもいいわん」
(おおっ。今までににゃい前向きにゃ発言にゃ)
「本当にゃの? どうすればいいのにゃ?」
「まぁ立ち話もなんだからテーブルへ座って。
お茶でも飲みながら、今後について語り合おうわん」
(にゃんとも妖しい物言いにゃん)
そうは思うものの、ミーにゃんが囚われの身に等しい立場にある今、申し出を断わるわけにもいかにゃい。
(とはいってもにゃ。ウチが勝手に決めるわけには……)
一緒に居る仲間の顔をひとりひとり見にゃがら、思いを口にしたのにゃ。
「にゃあ、みんにゃ。お願いがあるのにゃけれども」
「ミアン君。みなまでいう必要はないよ。気持ちは判っているから。
なぁみんな」
誰もが一様に頷いてくれた。
(いい友にゃちを持ったにゃあ)
「有難う、みんにゃあ」
こうしてウチらはヤカンにゃんに案内されるがまま大広間の中へ。据え置かれた大っきなテーブルへと向かったのにゃん。
《あっ、ミアンちゃん。こっちこっち》
《現場がこんがらがるから、次の話が始まる前に出ていってにゃ》
「これにて第三話も終了にゃん!
……とはいってもにゃあ。ミーにゃんが居るわけでもにゃし。とほほにゃん」
「はぁい、ミアン。お待たせぇ。ただ今参上なのわぁん」
「ミーにゃん。ちと早すぎるのにゃけれども」
「それがねぇ。あれこれ考えてはみたんだけどぉ。
やっぱ居るのに居ないフリなんて無理わん。
アタシはミーナ。ミーナらしく生きたいのわん」
「やれやれ。しょうがにゃい。にゃったら奥の手にゃん」
「奥の手? どうする気なのわん?」
「夢の中でミーにゃんを探し回ることにしたのにゃ。
いやあ、大変にゃん。無事にミーにゃんと逢えるといいにゃあ。
にゃら、ミーにゃん。行ってきまぁすにゃん」
すうぅっ。すうぅっ。
「夢の中で? そんなこと都合良く出来るはずも……し、しまったのわぁん。
きっと第三話が終了するタイミングを狙っていたのわん。
全てはおネムに入るための一芝居。口実に違いないわん」
「むにゃむにゃ。ミーにゃん。とぉっても綺麗にゃん」
「あらまっ。寝言でも正真正銘の事実をいっているのわん。
どうしようかなぁ。
折角綺麗なアタシに逢えたのに、起こしてそれを台なしにするのは心が痛むわん。
親友としてあるまじき行為なのわん。
ええい、しょうがない。今回は大目に見てあげようわん」
すうぅっ。すうぅっ。
「ふふっ。いつもへらず口を叩いているのに、寝顔はとおっても可愛いわん。
ああでも……、今回はどれくらいおネムなのかなぁ?」