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第三話『館の中はどうにゃのにゃん!』のその②

 第三話『館の中はどうにゃのにゃん!』のその②


 器物損壊とか、いろいろと問題がある行動にゃのにゃろうけれども、まぁやっちゃったものはしょうがにゃい。

(ネコにゃもん、大目に見てくれるにゃろう)


《うふっ。見てあげます》

《あんたにいわれてもにゃあ》


 ウチの脳裏に有り難い言葉が浮かんでくるのにゃ。

『過去は過去。綺麗さっぱりと忘れるわん。

 大事なのはこれからよ。そう。未来へと向かって進むのわん!』

 ミーにゃんが定番とするこの口癖を胸に後ろめたさを払拭。かつてドアのあったその先へと一歩踏み出したのにゃ。

「ずいぶんとまぁ……、でかいねぇ」

「でかいにゃあ」

「でかいのよね」

「でかいな」

「でかいでありまぁす」

「でかいですね」

 みんにゃがみんにゃ、『でかい』を連発。大広間とでも呼ぶのにゃろうか。玄関のロビー以上の広さがある部屋の入口に、今ウチらは固まっているのにゃん。


《むっ。ワタシも負けられないわ。

 どう? ミアンちゃん。これぐらいでかくなれば……おぅおぅおぅおぅ》

《無意味にでかくにゃってどうする、って、あんた……ふにゃっふにゃふにゃ》

《か、身体のバランスが……、

 ミアンちゃん! 避けて! 早く避けてぇ!》

《ふにゃあああ!》


 ぱたぱたぱた。ぱたぱたぱた。

 突如、どこからともにゃく翅を背中につけた小っこい生き物が飛んできたのにゃ。真っ黒のペンキで全身を塗りたくられたようにゃその姿は、『いじめにでも遭ったのにゃん?』と見ていて気の毒に思うくらいにゃ。

「こらぁっ! アタシの館でなにをしているのわん!」

「ミーにゃん!」

 目の前に現われた、『可愛い』が頭につく顔と容姿は、紛れもにゃくウチの親友にゃ。

 ……身体の色を除けば、という条件つきでにゃ。

「ミーにゃん、どうしていたのにゃ? 心配していたのにゃよぉ」

 ウチが語りかけるもミーにゃんの、むぅっ、とした表情は変わらずにゃ。でもって可愛い口から零れた言葉も不可解極まりにゃいもの。

「へぇ。この身体の持ち主は『ミーにゃん』っていうんだ」

「いうんだ、って……、あんたは『ミーにゃん』にゃろう?」

「違うわん。アタシの名前はヤドカリン」

「ヤドカリン? にゃんとも妙にゃ名前にゃん」

「そおぉ? 長ったらすぎる名前からかなぁ。

 もし気に入らないなら、『ヤカン』って短く呼んでくれても構わないわん」

「あのにゃあ」


《ワタシも短くしようかしら。『イオラ』を『イオン』って》

《おんにゃじ三文字にゃ》


(『ヤカン』でいいにゃんて……。

 どうやら、名前にこだわらにゃい性格のようにゃ。ウチとはちと違うにゃあ)

 ミーにゃんはウチを本来の名前『ミアン』とは呼ばず、『モワン』と呼んでしまうのにゃ。困ったもんにゃ。『もうこうにゃったらウチのほうが妥協して』と考えにゃいでもにゃいのにゃけれども、『いやいや、ここは踏ん張らにゃいと』との思いがそれを押し留めているといった状況にゃん。

(でもにゃあ。幼児期を終えるまでにはにゃんとかしにゃいと……。

 おぉっ、と。未来のことはさておきにゃ)

 にゃんか話したがっているみたい。にゃもんで、取り敢えずは当たり障りのにゃい言葉をかけてみたのにゃん。

「ヤカンにゃんって何者にゃん?」

「知りたいのわん?」

 にゃんとも思わせぶりにゃ発言。にゃもんで反射的に、

「いんにゃ」

 ウチは首を横に振ってみせたのにゃ。するとにゃ。

「あぁん、ダメなのわぁん。ここは『知りたいのにゃあん!』といって欲しいわぁん」

 本物とは明らかに違う大人びたようにゃかすれた声色。とはいえ、喋り方はおんにゃじにゃのにゃ。

(くくぅっ。ウチの泣きどころを突かれてしまったのにゃん)

 悲しいかにゃ、ウチはミーにゃんのおねだりにとぉっても弱いのにゃん。にゃもんで、反射的に、つい、こくり、と。

 ヤカンにゃんは、この反応にすこぶる満足したようにゃ。

「えっへん! 良ぉくお聴きなさいわん。アタシの正体。それは……、

 じゃっじゃっじゃあぁん!」

(声の伴奏つきにゃん)

「妖魔界からの来訪者。要するに妖魔女なのわん。もっとも、妖魔と一口にいってもピンからキリまで色々あってね。アタシ自身は寄生タイプ。実体霊体問わず、ありとあらゆるものを宿主とすることが出来るのはもちろん、宿主となった者の身体や能力の一切を自分のものとして扱うことが出来る能力も持ち合わせているのわん」

「にゃんと!」

 にゃにをいわれても動じるまい、と構えていたのにゃけれども。

(まさか、妖魔とはにゃあ)

 魔力にゃるものが扱える妖体がどこかの世界には居る、と話には聴いていたのにゃ。でもにゃ。まさか自分自身が出会うことににゃろうとは。驚きつつもウチの心は喜びに躍らずにはいられにゃい。

(これは千載一遇のチャンスかもにゃ)

 ミーにゃんのこともそれはそれで心配にゃのにゃけれども、一度芽生えた好奇心には勝てず、といった具合に、自然と質問の対象はヤカンにゃん自身のほうに。

「ピンからキリまでって、あんたはどこら辺にゃ?」

「それがね。キリもキリ。オオギリまで出来てしまうくらいの最低ランク……ごっほん。

 気にしないでいいわん」

(ずいぶんと口が軽そうにゃ妖魔にゃ。

 大体にゃ。『気にするにゃ』の一言でごまかせると本気で思っているのにゃん?)


《にゃあ、イオラにゃん》

《あら、なにかしら?》

《どうして急に尻尾を生やしたのにゃ?

 どうして尻尾の先がウチの顔にゃのにゃん?》

《ミアンちゃん。気にしないで》


 どうやら触れられたくにゃい話題のようにゃ。まぁ『キリもキリ』とにゃれば無理もにゃい。ウチにゃって、『どこまでアホにゃの?』と追及されたら、ちと困るもんにゃ。

(うんにゃ。ここは一つ話を変えたほうが良さそうにゃん)

「来訪はいいとしてにゃ。どうやってこの村に来たのにゃん?」

「天外魔境を利用したのわん。なんといっても手っ取り早いしね。

 もっとも……、宿主のほうは直接、自分で探し回ったわん。妖魔境界を通り抜けて、あちらこちらの世界へ。そりゃあもう手当たり次第にね。

 アタシが棲みたいのは強い霊力を持った宿主。理想をいえば、どんな妖魔と争っても互角に渡り合えるぐらいの。でもこれって際限がないのわん。『これなら』っていう宿主を見つけて、しばらく棲んでいてもね。『他にもっといい物件があるんじゃないのかなぁ』との考えが、むくむく、と頭をもたげちゃうの。で、とどのつまりが宿主を捨てて、また物色。気がついたら行く先々で、『見つけて棲んでは、また捨てて』の繰り返し。宿主を転々と変えていろいろあった挙句、辿り着いたのがこの館。でもあいにくとね。いろいろとあったから、いろいろと問題も起きてね。『なんとかしなきゃ』ってことで、館ごと天外魔境を通ってここに来たってわけ。

 どう? 判ってくれたわん?」

(こんにゃ説明で判ったら、天才にゃん)

「肝心要のところがイマイチにゃ。

『いろいろ』ってにゃにがあったのにゃん?

『いろいろ』にゃ問題って?

 あとそれから、

『なんとかしなきゃ』って、ここに来ればにゃんとかにゃるのにゃん?」

 ウチの続けざまの質問に対して、

「あっ。そこはこっちの事情だから気にしなくてもいいわん」

 と、またもや、『気にしないで』でかわされてしまったのにゃん。


《にゃあ、イオラにゃん。

『いろいろあってね』とか『気にしないで』って言葉、どう思うのにゃ?》

《どうしてその二つなのかしら?》

《にゃあんか、どちらも会話が続けにくくにゃるのにゃよ》

《いわれてみれば……、確かに、『これだけいえばOK』みたいなところがあるわね。

 あと、『それ以上は詮索しないで』っていう意味にもとれるし。

 一種の思考停止に陥るわ。あまり使わないほうがいいかもしれないわね》

《ウチも慎まにゃいと。……にしても、イオラにゃんとは気安く話せるのにゃあ。

 にゃんでそんにゃにフレンドリーにゃのにゃん?》

《いろいろとあってねぇ》


「とまぁそんなわけで悩んだ挙句に閃いたのが、妖魔界でも噂の『天外魔境』。分岐点まで行って、一つのお願いを念じたら、ここへの道標みちしるべが開かれたのわん」


 天外魔境。……聴けば、自分の行きたい場所を願うにゃけで、そこへの入り口を開いてくれる空間にゃとか。『こんな感じの場所に』とか『これこれの望みが叶う場所なら』にゃどの漠然とした行き先でも幾つか提示してくれるという。もっとも、行く先は具体的であればあるほどいいらしい。あまりに漠然としたものにゃと、意にそぐわにゃい場所へと導かれる危険も十分あるとのこと。まっ、当たり前といえば当たり前の話にゃのにゃけれども。

 願いごとを叶えるには天外魔境を管理している精霊『フィーネ』にゃん……『天空の村』の六大精霊のひとりであり、時たま開催される森の学校の先生でもあるのにゃ……の棲む『分岐点』に辿り着く必要があるらしい。ところがにゃ。そこまで行くには猛烈な霊力線の嵐が吹き荒れる中を通らねばにゃらず、並大抵の霊体では無理とのことにゃん。にゃもんでウチ自身も今まで入ったことがにゃい。

(まぁ入る用事もにゃいのにゃけれども)


《ミアンちゃん、こっちこっち。非正規ルートなら楽々よ》

《んにゃことをして、フィーネ先生にゃんに文句いわれにゃいのにゃ?》

《ふふっ。実はそれが目当てなの》


「それにしても困ったわん。『どうしてくれる』って責めたいわん。本当に」

 眉間に皺を寄せて呟くヤカンにゃん。にゃあんかイラついているみたいにゃん。

「一体誰を責めたいのにゃん?」

「決まっているわん。この子よ」

 そういって指差したのは自分のほうにゃ。

「あんたがあんたを責めてどうするのにゃん?」

「違うわん。アタシとくっついてしまったこの子なのわん」

「この子? はて?」


 ウチは顔を上に向けて目を瞑ったのにゃ。途端に、『ヤカン』にゃんの喋ったことが頭の中を駆け巡る。

「ええと……この子……この子、と」

 脳裏に、ぐにゃぐにゃ、としたものが現われたのにゃ。おまけに、ぼんやり、としか描かれていにゃいもんで、にゃにがにゃんにゃのかさっぱり。でもにゃ。それが一つの形を成していくにつれ、くっきり感も増してきたのにゃ。

「ひょっとして……ミーにゃん?」

「あのねぇ。ちょっと長すぎない? ずいぶんと時間が経ったわん。

 大体それ以外、どう考えるというのわん?」

(やれやれ、にゃん)


《イオラにゃん。ウチは『ミーにゃんにゃあ!』と看破したのにゃよ。

 にゃのににゃんで、こんにゃいわれ方をしにゃくてはにゃらにゃいのにゃん?》

《判るわぁ。ミアンちゃんの気持ち。

 どうしてみんな、ワタシという不確定要素を見過ごしたりするのかしらねぇ。

 ちゃんと厳しく取り締まらないと、あとあと面倒なことになるっていうのにぃ。

 ……って、あら、いやだ。これってワタシ自身がいうセリフじゃないわね》


「ヤカンにゃん。どうやらあんたはネコとのつき合いが足りにゃいようにゃ」

 ウチは柄にもにゃく説教をすることに。

「誰もが自分とおんにゃじレベルではにゃいのにゃよ。常に相手の立場に立って物事を考える配慮がにゃくてはにゃ。ましてや対象がネコにゃら尚更。それが出来にゃくて親しくつき合っていくことにゃど、とうてい不可能といわざるを得にゃいのにゃん」

 ぽんぽん、と右前足の肉球で床を叩きつつ、こんこん、と説くウチを見つめるヤカンにゃんの顔には戸惑いの色が。

「ええと……、要するに、『あのねぇ。ちょっと長すぎない?』からやり直せ、と?」

「まぁそういうことにゃん」

 口をとがらせている顔を見るに、『不満がありあり』にゃのは一目瞭然。それでも、『ここは逆らわないほうが賢明』と悟ったのに違いにゃい。しぶしぶ、にゃがらも、『判ったわん』と頷いたのにゃ。

「にゃら、早速やり直しにゃん!」


《ワタシはどうなのかしら?》

《どうって? にゃんのことにゃ?》

《もうかれこれ二百年ぐらいにはなるかしら。別にこれといった配慮なんてしていないけれど、ミアンちゃんとこうやって親しくつき合っているじゃない。

 ほら、今も二度目の抱き締め、ぎゅうぅぅっ、と》

《ふぎゃああぁぁ!》


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