予知能力者
抹殺人フクロウの前に強敵が現れた。
それは予知能力をもつ男、先を予知されてはフクロウも迂闊に動けない
その名は梟 予知能力者
闇夜に羽音を立てず獲物を抹殺する。人はこう呼ぶ、その名は梟。
若頭の村田とその舎弟数人が、ある事件(第1話 恨み節参照)で命を落としたそうだ。
松葉組会長、松葉征一郎は都内の寺で四十九日法要を行なっていた。
村田達が命を落としたのは、ある取引の事だった。
だが、その取引は法に触れるものであり、警察にも届ける訳にも行かず病死として死亡診断書を組の息の掛かった医師に書かせた。その法要に系列の組の者たち参列していた。その中の一人、葉桜会会長の大場武則が松葉に声を掛けた。
「兄弟、その犯人はまだ判らないのかい」
「大場の、これまで調べた結果、一匹狼の殺し屋じゃないかとまで判っているんだが、今どきヤクザを相手に殺しを目論む者が居るのかい?」
「一匹狼の殺し屋? 噂では聞いた事がある。なんでも梟のように羽音を立てずに忍び込み、闇夜に葬るという奴を……」
「なに! そんな奴が居るのか?」
「ああ、奴に睨まれた最後、ヤクザでも震え上がるほどの腕らしい」
「そうか、でなければ村田ほどの男がやられる訳がない。多分そいつかも知れんな」
「おいおい、そいつに報復しようってのかい」
「俺だって組員を八十人ほど抱える組長だ。若頭がやられたってのに、このまま仇も討たずに、のうのうとしていたら示しがつかんでのう」
「兄弟がそう言うなら反対はしないが、で、どうやって相手を探すんだ」
「それが大場の。面白い男がうち〔組〕に居るんだ。留田半治って奴だがな。これが危険を感じると鳥肌がたったり、肌が痒くなったりするそうだ」
「ほう……なるほど、じゃ兄弟の傍に居たら危険を察知するんだな。まるで予知能力じゃないか」
「まあそう言う事だ。だから俺に近づいたらすぐに判るって訳だ」
「なら安心だな。しかしその男をどうやって捜すかだな」
それから一ヵ月後、系列以外の谷田部組長が射殺された『第2話 それぞれの卒業参照』情報を得た。その男は、どこから忍び込んだのか突然、組長宅に現れ、子分どもの目の前で射殺されたらしい。子分どもが慌てて応戦しょうとしたが、庭の木がバサッ揺れたかと思うと、梟が飛び立ちように闇夜に消えたそうだ。チラッと見たが、その目は狼のようで黒装束で長身の男だったと言う。子分どもは目があった瞬間、凍りつくような凄みがあったそうだ。
「おまえ等なんとしても、その男の情報を仕入れろ。村田の為にもな。それと半治、おめえの危険予知は肌でしか感じないのか?」
「へえ……生まれた時から親父やお袋が、飛行機事故に合いそうになった時にジンマシンが出来て、親父やお袋に、出掛けるのを止めたら、その飛行機が乱気流に巻き込まれて沢山怪我人が出たことがありました」
「ほう……じゃ村田の時は、なんで気が付かなかったんだ?」
「へえ若頭とは一緒じゃなかったから何も感じませんでした」
「じゃあ俺と一緒なら危険を肌で感じるって訳だな」
「へえ、それは間違いないです」
「で、相手が近づいたら、どんな奴かも判るのか?」
「それりゃあ無理で。危険が迫った時にだけ鳥肌が立ったり、予知として、痒みが出てきて湿疹が出来たりしますけど」
「まぁいい。お前もその特殊な予知能力をもっと磨け。いいな!」
しかし、磨けと言われても留田半治は返答に困った磨きようがない。
エステサロンに行って磨いたって意味がないと笑うしかなかった。
それから一週間後、新たな情報を掴んだ。早速、松葉組々長に報告された。
「組長、その梟とか名乗る奴ですが、こんな記事を見つけましたぜ」
{梟への願い TEL〇〇〇・・・・・・}
「なんだ。この二行記事は? これがどうかしたのか?」
「へえ、この記事が出た数日後、若頭が殺されたのと、最近谷田部組長が射殺されたのも、似たような記事の数日後です」
「てっことは、奴とコンタクト取るに利用出来るって訳だな」
「へえ、その通りです」
「よし早速、その広告を載せろ。場所は晴海ふ頭の夜十二時だ」
翌日、二行の新聞広告が載せられていた。記事に書いてある電話は松葉組々長が世話しているクラブのママの電話番号だった。
二日後、梟からそのママに電話が入った。夫がヤクザに襲われて監禁され金を要求されていると伝えた。救い出して欲しいとの依頼をした。
その梟の返事は、数秒間の間を置いて、「分かった」の返事だった。
そのママから連絡を受けた松葉組々員二十数名が、晴海ふ頭に待機していた。
深夜の十二時が迫った頃、留田半治の体に異変が起きた。
「かっ痒い、誰か現れた……」
「半治! 奴が来たんだな?」
「へえ間違いありません」
「よし! てめいら! 奴が来たらしい。見つけしだい撃て」
ママとの電話の会話には、晴海ふ頭にある三号倉庫らしいと告げた。
梟は、三号倉庫だなと確認したそうだ。
それを聞いて、青葉組長は陣頭指揮をとって子分を配備していた。
そして予定の深夜十二時になった時、一台の乗用車が倉庫の前に入って来た。
「奴ですかね? 車を蜂の巣にしてやりますか?」
「いや、ちょっと待て! 半治どうなんだ。何か感じるか?」
「へぇそれが、痒みが治まって来ました」
「何、痒みが収まった? じゃあ、あの車は誰なんでえ、こんな夜中に車が入ってくるなんて誰か様子を見て来い!」
青葉組長に命令された一人が、恐る恐る車に近づいた。
「おい! こんな所になんの用だ。帰えんな! あれママ?」
「梟と名乗る男から車を渡され、着いたらこの確認ボタンを押せと言われたの」
「で、つの野郎の顔は見たのか? 駄目でした。物陰に隠れ車のキーを放り投げてよこしたの、そしてこう言ったの」
『入金は確認した。約束通り実行に移しか、この車で第倉庫に向かえ。最後のハンドル脇のボタンを押せ、着いたという合図になる』
「じゃママ押してくれ」
組員が頷いたのでボタンを押すと、後ろのトランクが跳ね上がり突然火柱が上がって、周りが真昼のように明るくなった。どうやら照明弾が打ち上げられたようだ。
「なっなんだ! ヤバイ罠かも知れん。組長を守れ!」
倉庫一帯が真昼のように明るくなり、隠れていた子分数十名と組長の姿が浮びあがった。その時だった。海に浮ぶボートから一瞬、小さな炎が見えたと思った瞬間、松葉組長はもんどりうって倒れた。眉間にポツンと穴が開いて即死だった。やがて周りが暗くなり、遠くでモーターボートが遠ざかって行く音がした。
子分達は呆然と立ち尽くして、ボートを眺めていたが、やがて闇に消えた。
ママがトランクを覗いてみると一枚の紙切れが置いてあった。
『無駄な小細工は、よした方がいい。依頼主の身元を調べてから行動するのがプロの務めだ。それに受け答えの微妙な電話の声で罠だと察知した。俺にも本能的に予知能力が多少ある。二度と馬鹿な真似はするな。次は命がないと思え 梟』
ママはそれを読んで震え上がり鳥肌がたった。
了
例え予知されようと、その上を行くのがフクロウ