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その名は梟     作者: ドリーム
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第1話(恨み節編)

スナックの店主 幸子が脅された。

今の彼と別れて俺の女になれたと迫られた。

 闇夜に羽音を立てず獲物を抹殺する。人は彼をこう呼ぶ、その名は梟。


 ホテルの一室で数人が言い争いをしていた。

「おい! お前はこの女を誰だか知って手を出したのか!!」

 「そっそんな。手を出すだなんて俺は幸子さんが好きだから……」

 「ほう、愛している好きだから笑わせるな。おい幸子! この男がそんな事を言っているが。いいのか?」


 「ほっ本当です。義彦さんと私は愛し合っています」

 「なんだとガキじゃあるまいし。お前! 若頭を裏切ろうと言うのか、えーどうなんだ」

 「待ってください。若頭の村田さんには確かに親切にして貰いました。でも私は村田さんのモノではありません。お店では世話になっていますが」

 「てめぇ! 若頭が、ただで面倒みるとでも言うのか。良く考えてみろ」

 「それじゃあなんですか。最初からそのつもりで私に……」

 「最初からとは、どういう意味だい。人聞きが悪い事いうな!」

 「だったら義彦さんと私が、恋愛関係にあったって自由じゃないですか」

 「ふざけるな! それじゃどうしても若頭のツラを汚しってんだな」


 幸子は小さなスナックを経営していたのだが、ここは新宿界隈の一角。当然にみじかめ料(用心棒代)を取る組織がいる。もちろん表向きは、おしぼり業者とか名前を変えて法外な金を取る。その中には用心棒代も含まれていて、揉め事があった時に若い者が駆けつけて治めてくれるが。事があるごとに金を吸い取られる仕組みだ。

そこに松沢組の若頭である村田が、幸子に目をつけていたのだ。欲しいと女は必ず手に入れる。

 まず幸子のスナックでひと暴れする。これが数回続けば他の客が寄り付かなくなる。

 暴れた客は組が送り込んだ仕掛けと呼び、その仕掛けを同じ組の者が追い払い助け船を出す。

 当然、礼金を取る。次に若頭が乗り込み俺に従えば商売も上手く行くと、仮の女になれば心配ないと引き摺り込まれれば、もはや蟻地獄となり全てを吸い取られる。 


 「まぁいいや幸子。強がりもそこまでだ。この色男は連れて行くぜ。まあ良く考える事だな」

 「まっ待ってよ! 義彦さんに何をするつもりなの?」

 「それはお前次第だ」

 「止めて!! 連れて行かないで」

 男達三人は義彦を連れて、ホテルの部屋を出て行った。


 それから幸子は店を休業して、必死に義彦の行方を探した。

 五日目にして幸子は店を開けたが、心は沈んだままだ。義彦が未だに行方知れずだからだ。その店に若頭の村田が舎弟を連れて現れた。

 「むっ村田さん。彼をどうしたんですか」

 「ああ心配ない今の処は元気みたいだが、それもお前次第だ」

 「それ、どう言う意味? 嫌よ、わたし力づくでは動かないわ」

 「そうかい……お前がそうなら仕方がないな」

 村田に逆らう者は容赦しない。舎弟の手前もある、舎弟ともども怖さを見せつける。


 数日後、幸子のスナックにダンプカーが突っ込んだ。幸子は幸いにカスリ傷程度だが、客の数人が重症を負った。

 ダンプカーの運転手は泥酔状態で運転して居た為に衝突のショックで即死した。

 だが、その運転手は幸子が探していた恋人の義彦だった。

 無理やり強い酒を飲まされ、ほとんど意識のないまま運転席に座らされた。

 まさに泥酔事故に見せかけた計画的な殺人だった。

 あれは事故じゃないと警察に訴えたが、状況からして計画的な証拠はないと却下された。

 幸子は自分の命の危険を感じ、店を閉め横浜に住む親友、丸山仁美のマンションに転がり込んだ。

 「幸子、一体どうしたの。何があったの?」

 「仁美、わたし悔しい。彼がヤクザに殺され、店もメチャクチャにされたわ。もう私は生きる望みもなくなったわ」

 「馬鹿なこと言わないで。まだ三十になったばかりなのに元気出して。きっとまたやり直せるから……ね」

 「ありがとう仁美。 暫くここに置いてくれる。そして私に万が一の事があったらこれで……お願い」


 それは幸子が今まで貯めた三千万円の入った大型バックだった。

 「何を言ってるの、ここなら誰にも分からないわ。心配しないでよ」

 仁美は証券会社に勤めていて、幸子をなだめてから仕事に出かけた。

 夜になって幸子は新宿にある、クラブの入り口の脇に立っていた。

 店はメチャクャにされ恋人まで殺された。もはや刺し違えても村田を殺そうと思った。

 暫らくすると村田が舎弟二人を連れて出て来た。幸子は村田に向かって走った。

 体当たりしたように見えたが、右手にはナイフが握られていた。

 村田の腕から血がしたたり落ちる。

 「てめぇ! よくも若頭をやってくれたな!」

 幸子の命がけの復讐も虚しく終り、せめて彼の仇をと思ったのだが叶わなかった。

 その翌朝、横浜港の桟橋から溺死体で、幸子が発見された。

 警察の発表では酒に酔って港に落ちた、溺死事故であると報じられた。


 幸子から私に何かあったらと頼まれていた事を実行に移した。

 親友の死を知った仁美は、噂で聞いた方法である人物に連絡を取った。

 数日後、新聞の三面記事の下に二行広告が載っていた。

 (梟への願い。TEL○○〇・・・・・・・・)

 横浜は山下公園。ひと気も少ない夜の十一時だった。

 「お願いします。私の親友の敵を取ってください。彼女から預かった金で彼女の無念を晴らして下さい」

 抹殺人・梟は、新聞記事の以来を受けて仁美と待ち合わせしていた。

 「いいだろう……抹殺の条件はあるか?」


 「特にないですが幸子の恨み節を、その男に聴かせてください」

 「親友というなら信用して引き受けよう」

 「あっありがとう御座います。怖い人かと思って足がすくんでいたのですが貴方は優しいんですね」

 「ふっ……人によるがね。分かっていると思うが他言無用だ。それと裏切りは死を意味する」


 一方、幸子を合法的に殺した村田達は。

 「若頭、少し勿体ない事をしましたね」

 「バカヤロウ! 少しくらい、いい女だったら新宿には山ほどいるぜ」

 「ハッハハ それもそうですね」

 「まぁいい、それより今日の取引は、抜かりがないんだろうな」

 「大丈夫です。江戸川の河川敷に夜十二時です」

 その河川敷に若頭の村田と舎弟三人が、取引相手を待っていた。

 「若頭、あれじゃないですか?」

 遠くから一台の乗用車がライトをパッシングしながら近づいて来た。

 「間違いありません。合図を送っていますから。こっちも合図します」

 舎弟は同じようにライトをパッシングさせた。


 その車から長身の男が一人出て来た。夜だと言うのにサングラスを掛けて服装はすべて黒で総一されていた。

 まるで夜に溶け込むように……そして獲物を狙う梟のように。

 「待たせたな。でっ、そっちのブツを見せてくれないか」

 「あんた? 見慣れない顔だな。一人で来たのか? いい度胸じゃないか」

 「いや……仲間人三人は後部座席とトランクで眠ってるぜ」

 「なに!? どういう事だ」

 「こう言うことだよ」 バシッ バシッ バシッ バシッ

 サイレンサー付きのベレッタM92が、闇夜に一瞬光った瞬間だった。三人は一瞬にして倒れた。村田は急所が外れたのか油汗を流して、その男を見た。

 「心配するな。てめぇの舎弟は気絶して寝ているだけだ。だが思えは地獄行きだ」


 「誰だ。お前は? なんの恨みがあって」

 「恨み? 恨まれるのはお前だろう。俺はそんな奴を抹殺する闇の梟だ」

 「なに!? お前があの抹殺人のふくろう……誰の依頼だ」

 「人の恋人を横恋慕。あげくに二人とも殺してしまうとはな。俺も悪党だがてめぇ程じゃないぜ。女には優しくするものだ。それから彼女の遺言だ。お前に〔恨み節〕を聴かせてやってくれってな」


 「ちょちょっと待ってくれ! 頼む後生だ。死ぬ前に依頼主の名前を……」

 「なぜ拘るんだ。今更聞いてどうする?」

 「もしかして丸山仁美という女ではないか」

 梟は驚いた。依頼主をなぜ知っているのかと。

 「どう言うことだ。なぜ彼女を知っている?」

 「それは……」

 「なるほど。だがなぁ、お前の罪は消える訳はないぜ」

 村田は車に乗せられて、暗闇の川の中に沈んで行く。

 村田は、まだ生きていたが動けず断末魔の叫びをあげて生き地獄を味わいながら、やがて車は川底に消えていった。


 翌日、リンビングでグラスを片手に夜九時のニュースを見ていた。

 「流石ね。抹殺人ふくろう……か」

 そう言って呟き、一人でニヤリと仁美は微笑んだ。

 その隣には、残りの千五百万の現金が置いてある。

 「幸子も、お人よしね。何処で情報を手に入れたか私も村田には証券会社の金を操作した事で村田に脅かされていたのよ。だから幸子には悪いけど、矛先を貴女に向けさせたの。それで村田の脅しも和らぐと思って、多分あなたは私の所にやってくると思っていたわ。でも現金までを私の所に持って来るなんて、お人好しもいい処よ」


 その時だ。ドアの方から僅かに風が入って来たような。

 いや正確にはドアが開けられた時の微風だった。

 「だれ!?」

 「ノックなしで失礼するよ」

 「あっ? 貴方は……どうやって鍵を開けたの」

 「梟は羽音を立てずに忍ぶ込む事が出来るのさ」

 「なっなんで!? ニュースを見たわ。お金が足りないと言うの」


 「お前も大した女だな。ヤクザを騙して俺まで欺くとはな」

 「わっ私、なんの事か……」

 「残念だったな。村田が死ぬ間際に言ってたぜ。幸子を殺す前に村田がお前の事を全部しゃべったそうだ。それで幸子は裏切れた事を知り、せめて死ぬ前に妹に伝えてくれとな。村田も悪党だ。親友同士恨み合えばいいと。妹に親友の裏切りを伝えたそうだ。」


 「チッ村田も心底悪党ね。……もしかして私を殺しと言うの? ねぇ依頼がないと人は殺さないじゃないの? そうでしょう」

 「だから依頼主は居るよ。幸子の妹だ。幸子のスナックがあった場所で依頼を受けたのさ。抹殺してくれってな。依頼金はそのバックだ」

 「なっこれは私の金よ! でも私は人を殺して居ないわ。利用しただけじゃない」

 「一番信頼している親友に、裏切られて死んで行った人間の気持がお前には分かるのか? 信頼を裏切る事は例え女でも死に値するぜ」

 「やっ止めて!!」

 バシッ~鈍い音が部屋に響いた。

 「お前も裏切られ死んで行った、幸子の怨念の恨み節でも聴くんだな」



5話程度を予定しております。

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