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94 理想郷

「このライフブロックにな、やってほしいことを書き込むんよ」


 お婆さんは、竹串か何かでレンガに何がしか文字を彫り込んでいる。

 表面はけっこう柔らかいのだろうか。


「そして土に放るんよ」


 するとレンガを核に土が集まり、大きく盛り上がって、それがだんだんと形を整えて人のシルエットを成す。

 再びゴーレムが現れた。


「こうなったらゴーレムは、書かれた命令通りに動いてくれるんよ。さ、乗りんさい」

「え? 乗る?」


 お婆さんは既に、ゴーレムが差し出した手を伝って肩へと昇っている。

 お年を召したわりに身軽な人だ。


「家まで運んでくれるようにお願いを書き込んだんよ。アンタさんも街に向かうんやろ? 普通に歩いて行ったら日が暮れるけえ」


 たしかに、今日一日かけてイシュタルブレストに到着するつもりが、お婆さんと話し込んでいて大分時間が経ってしまった。

 このままでは大分手前で日が落ちて真っ暗になってしまうだろう。


「…………」


 お言葉に甘えることにした。


              *    *    *


 ゴーレムは傍目にこそ緩慢な動きに見えるが、そもそも巨体なために歩幅も広く、そのため人間の足より遥かに早く目的地に達することができた。


 地都イシュタルブレスト。


 ずっと遠距離からでも圧倒されるように見えていた大樹が、間近でならなおさら圧倒される。

 これが問題の、グランマウッド。


「見上げてもてっぺんが見えない…………!?」


 さらに幹の太さは……、おそらく切り株にしたら、その上にアポロンシティにある光の大聖堂が余裕で乗っかるぐらいに広いだろう。

 実際広がる根などを含めたら、イシュタルブレストの総面積の一割は、あの木で占められていると思われる。

 しかし、それ以外は何の変哲もない木だ。少なくともこうして見ただけでは。

 これがモンスターという世界規模災厄の元凶、四体のマザーモンスターの一体であるなど、俄かに信じがたい。


「どうだあ? すげえ木様だろ?」


 お婆さんが、ここまで送ってくれたゴーレムを再び土くれに戻し、残ったブロックを懐に仕舞う。


「オラどもの自慢のタネだよ。世界中どこ探しても『御柱様』よりデケェ木はねえ」

「みはしらさま?」

「街のモンは皆そう呼んどる。人さに恵みを与える偉ぇ木様だからの」


 また視線を感じたので見回してみる。イシュタルブレストの街中は、農場にいた時にも増して多くのゴーレムが行き交っており、荷物を運んだり、人を運んだり、家屋を修復したり、そのすべてが甲斐甲斐しく働いている。

 つまり、本当に、ここでは……。


「……人とモンスターが、共存している?」

「それもこれも『御柱様』のおかげよ」


 とお婆さんはちょっぴり誇らしげに言う。


「旅の人、こっから見えるかの? 『御柱様』の表面に張りついとる人がおるじゃろ?」


 お婆さんから示されたところに目を凝らすとたしかに。太く大きな木の表面に人らしきものが取り付いている。

 ロッククライミング? イヤ、相手は木だからウッドクライミングか?

 とにかくどうやってあんな高さまでよじ登ったんだ、という高度に人がいて、……何をしているんだ?


「これを取っとるんよ」


 とお婆さんは例のレンガを示した。


「え? じゃあ……!?」

「このライフブロックは、『御柱様』から出てくるんよ。木の表面から迫り出してきての、最後には地上に落ちてくる。でも落ちるに任せて人の頭にでも当たったら危なかろ? それで教団のモンが、ああしてもうすぐ落ちそうなものをあらかじめ回収して回っとるんじゃよ」


 そして何より、お婆さんからの証言で一つの確信がとれた。

 ゴーレムは間違いなく地属性のモンスター。そのゴーレムの核となるライフブロック。そのライフブロックを生み出す大樹。


 あの大樹は『モンスターを生みだすモンスター』、マザーモンスターで間違いないということだ。


「……ん? 待ってください?」


 僕はある部分に引っかかって、尋ねる。

 いまだ木の表面で作業している人を指さし……。


「ああして木からライフブロックをほじくり出してる人。地の教団の関係者って言いましたよね? では、あの木は地の教団が管理してるってことですか?」

「ああ、そうさね」


 その時、また視線を感じた。

 イシュタルブレストに近づく辺りから、頻繁に正体不明の視線を感じるようになっている。


「よければ、地の大紅宮まで連れて行ってあげようか?」

「えっ?」


 大紅宮? 地の教団本部のことか?


「ここまで旅人さんが来なさるのは珍しいからねえ。教団の人さも外の話を聞きたいからって、旅人さに会ったら連れてくるよう日頃から言ってるのさ。宿やメシさも用意してくださるし、アンタさにとっても悪い話じゃねえよ」


 たしかに。

 この都市で何が起こっているかを知るためにも、地の教団と接触することは不可欠だろう。


「では、お言葉に甘えて。……すみません、何から何までお世話になって」

「いいんだよ。オラさにも孫がいてね。今は離れて暮らしているけど、こうして見ず知らずの人に親切にしていれば、あの人も見ず知らずの人から親切にしてもらえるだろうと思ってさ」


 ……あー。

 やめてください。

 故郷の父さん母さんを思い出して泣きたくなりますから。

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