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93 ゴーレム

「危ない!!」


 僕は駆け出し向かう。

 老婆と、それを今にも踏み潰さんと脚を上げる巨大土人形。

 詳細は不明だが、アレがモンスターであることは間違いない。

 何とか間に合って、お婆さんと土人形との間に割って入る。


「あんれまあ……」


 背後にお婆さんの声。

 迷っている暇はない。モタモタしていたらお婆さんはじめ周囲にも被害が出る。暗黒物質を一挙に最大放出し、土人形を跡形もなく消し去る……!

 と思っていたら、ゴッ、と背中に衝撃が。


「ぐぼッ!?」


 何者に背後から殴られた。しかも的確に背骨を狙ってこられたためにヤバめの軋みを覚えつつもんどり倒れる。


「誰だか知んねえけど危ねえよー、急に飛び出してきちゃー」


 殴ってきたのはお婆さんだった。

 持っている杖で一撃、と言ったところか。しかもその杖が想像以上のしなりだったようで、走る痛みに体が動かない。

 そうこうしている間にも巨大土人形がこちらへ迫ってくる。

 ドシンと、踏み下ろされる足が、半分近く土に沈む。

 マズい。このままでは僕もお婆さんも、コイツの足の裏にへばりついてしまう……!?

 そう思った矢先だった。

 土人形は僕もお婆さんも素通りして、あらぬ方向へと言ってしまった。


「……え? アレ?」


 土人形はしばらく先へ行くと、くるりと踵を返し、こちらへ戻ってくる。


「ヒィッ!?」


 今度こそ踏み潰されるかと思いきや、やはり土人形は僕たちを素通りし、しばらく行ったらまた引き返して……、を繰り返した。


「この畑はさ、去年まで休ませとったのよ。そんで今年からまた何か植えようってなってな、その前に土さ混ぜ直さんといかんね」


 お婆さんが訛り交じりの口調で言う。


「あの子さに任しといたら、ホント楽さね。足の裏がギザギザなっとってね、その足で歩き回るだけで土が耕されるんよ。なのにアンタ、いきなり前さ出て邪魔したらいかんよー」


 アレ? 何か僕、怒られる流れになっている?


「で、でもアレ、モンスター……?」


 背中の痛みがまだ引かないために、口調がたどたどしくなる。

 見た目アレだが、凄まじい膂力。これが農婦の底力か……?


「……? もしかしてアンタ、お客さんかね?」

「お客さん?」

「外から来た人のことだよ。ここのことを知らない人は、いの一番にアレに驚くからねぇ。あの子な、ゴーレムつうんだよ。地母神様のお恵みさあ」


 と、お婆さんは指さす。いまだ耕地を続けている巨大な土人形を。


「……ゴーレム?」

「そうさあ。ホレ、あっちにもそっちのもおるべえ?」


 お婆さんがアチコチ指で指し示すと、たしかにそこには巨大な人影が、土を耕したり、水路を掘ったり、収穫を手伝ったりと畑の中で忙しなく働いている。

 ゴーレムとやらは大きさ以外人間とほぼ変わらないシルエットなので、平坦な農地では、却って遠近感が狂って気づかなかった。


 しかし……、え? ゴーレム? でもモンスターだよね?

 モンスターが、農作業の手伝い?


              *    *    *


「あんれまあ、勇敢な若者さんだこと」


 あれから少しの時間が経って、やっと背中の痛みが引き、僕はお婆さんからお茶をご馳走になっていた。

 ゴーレムの耕地を傍から眺めながら。


「オラさがゴーレムに襲われてると勘違いして助けに入ったわけかい? そら悪いことしたねえ。あんがとよお」

「いえ……、結局僕の勘違いだったわけですし、こちらこそお騒がせした挙句、危うく作業の邪魔までするところで……」

「いいよいいよぉ。こんなババアでも、若い男から大事にしてもらうのは嬉しいさね。ホラ、漬け物もお食べ」

「い、いただきます」


 勧められるままに飲んでは食う。

 青い空に、何処までも続く緑の平地。耳に入る雑音と言えば、一人黙々と働くゴーレムの手足の軋みだけ。

 なんと長閑な空間なのだろう。

 視線を感じて見上げてみる。上空に、タカかワシだかの猛禽の影があった。畑の中を走り回るネズミでも狙っているのだろう。


「でもまあ、外から来た人は大体驚くさねえ。人とモンスターが仲良うしとるってよ」

「本当に、人を襲わないんですか? あの……、ゴーレム?」

「ああ、あの子もアンタさんと同じぐらい、いい子さね」


 耕地が終わったのだろうか。

 今まで前後に決まった向きしか歩かなかったゴーレムが、初めてその線を横切り、こちらへ向かってきた。


「はいよ、ご苦労さん」


 目前まで来るとゴーレムはひとりでに止まり、それを受けてお婆さんはゴーレムの体に何やらガサゴソ触れだした。

 すると……。


「うわッ!?」


 いきなりゴーレムの表面に細かいヒビが走り、しかもそれが全身を覆って、ついにはボロボロの土くれとなって崩れ去った。


「なんだ!? 何が起こった!?」

「落ち着きんしゃい若いの。仕事が終わったんで休んでもらっただけさね」


 というお婆さんの手には、一個のレンガが乗っていた。

 あんなものついさっきまではもっていなかったはずだが……?


「これがゴーレムの正体さね」


 え? このレンガが?


 後に聞いた話ではそのレンガの名はライフブロック。もしくはゴーレムコアとも呼ばれる。

 この世界でたった一種の地属性モンスターなのだそうだ。

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