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89 母を訪ねて

 ちょっとモンスターを滅ぼすことにした。


 人間にとっては害しかなく、そして神々にとっては自分たちの存在を確保するための都合のいい道具。

 人からすれば迷惑千万と言ってよい神からの影響を断ち切るために、モンスターという疑似生命の排除は不可欠だという結論に至った。


 そしてモンスターを滅ぼすのにどうすればいいか? という具体論を求めた時、出てきた答えが「マザーモンスターを倒す」というものだった。


 マザーモンスターとは?


 そもそもモンスターというものは、神々が自分たちのために生み出した手駒だ。

 しかしこの世界に何万と、延々生まれ続けるモンスターをすべて神の手で製造するのは面倒くさいし非効率だろう。

 そこで神のヤツらは、『モンスターを生みだすモンスター』をまず創造した。

 それを作ってしまえば、あとはソイツが自動的にモンスターを生産し続ける。神々にとっては非常に楽ということだった。


 その『モンスターを生みだすモンスター』こそが、マザーモンスター。

 母なるモンスターだ。


 モンスターと教団によるマッチポンプを提案し、それに賛同した地水火風――、四元素の神々が生み出したマザーモンスターは、神の数と同じく計四体。


 地のマザーモンスター。

 水のマザーモンスター。

 火のマザーモンスター。

 風のマザーモンスター。


 ……が、いるらしい。

 人の世界からモンスターの害を完全に取り除くには、この四体すべてをことごとく滅殺しなくてはならない。

 ある筋の情報では、四元素の連中は昨今益々衰弱し、今いるマザーモンスターを倒されたら、同じものは二度と作れないのだそうだ。


 つまり、都合四度の戦いを繰り返せば、それだけでモンスターは地上から消え去る。

 供給源を断たれれば、あとは既にいるものを倒せば倒すだけ、モンスターは数を減らし、最後にはゼロとなる。

 元々祈りのエネルギーにどっぷり浸かった四元素どもは、その最後の供給方法というべきものを断たれ、もはや人間にちょっかい出すこともできなくなる。


 すべての要諦はマザーモンスターにあり。ということで、この僕――、クロミヤ=ハイネは、善は急げと皆殺しに向かいたいところだが、そこである問題に気づいた。


 マザーモンスターはどこにいるのか?


 神だろうとモンスターだろうと、ブッ殺すにはソイツのいるところまで出向かなければいけない。しかし肝心のマザーモンスターの居場所を僕はまったく知らなかった。

 この世界のどこかにいることはたしかだろうが、手掛かりも心当たりもまったくない。

 一応共犯関係となった光の女神インフレーションの転生者――、ヨリシロにも思うところがないらしく、僕らの世直し計画は初っ端から暗礁に乗り上げたかに見えた。


 しかし僕には、たった一つだけ何とかなりそうな心当たりがあった。

 マザーモンスターを探し出す方法――、というか、マザーモンスターの居場所を知っていそうなヤツが一人だけいる。

 ……イヤ、一頭だけ、と言った方が正確か。


              *    *    *


 そんなわけで僕は、火の教団本部のある街ムスッペルハイムへと足を延ばしていた。

 そこにいる、ある者――、もとい、あるウシを訪ねて。


『あー、のどかのどか』


 火の教団の関係者に案内されて、僕は久方ぶりにソイツと再会した。

 と言ってもいつ以来か? 数週間ぶりかな? その前の再会は千六百年の空白を経てからだったので、今回はそんなにご無沙汰でもないかもしれない。

 が。


『……お、そこにいるのは我が同胞、闇の神エントロピーではないか。おっすおっす』


 と、ウシは僕だけに聞こえるテレパシー的な声で語りかけてくる。

 コイツ、ウシである。

 四本足で蹄があり、やや肉厚な体に角があって尻尾もある。ただ、世間一般的なウシとはやや様相が異なり、皮膚が鋼鉄のように固く、その関係で表面の色も総体的に金属っぽい。

 それもそのはず。ウシはウシでも、コイツはウシ型のモンスターなのだ。


 炎牛ファラリス、と人間たちの間では呼ばれている。


 かつては自然豊かな山地を焦土に変えて、そこに蟠踞していた凶悪モンスターだったが、今は色々あってここ火の教団本部に幽閉状態となっている。

 かつては山一つほどもあった巨躯も、今では実物の子牛程度の大きさ。

 屋内で飼うにはちょうどいいサイズと言えよう。


 で、その炎牛ファラリスの何が問題なのかと言うと……。


 ……まあ、その、なんだ。

 ……久しぶりだな火の神。


『おうー、久しぶりぶりザエモンー』


 ウシは地面にのってりと寝転がり、周囲を飛ぶハエを尻尾だけで追い払いながら答える。


 そう、このウシ型のモンスター。モンスターはモンスターでも中に宿った魂は神。

 創世の五大神にして四元素の一人。火を司る神ノヴァなのだ。

 僕――、クロミヤ=ハイネが、人間に転生した闇の神エントロピーであるように、コイツは神でありながらモンスターに転生したのだ。


 何故そんなことをしたかと言うと、神を敬うことをやめてしまった人間を罰するためと言うのがコイツの理屈。

 そのためにわざわざモンスターに転生し、神の力とモンスターの巨躯を合わせて街を破壊しに行こうとしたところ、逆に僕によってボコボコにされたのがこの間のことである。


 普通ならその時、このウシモンスターの肉体を粉々にして息の根止めるのが常道だったのだろうが、僕はあえてそうせず生け捕りにした。

 所詮コイツは神で、本質は魂の方にあるのだから、モンスターの肉体を壊しても魂は天上に帰るだけだ。

 だからあえて殺さず、神の魂をモンスターの肉体に留めてしまおう。

 色々理屈をこねて身柄を火の教団に預けて、実質封印状態にしてしまおう、としたのだが……。


『あぁ~、お昼寝すやっすや……』


 …………。

 ……ちょっとくつろぎすぎじゃないですかね?

 オイ、火の神? ノヴァ?


『はい、火の神ですが?』


 お前本当に神か?

 ただの家畜に成り下がってないか?


 コイツは今、火の教団の人たちが専用に作った檻の中に閉じ込められている。

 が、檻とは言っても意外に住み心地はよさそうで、内部の面積はちょっとした広間並。アポロンシティやムスッペルハイムの一般的な一人用住居よりは間違いなく広い。

 そのけっこうな敷地内に、寝床や水場などがしっかりと設えられ、その他のスペースにはご丁寧に芝生が敷き詰められている。

 周囲を柵で囲まれてこそいるが、この至れり尽くせりな環境。決して捕えたモンスターを幽閉する牢獄とは思えない。


 ……むしろ、大切に飼われているペットのお宅?

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