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08 光の下働き

「いいかい!? アンタたちは落ちこぼれだ!! 出涸らしのクズだ!! だからここに送られた!! わかるかい!?」


「「「「「イエス! マム!!」」」」」


「これからアタシがアンタたちを! 使えないクズから最強万能のクズに鍛え上げてやる!! アタシがもういいと言った時、アンタらは誰にも負けないクズになっているだろうよ!! ついて来れるかい!?」


「「「「「イエス! マム!!」」」」」


「なら質問だ! ここはどこだい!?」


「「「「「光の教団本部の厨房です! マム!!」」」」」


「そうだ! そしてアタシは光の教団の厨房を預かる、料理長アンガン=レジーネだ!! ここでの下働きに回されたアンタたちにとってはアタシが隊長、アタシが神だ!! わかるかい!?」


「「「「「イエス! マム!!」」」」」


「ここは光の教団の食事一切を司る場所だ! 神官が、騎士が、教主様が! アタシたちの作る料理を召し上がって聖務に向かわれるんだ!! 雑用なんて軽く見てたらベジマイトの海に沈めるよ! 朝食は戦いだ! 昼食も戦いだ! 夕食に至っちゃ戦争だ!! 騎士団が出動する時は炊き出しだってあるからね!! アンタたちもここで気張れば、いつかは立派な光の料理人だァァーーーーーッ!!」


「「「「「イエス! マァァーーームッ!!」」」」」


「いっ、イエス、マーム!?」


 はい、クロミヤ=ハイネです。

 先ほどから何が繰り広げられているかというと、僕にもよくわかりません。


 あの光の教団入隊試験の時。

 属性盤を持たされた僕は、その身に宿る闇の神の魂のせいで地水火風光いずれかを指すはずの属性盤の針をへし折って、見事不合格となりました。


 そして送られた先がここ。

 光の教団本部厨房で、光の料理人見習いとして働かされることになったようです。

 僕に限らず属性盤が光属性を示さなかった人たちは、軒並み光の教団各所の雑用係に強制着任。

 馬車馬のごとくキリキリ働かされるのでした。


              *   *   *


「……こんなはずじゃなかった」


 と、僕の隣にいるヤツが愚痴っぽく言った。

 ちなみにソイツは、僕ともどもジャガイモの皮むきを命ぜられて厨房の裏でナイフを振るっていた。


「オレの予定ではさ。入団試験を華麗にパスしたオレは極光騎士団に入り、メキメキ頭角を現しガンガン活躍して、女の子にモテてウハウハのはずだったんだよ。それが何だよジャガイモの皮むきって? 何もキャリアにもならねーよ」

「それレジーネさんの前で言うなよ? 背負い投げ食らうぞ」


 彼の名は、フラスト。

 僕と同じように光の教団の募集に応えて入団した新人だが、やはり属性盤が光以外を指して、騎士団採用から弾かれたらしい。


 そうして厨房の雑用係に回されたのだが、同じような経路を辿った僕とセットで働かされることが多く、今ではすっかり仲良しになっていた。


「別にそこまで悲観することじゃないでしょー? このジャガイモの皮むきだってさ、本気で打ち込めば割と楽しいよ。……どれだけ薄く、綺麗に剥けるか?」

「オレがムキたいのはジャガイモの皮じゃなくて女の子の服だよ!」

「そういうことを言い続ける限り、たとえ騎士になってもモテないと思うよ僕は」


 フラストは、スケベったらしい言動をすることを除けば基本いいヤツで、すぐ仲良くなれた。

 村から出てきて一番よかったと思えることは、色んなタイプの人間に出会えることで、人が多種多様に発展したんだな、と実感が持てる。

 そういう意味では、あのレジーネさんみたいな人の頓狂な行動も好ましいものだ。

 今日あったことも手紙に書いて父さん母さんに送ろう。


「っていうかさハイネ、どうしてお前こんなところにいるの?」

「何その唐突かつ漠然とした質問? 哲学?」

「イヤ、そういうオレたちはどこから来て何処へ行くのか系の話じゃなく。……お前ってさ、新人の中じゃけっこう有名じゃん。新人募集の時、小隊長とイザコザ起こしてブッ飛ばしたってエピソード、オレの耳にも入ってるぜ」

「……ブッ飛ばしてはいないよ。ブッ飛ばす寸前で止められたから」

「ゲッ、じゃあやり合ったこと自体は本当なの!? しかもその口ぶりからして九割勝ってた!? ……それでまあ入団試験のこともあるし、いくら属性違うからってもっといい部署に回してもらえたんじゃん? ってか騎士団に入れてもいいじゃん」


 そういう話での『お前何故ここにいるの?』か。


「僕はここでも充分満足してるけど。お料理楽しいし」

「野望のない男だなあ! 男だったらさあ、こんなところに落ちても、たとえばレジーネ姐御とデートするぐらいの目標持とうぜ!!」

「えっ、フラスト行くの? あのレジーネさんに?」

「…………レジーネ姐さんって、いくつだっけ?」

「僕情報によると、三十二歳」

「三十二か……、ギリだな」


 本当に行くのか。

 僕はこの新しい友人に畏怖の念を覚えつつ、でもまあ関係ないのでジャガイモの皮むきに集中した。


「ほう、物好きがおるなあ」

「うおッ?」「ひゃあッ!?」


 ヌッと現れる、つるりと光る禿げ頭。

 入団試験を仕切っていたグレーツ中隊長ではないか。


「忠告するがド新人、あの女傑はやめといた方がいいぞ。前にも正規の光騎士がな、ふざけて給仕中のレジーネ女史の尻を撫でたことがあったんだが……」

「ど、どうなったんです……!?」

「延髄切り食らって今でも病棟で唸っとる」


 騎士団に入れた方がいいんじゃないか、あの人?

 まあ、それはさておき……。


「何の用ですか中隊長? こんなうらびれた厨房の裏手にフラッと現れるとか、もしかして騎士団って暇なんですか?」

「つれない言い方だのう。……まあアレだ、光の教団にはレジーネ女史の他にも怒らせちゃいかん女性がいてな。前回はその人に対してヘタ打った形になったから、巻き返しに来たのよ」

「?」

「ハイネ、貴様にいいものを持って来た。……ここには貴様ら以外誰もおらんな?」

「そりゃあ厨房の裏手ですから。厨房の中ならたくさん人いますけど、呼んできますか?」

「やめろやめろ! オレ様は貴様だけに用があるんだ!」


 ハゲの中隊長は、用心深く周囲を見回してから、持参の麻袋に手を突っ込む。


「お、何スか? もしかしてエロいもの?」


 中隊長の挙動不審さだけでそう判断し、ワクワクするフラスト。


「うっさいわ、仕方ないから貴様にも見せてやるが、オレ様がこんなもの持ち歩いてたなど他言無用だぞ」


 麻袋から出てきたのは、人が持ち歩くにはやや大きめの、四角い箱のようなものだった。


「……何コレ? エロいものにはとても見えないんスけど?」

「それは貴様の勝手な決めつけだろうが。これはな、属性計測器だ」


 属性計測器?

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