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80 ヨモツイクサ

「ワレは、闇の神、エントロピーなり」


 そして今、私ことコーリーン=カレンには大ピンチが降りかかろうとしていた。


「もうッ! 何でこっちの方に来るのよ!?」


 あの黒い影さんだ。

 地下都市に降りてくる途中で遭遇し、私たちを襲った謎の相手。

 影らしく、その形を目まぐるしく変えて襲ってくる。


「ヨリシロ様! 早く! こっちへ!」

「カレンさん……!」


 ヨリシロ様の手を引っ張って、とにかく全力で走る。

 相手はその後を追ってくる。完璧に狙いを私たちに定めてるよ!?


「落ちてから一度も光らしいものを出していないというのに、それでもなおわたくしたちの方を追ってくるなんて。偶然なのかしら。それとも……」

「いつもみたく思わせぶりなこと言ってる場合じゃありませんよーッ!?」


 とにかく逃げなきゃ。

 私たちの放つ光の神気は、あの影さんにとって自分を大きくする養分であることは、既に立証済み。

 それはつまり私たちに、影さんを倒すことはできないということだ。

 今の私たち三人パーティの中で唯一、影さんに打ち勝てる可能性があるのは、闇属性を持つハイネさんだけ。

 だからヨリシロ様は私を連れてあえて別行動を取り、ハイネさんの足手まといにならないようにしたのに。

 なのに肝心の影さんがこっちに来ちゃうなんてアリ!?


「……カレンさん」

「どうしよう全力で走ってるのに振り切れない~~ッ! ……って、呼びましたかヨリシロ様ッ!?」


 この忙しない時に一体何です!?


「わたくしを置いて逃げてください」

「ええッ!?」


 また何を言い出すんですかヨリシロ様!?


「あの影は、わたくしを狙っている可能性が高い。それにわたくしを引っ張って走っているから思うようにスピードが出ないのであって、アナタ一人ならばもっと速く走れるでしょう?」

「だからって勇者が教主を見捨てる理由にはなりません! 大体何故ヨリシロ様が狙われるって……!?」

「先ほど遠方から、チラチラと光が見えました。恐らくハイネさんがライトを振っていたのでしょう」

「!?」


 私、全然気づかなかったんですけど!?


「わたくしたちに位置を教えるためか、あの影を引き寄せるためかはわかりません。しかし影が、それを無視してこちらに来たという以上、あの子は単純に光に引き寄せられるだけではないということです」

「そんな……!」

「アナタだけでも逃れて、ハイネさんと合流してください。光は四時の方角から来ていました。そちらへ向けて走ればハイネさんがいるはずです」

「……!?」


 ならば……!

 私は、ヨリシロ様の手を離すと体を後方へ翻した。

 ただし完全な真後ろに。追ってくる黒い影さんが目の前に。


「聖剣サンジョルジュよ! 我が光の神気を宿し、敵を斬り裂く刃と変えよ!」


 刀身から放たれる眩いばかりの光。

 フラストレーションが溜まっていた分だけ掛け値なしの全力だ。


「いけませんカレンさん! あの子は、光を吸収して……!」


 ヨリシロ様の制止を振り切り、私は放つ。


「『聖光斬』ッ!!」


 飛び出す光の斬撃は、黒影さんに当たりはしなかった。

 もっと上の方へ向けて飛んで行った。

 狙ったのは別のものだ。ヨミノクニの廃墟、誰も住まなくなった建物の上部の一部分を、『聖光斬』が斬り取る。切断された建物はただの瓦礫となって落ち、その落下地点に計算通り黒影さんが……!


「やった! 命中!」


 瓦礫に押し潰される黒影さんに私は喝采。

 光の神気を直接当てられなくても、二次的な物理攻撃なら効くかも、という私の推測は当たった。今ので倒せたとは思わないが、足止め程度にはなってくれるはず。


「ヨリシロ様! 今のうちです一緒にハイネさんのところへ……!」

「カレンさん!!」


 ヨリシロ様の叫び声で、反射的に身をかがめた。

 それとほぼ同時に巻き起こる、細かい石片の礫。あの黒い影さんが、みずからの体を竜巻のように回転させて、押し潰す瓦礫を弾き飛ばしたんだ。


「ワレは、闇の神、エントロピーなり」


 そしてその跡から、何事もなかったかのように姿を見せる影さん。


「なんてパワーなの……!?」

「カレンさん逃げて! アナタがここで傷つく理由はありません!」

「いえ、あります!!」


 即答。

 迫りくる黒い影さんは、直撃でなかったとはいえ先ほどの『聖光斬』の光の余波を吸って、また少し大きくなったようだ。


「光の勇者は、光の教主をお守りするもの! それ以上に今、ヨリシロ様は私の友だちです! 友だちを守るのに命を懸けなくてどうします!」


 追い詰めたと思っているのか、黒い影さんは全速での追跡をやめて、ゆっくり警戒しながら距離を詰める。

 それでいい、もう少し時間稼ぎがしたい。


「それに思い出してください! 私たちが信じられる人がもう一人いるでしょう! あの人が私たちのピンチを見過ごすはずがありません! だってそんなことしたら、あとで貰えるすっごいご褒美がナシになりますから!!」

「カレンさん……!」


 だから諦めないで、あの人は必ず来る。


「ダークマター・セット」

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