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77 神を許す者

 とにかくも私――、コーリーン=カレンとヨリシロ様は、目の前に広がるヨミノクニの都市遺跡を調べてみることにした。

 あの闇の神エントロピー様を名乗る黒影も気になるけど、最初の目的はこの街を探し、調べることだもん。

 今は滅びてしまったこの街が何故滅びたのか? 何故地下深くに埋もれているのか?

 遺跡を調べてそれらのことを解き明かせば、あの黒影の正体に近づけるかもしれない。

 私とヨリシロ様は、街の大通りであったと思しき道を歩く。

 中央を貫き、道幅も大きい。

 街がまだ生きていた頃は、この道を多くの人が行き交っていたのではないかと思う。

 でも今は、瓦礫と砂が散らかるだけの閑散とした空間だ。


「ヨリシロ様、お気をつけて。やっぱり暗くて足下が危ないですから」

「あら、では手を繋いで歩きましょうか?」

「はい!?」


 なんだかわからないうちに、ヨリシロ様と手を繋いで歩くことになった。

 おかしなことに凄くドキドキする。

 いくら手と手が合わさっているからといっても、相手は同じ女性。しかももう私にはハイネさんという心に決めた人がいるのに……。

 やっぱりヨリシロ様が美人すぎるせいなのかな?

 同性の私の目から見ても、ヨリシロ様は超絶にお美しい。普段ヴェールで顔を覆われてる時すらそう思えるのに、外したら想像を超えてさらに綺麗だから反則だ。

 普通、日頃顔を隠していたら、頭の中で凄く綺麗なお顔を想像して、素顔を晒す時のハードルが上がるものじゃないの?


「うふふ……、こうして歩いていると……」

「はい?」

「わたくしたち、友だち同士みたいですわね?」

「ははははははは、はいぃッ!?」


 さっきから「はい」しか言ってない私。


「そそそそそ、そんな恐れ多いです、すすすすす! 私は勇者で、ヨリシロ様は教主! 私の剣はヨリシロ様にお捧げすると、勇者叙任式で誓いましたし……!?」

「あらあら、昔のお堅いカレンさんですわね。でも、こうして手を繋いで、お互い裸も見合って、何より同じ男性に想いを寄せているのです。もう大の親友といってもよくありません?」

「それは……!」


 そう言われても、やっぱり私なんかとヨリシロ様が友だちなんて、考えられない。

 友だちとは、つまり対等ということ。

 ヨリシロ様とはどうあっても対等になれるなんて思えないから。


 勇者と教主という身分差もそうだけど、さっきも言ったように美しさ一点をとっても、私はこの人にはるかに及ばない。

 たとえばアイドル騒動の一件で水の勇者シルティスさんと対峙した時。実を言うと、あの人の派手であかぬけた魅力に私は圧倒された。

 それでもハイネさんの前で、女として負けたくなくて、「私の勝ちです」と言ってしまった。アレはまったくの強がりだった。

 そして今、ヨリシロ様の美しさの前では強がりすら出てこない。

 それぐらい女神の生き写しではないかと思うぐらいの完璧な美しさ。

 しかもこの人がもっているのは身分と美しさだけじゃない。


 強さだって完璧なんだ。


 今回一緒に旅をしてみて、まざまざとわかった。この人は、勇者である私を遥かに超えるほど、光の神力を操るのが上手い。

 さっき黒影さんとの戦いで床を崩壊させた手際でも、ヨリシロ様は聖剣サンジョルジュのような神具を用いず、素手で、あのような破壊を行った。

 それは物凄いことなんだ。

 普通なら、どんなに光の属性値が高い人間でも、教団から下賜される神具の共鳴増幅機能がなければ、神気でモノを壊すだけの威力は出せない。

 ヨリシロ様はその常識を覆した。

 恐らくは私をも遥かに超える、類まれなる光属性への高適性数値をお持ちなのだろう。

 あの『導きの針』だって、最初は私とヨリシロ様の共同で神力を注ぐはずだったのに、ここに至るまでヨリシロ様一人で済ませてしまった。

 もしヨリシロ様が教主でなければ、間違いなく光の勇者はこの人になっていたはず。

 そう思うとますます自信がなくなっていく。

 ハイネさんだって、きっとこの人の方が……。


「ごめんなさい、暗い気分にさせてしま多ようですね」


 ヨリシロ様の手が、するりと私の指から抜け落ちる。

 ヤバイ、気持ちが表情に出ちゃってた?


「でも安心なさって。きっとハイネさんは、アナタのことを選びますわ」

「え?」

「昔、わたくしは罪を犯しました。償おうとしても償いきれない大きな罪を。あの方は、その罪の正体をまだ知りません。でもいずれ知ることになります。知れば、わたくしを許しはしないでしょう」


 地下都市は暗くて、ヨリシロ様の表情を詳しくたしかめることはできない。

 でも何故か、今ヨリシロ様は泣いていらっしゃるんじゃないかと思った。


「だからわたくしはハイネさんと一緒になることはできません。あの方に甘えたりするのは楽しくて、幸せですが、踏み込んでいいのはそこまで。それ以上は行けません。ハイネさんがすべてを知って、わたくしを嫌うようになってしまった時に、耐えがたくなりますから」


 ヨリシロ様の言うことは、私には推し量りきれない。

 この人の言う『大きな罪』というのが何を意味しているのかわからないし、そもそも光の教主であるヨリシロ様が、大なり小なりでも罪を犯すなんて考えられない。

 でもきっと、この人は、凄く……。

 自分のことが許せないんだ。


「だからカレンさん。わたくし、アナタのことを応援いたします。わたくしが隣にいなくても、あの方が幸せになられるのは嬉しいことですから。カレンさんに対しては失礼な物言いかもしれませんが……」

「……ッ!」

「えッ!?」


 ガシッと、ヨリシロ様の手を握った。

 その勢いがあまりに強くて、ヨリシロ様をビックリさせてしまったようだ。でも止まらない。


「ヨリシロ様! 私と友だちになってください!!」

「ええッ!?」

「正直言って、ヨリシロ様の仰られていることは、私にはよくわかりません。一つだけわかるのは、ヨリシロ様がいい人だってことです!」


 そうでなければ、私に何度も優しい言葉をかけてくれたりはしない。一緒に遊んでくれたりはしない。

 ヨリシロ様と一緒になってハイネさんに甘えるのは、本当に楽しかった。

 心にウソをついている人と一緒では、あんなに心から楽しめない。


「だからヨリシロ様、私と友だちになってください。これからも一緒にハイネさんに甘えたり困らせたりしましょう!」

「カレンさん……!」

「ヨリシロ様が間違いを犯されたとして、『私がヨリシロ様を許す』なんておこがましいことは言えません。でも、友だちなら一緒に謝ることぐらいはできます! その資格をください、ヨリシロ様!」


 そしてきっとハイネさんなら、女性のどんな業でも受け止めてくれる。

 私が好きになった人だもの。

 私も、ヨリシロ様も、まとめて幸せにしてもらえばいいんだ!


「まったくアナタという人は……」


 地下都市は暗くて、やっぱりヨリシロ様の表情はよくわからない。

 でも、私が握る彼女の手から、握り返す力が伝わってきた。


「……正真正銘、わたくしの勇者ですわね」

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