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75 地下の戦い

「なに……、これ……!?」


 攻撃したカレンさん本人が、予想を裏切られて狼狽える。

 そりゃあ、ダメージを与えるか、もしくは殺すつもりで放った攻撃で、逆に元気になったら驚きもするだろう。

 元気になる、という表現が正しいのか。

 とにかくあの黒い影は、カレンさんからの光の神気を食らって、どんどん膨らんでいく。

 既に元の三倍以上の大きさだ。

 心なしか、その身を覆う漆黒色もより濃厚になったように見える。


「カレンさん! 攻撃を止めろ! どんどん大きくなっていくぞ!」

「……えッ!? ああ!」


 あまりに驚きすぎて『聖光穿』を出しっ放しだったカレンさんが、僕に怒鳴られてようやく神気出力をストップさせる。

 でもその頃には、黒い影は僕らを見下ろすほどの大きさにまで成長していた。


「光の神気を食った。……ってことだよな?」


 目の前で起きた現象を、そうまとめる。

 カレンさんの放った光の神気攻撃がきっかけで、あんなに逞しくお育ちになられたのだから、他に原因はないと思われるが……。

 でもそんなことがあり得るのか?


「闇が、光で大きくなるなんて、普通なら絶対ないだろう」

「そ、そうなんですか……!?」


 肥大化した影の攻撃再開に備えて、僕たちは一か所にかたまる。

 カレンさんは、自分のミスで状況が悪くなったと思っているのか、申し訳なさそうだったが、その気持ちを和らげるのもかねて質問に答える。


「本来闇の神気――、暗黒物質は、あらゆる神気を無条件で消し去れるんです。地も水も火も風も、それらすべて闇の力の前には無力。でも例外がある」

「それが光の神気です」


 ヨリシロが代わって語る。


「一見無敵に見えるハイネさんの暗黒物質唯一の弱点、それが光の神気です。暗黒物質は、光の神気だけは消し去ることができず、逆に消し去られてしまう」


 ヨリシロから視線を送られ、僕は心得たとばかりに掌中ほんの少しだけ暗黒物質を発生させる。

 ヨリシロはその暗黒物質へみずから光の神気を当てると、黒い粒子はまるで泡のように弾けて消える。ほんの少しの抵抗もなく。


「わあ……!?」


 それを見て素直に驚くカレンさん。


「地水火風の四元素は、その中で得手不得手の循環を作ります。闇はそのすべての天敵であり、そして闇は光に勝つことはできません。さらに光は、四元素に対してほんの少し強いだけの、頼りない優位性しか持たない」

「つまりより大きな相性のサイクルができるわけだ」


 ここ最近は光を敵にすることがなかったため忘れがちだったが。

 以前ベサージュ小隊長が使ってきた『聖光弾』程度の小粒光ならまだやりようはあるが、ある程度実力が切迫してくると闇じゃ光には絶対勝てない。

 千六百年前の神々の戦争で僕が負けた最大の理由もこれだな。


「だが、だからこそあの影は異常だ……!」


 僕らの説明中も律儀に待ってた黒い影。

 向こうも、急に肥大化した自分自身に感覚を合わせようと手間取っている様子だ。


「ワレは、闇の神、エントロピーなり」


 その間も、また同じことを繰り返し言ってやがる。

 そんなに自己紹介が好きなのか?


「本来なら猛毒であるはずの光の神気で、逆に大きくなったんですものね。まさしく常識外れ……! あっ、でも、あの影が本当に神様なら、常識に囚われずに……!?」

「イヤ、それはない」


 真の闇の神である僕が、その常識に囚われているし。

 そもそもアイツ神じゃないし。多分。


「とにかく、光が効かないとわかった以上、カレンさんたちは下がっていてください」


 そして僕が前に出る。


「同じ属性であれば、力の強い方が勝つ。これも厳然としたルールだ。我が暗黒物質も美味しいエサとできるか、ヤツにご賞味してもらおうじゃないか」


 そしてダークマター・セット。

 暗黒物質をまとった拳で、巨大影に殴りかかろうとするが……。


「また逃げやがった!?」


 ヤツは僕と勝負する気がないのか?

 巨大化してなお俊敏なソイツは、攻撃をかわしながら僕を迂回し、なおかつ僕のことには目もくれず、その先へと直行した。

 その目的は……。


「カレンさん! ヨリシロ!」


 ヤツめ、どこまでも女の子狙いか!?

 イヤ違う。ヤツの狙いはカレンさんたちの放つ光の神気だ。

 思えばアイツは最初から、カレンさんを執拗に狙っていた。真っ暗な地下を照らすために、聖剣から光を放っていたカレンさんを。

 恐らくヤツは、光の神気を食ってみずからが大きくなるために、光の神気使いを狙うのだ。


「逃げろ、二人とも!」


 慌てて後を追うものの、ギリギリ間に合いそうにない。


「クッ!?」


 カレンさんも聖剣を構えるが、それ以上はできない。

 光の神気で攻撃すれば、ヤツを元気にすることにしかならないと既にわかっているし、彼女に他の攻撃手段はないからだ。

 走って逃げようにも、ヨリシロを伴っては思うようにはいかない。


「……やはり、一度離れた方がよさそうですわね」


 と言ったのは、ヨリシロだ。

 何をするのか? と思った瞬間だった。


「『聖光滅破陣』」


 ヨリシロの足元の地面から何本もの亀裂が走り、そのヒビの隙間から光が漏れ走った。

 次の瞬間、僕たちの立っていた床が、爆砕音と共に弾け散り、粉々となった。


「うわぁぁーーーーーーーーッ!?」

「きゃあぁぁぁーーーーーーーーーーーッ!?」


 つまり唐突に足場が失われたわけで、僕もカレンさんも悲鳴を上げながら落ちていくより他になかった。


 どうやら、この広間はさらなる地下へと続く階段の踊り場のような場所で、床の下には深い空間が広がっているらしい。

 かなり長く落ちられそうだ。

 僕は暗黒物質の重力反転で飛んでもよかったが、それよりも優先すべきことがあった。


「追わせるか!!」


 落下しながらもしつこくカレンさんたちを狙う黒影を抑えるために、僕はヤツと揉みくちゃになりながら共に落下する道を選んだ。


「ワレは、闇の神、エントロピーなり」

「うっせえ! それしか言えねえのか!?」


 対してカレンさんとヨリシロは、どんどん気配が離れていく。

 それでいい。そういうことだろうヨリシロ?


 お前らが離れている間に、僕がコイツを倒す!

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