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74 影

「ワレは、闇の神、エントロピーなり」


 影は同じことを繰り返して言った。

 だがどういうことだ?

 アイツが闇の神エントロピーであるわけがないじゃないか。何故なら、本当のエントロピーは、ここに……。


「闇の神……。あの方が闇の神エントロピー様だっていうんですか!?」


 同行するカレンさんも困惑に陥っている。

 何しろ今回の旅の目的が――、しかも今回の旅だけでは到達できないだろう相手が、向こうから現れたのだから。


「私、神様をこの目で見たことはないんですけど。でも確実に人間じゃないし、よく見てみたらモンスターとも違う……。ではやっぱり、神様なんですか……!?」


 イヤ、違う。カレンさんの判断は間違いだ。

 たしかにコイツは人間でも、モンスターでもない。しかしだからといって神である、というのは早計だ。

 特に闇の神エントロピーであることは絶対にない。

 何故ならその闇の神の転生者である僕がここにいるからだ。

 僕こそが闇の神である以上、コイツが本物であることは絶対にない。


 では僕の名を騙るコイツは何者だ?

 少なくともエントロピーの名を知っている。それだけでも看過しがたい謎だ。

 僕は千六百年間封印されて、誰にも知られることがなかった隠れ神だったはずなのに。


「…………」


 混乱する僕とカレンさんを尻目にして、ヨリシロだけが穏やかだ。


 どうするこの状況? どうなる?

 先の展開が読めず迂闊に動けぬ僕たちに先んじて、場を動かしたのはヤツの方からだった。

 黒い影。


「ワレは、闇の神、エントロピーなり」

「えッ!?」


 かろうじて人のシルエットを保っていた輪郭が崩れ、まるで一本の太い線が流れるような形態で素早く移動する。

 そうしてまでヤツが向かう先は……。


「カレンさん! 危ない!」

「ええッ!?」


 あわや直撃といった寸前で、聖剣サンジョルジュが突進する黒い流れを遮る。

 よし、上手くガードしたな。だが……。


「やっぱり敵なのか、アイツ!?」


 攻撃してきたということは、そういうことだ。

 依然として謎だらけだが、売られたケンカは買わねばならない。


「ダークマター・セット!」


 両腕から漆黒の粒子が何万何億という数で発生し、塊となって黒い渦を作る。

 これが闇の神の転生者たる僕の必殺武器、暗黒物質。

 地水火風、あらゆるタイプの神気を触れた傍から飲み込んで、跡形もなく消滅させる凶悪粒子だ。

 さらに重力制御という第二の性質も備え、神気以外の物質に対しても強い制御力をもつ。


「食らえッ!」


 黒い影に向かって放たれる黒い粒子。

 さあどうする? 偽りだろうと闇の神を名乗っているんだ。暗黒物質をどう処理するか見せてみろ!


 しかし黒い影は、正面から暗黒物質を迎え撃つことはせず、流線のように細長くなって跳ね逃げた。


「クソ、逃げるのか!?」


 しかもその動きは思った以上に俊敏だ。

 カレンさんが聖剣サンジョルジュの灯かりで照らしている範囲の外に出られたら、人間の目では追いきれなくなる。


「手助けしますハイネさん! 光の神気を、もう少し……!」


 カレンさんが聖剣サンジョルジュに込める神気の量を上げる。

 すると刀身がさらに眩く光を放ち、さらに広い範囲を照らし表してくれる。

 よし、これならあの黒影が遠くに逃げても見失わずに済む。


「ダメです! カレンさん!」


 そこへ、逼迫した叫び声が飛ぶ。その声を放ったのは……。


「ヨリシロ……!?」


 ここまで、すべてを知っているかのように冷静に振る舞っていたヨリシロが、いきなり取り乱した。

 どういうことだ? と思う暇もなかった。

 あの黒い影が線になって跳ねながら、カレンさんの方へ襲い掛かったのだ。


「えええッ!?」


 再び聖剣サンジョルジュで振り払い、直撃を避けるカレンさん。

 しかし何故影は、急に標的をカレンさんに変えた!?


「何なのいきなりッ!? ……でも勇者たるもの、降りかかる火の粉は振り払うのみ!」

「カレンさん!」

「ハイネさん、ここは私に任せて、アナタはヨリシロ様を守ってください! ……この狭い地下では、攻撃範囲の広い『聖光斬』は使えない。ならば、光の神気を一点集中し……!!」


 聖剣サンジョルジュの切っ先で狙いを定め、放つ。


「『聖光穿』ッ!!」


 聖剣の刀身が、光となって伸びる。

 正確には聖剣から放たれた線状の神気で、刀身そのものが伸びたように見えたのだ。

 その光の刺突が、高速で動き回る黒い影を見事突き刺す。


「やった! 当たった!」


 あんなに滅茶苦茶動く物体に一発で命中させるなんて、さすが勇者。

 でも……。


「ダメです! いけません!」


 再びヨリシロが叫ぶ。


「今のは命中したのではありません。あの子が自分から当たりに行ったのです! その子に、光の神気を与えてはいけません!」

「なにッ!?」


 異常に気づいた時には遅かった。

 カレンさんの攻撃を食らって、傷つくか弱まるとばかり思われた黒い影。

 しかしその期待は外れた。真逆に。


「ワレは、闇の神、エントロピーなり」


 なんと黒い影は、カレンさんの攻撃を食らうごとに大きくなっていくのだ!!

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