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70 砂漠へ

 かつて闇の神を信奉していたという謎の都市ヨミノクニ。

 それを探す旅へ出るのに、それでもやはり一週間ほどの準備期間を要した。


 何よりまずは教主ヨリシロが光都を空けるために、やっぱり片付けておかねばならない課題がいくつかあったようで、それを処理する時間が必要だった。

 勇者であるカレンさんにも、そうした雑務処理はあり、それらに追われて数日があっという間に過ぎ去る。

 ちなみに、カレンさん大好きっ子こと火の勇者ミラクも同行必至かと思いきや、予想に反して不参加となった。

 本拠ムスッペルハイムの警備に当たらなければならない、というのが欠席の理由だったが、どうやらあまりに頻繁にカレンさんの下に通い続けて、ついに火の教団から怒られたらしい。

 反省の意を表すためにも、しばらくカレンさんのところには来れなさそうだ。

 水の勇者シルティスも、普通に本拠ハイドラヴィレッジで勇者とアイドルの二足の草鞋に勤しみ中。


 となればやはり今回は、この三人メンバーになるわけで……。


              *    *    *


「好きですハイネさん」

「愛していますわハイネさん」

「それ本当に毎日やるんですか……!?」


 出発の朝。

 出会い頭の特大ダブルパンチに、そのまま卒倒してしまいそうだ。


 光の勇者カレンさんと、光の教団教主ヨリシロ。


 二人の同時多発愛の告白イベントが発生してからの数日、攻勢は激しく、二人の通った後にぺんぺん草も生えないレベルだ。

 光の教団の職務中でも、人目を盗んでは体を押し付けてくるわ愛を囁いてくるわで、思春期の男性の肉体には非常に影響が悪い。


「やっと行けますね、闇都ヨミノクニ探索ツアー!」

「この顔ぶれで旅ができるなんて、まるで新婚旅行みたいですわ」


 新婚旅行って三人でするんですっけ?

 僕が絡むとツッコミどころだらけになってしまう二人だった。

 教団内でも、そろそろ変な噂が立ち始めているし、――悲しいことにあらかた真実だけど――、それら風聞に冷却期間を置くためにも、今回の旅は『雲隠れ』と言う意味で有効なのかもしれない。

 …………。

 ちょっと考えてみたけどやっぱダメだ。不在が憶測を呼んで尾ひれ付きまくるのが容易に想像つく。


「それでカレンさん? アナタの方の準備はできていますか?」

「もちろんです我が教主! 見てください!」


 そういってカレンさんが、バーン! と示したのは、もはやお馴染み小型飛空機。

 一人乗りで高速飛行するエーテリアル動力機で、コイツのおかげで勇者カレンさんの行動範囲は劇的に広がった。

 もはや勇者の活動になくてはならない優れものだが、今日新たに見るコイツは、どこか見慣れたものと違う……?


「製造元のフラップター社さんにお願いして、所々改造してもらったんです。表面に特殊塗料を塗って耐熱性を増し、機体の隙間をできる限り塞いで気密性を増しました。中に砂が入らないようにする工夫です」

「砂を……」

「そうです、今回の行き先は、これまで行った場所よりも遥かに過酷になりそうですから、準備は怠れません!」


 そう、僕たちの今回の目的は闇都ヨミノクニだが、それを探し出すために向かう場所の見当は、あらかたついているのだ。

 実はもう既に、光の神力を注いで求めるものの位置を指し示すという『導きの針』を使って、ヨミノクニがある場所を探ってみた。

 そしてわかった方角を照らし合わせて、僕たちがたどり着くであろう場所を割り出すと……。


 そこは、砂漠だった。


 より詳細に言えば、地の教団本部のある地都イシュタルブレストの西方に広がる大砂漠。人からは『無名の砂漠』と呼ばれる無人地帯だ。

 砂ばかりで草一本生えず、迷い込んだ者には死が訪れると言われ、実際年に数人の遭難者が必ず出るという、かなり危ない場所。

 なので準備も入念にならざるをえなかった。


 ……まあ本来なら、そんな危険なところには行かないのが一番いいんだけど。


「でも、そんな過酷な場所だからこそ人が寄り付かず、何百年も発見されない都市があったとしてもおかしくありません。世紀の大発見になるかもしれませんね!」

「うふふ、冒険心が疼きますわね」


 なんでこんなモチベーション高いの聖女二人?


「でもやっぱり僕は心配ですよ、そんな危険なところに女の子が……」

「甘く見ないでくださいハイネさん。私だって勇者です。あらゆる極限状況でモンスターと戦えるようサバイバル技術は習得済みです」


 カレンさんに続いて、ヨリシロも言う。


「人跡未踏の地に踏み込むのに、必要なのは入念な準備です。それさえできていれば必要以上に恐れることはありません。人の英知が自然を征服することを信じるのみです」


 うるさい神。

 お前の場合は、いざとなったら女神の力を解放してどうにでもなるってだけだろう。

 まあ、それは僕も同じだが。たしかに気負う必要もないのかな?


「では、行きましょうヨリシロ様!」

「そうですねカレンさん。ついに待ちに待った……!」

「私たちとハイネさんの恋人旅行!」

「愛と欲望がめくるめくお忍び旅行!」


 やっぱり行くのやめません?

 彼女らの目的がどこにあるのかいまいちわからなくなってきた。

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