06 人の坩堝
こうして僕の舞台は、生まれ故郷の山村から光都アポロンシティへと移る
光の教団総本部があるというその街は、この世界でも有数の大都会。
人の数も建物の数も、故郷とはケタ違いで、田舎者の僕は圧倒される。
「うふふ、驚かれましたか?」
同道するカレンさんが、お上りさんと化している僕を微笑ましく見やる。
「アポロンシティは初めてなんですか?」
「イヤ、都会に来たというより村から出たことが初めてなんで、見るものすべてが驚きです」
「そうなんですか? 私はむしろ、今までとは違うハイネさんが見れてビックリですよ。出会ってからずっとカッコいい人でしたから」
「あっ、カレンさんあれ何ですか?」
「聞いてねぇー」
僕の興味を引いたのは、街中を走っている車だった。
イヤ、車だったら普通ウシとかウマが引いて動くものだが、あの車には何も付いていない。車だけで勝手に動いているのだ。
しかも、舗装された道路には、そうした車が一台どころか何台も、右に左に行き交っている。
つまりあの自分で動く車は、特別でもないありふれたものだということだ。
「あれはエーテリアル車ですよ」
「エーテリアル車?」
「エーテリアルで動く車です」
「はあ?」
説明になっているようでなってなかった。
「フン、堕落した人間の乗り物だ」
と不機嫌そうに言うのは、やはり僕たちと行動を共にしているベサージュ小隊長。
その他にも、彼の率いる騎士小隊。さらに団員募集のために各地に散っていたという他の隊も光都に近づくほどに合流してきて、かなりまとまった集団になっている。
その中には僕同様、募集に応じてついてきた者たちも何割かに上っていた。
そしてベサージュ小隊長の愚痴は続く。
「あんなものがあるせいで、人々は光の女神様の恩寵を忘れ、傲慢になる。……オイ新入り。田舎者のお前にあらかじめ言っておくが、光の教団ではあんな機械の使用は全面禁止だ。覚えておけ」
たしかに光の教団の騎士たちは、こんな大人数でゾロゾロしているのに全員徒歩か、あるいは馬に乗っている。
これだけ大人数いるんだから、あのエーテリアル車とか言うものの大型を用意して、ガーッと運べばさぞかし速やかだろうに。
「ベサージュ小隊長、ハイネさんに当たらないでください。まったく村を発ってからずっとカリカリしてるんですから」
「しかし勇者殿、我が小隊は五十人のノルマを課せられていたのですよ。なのに、連れて帰れたのはたった一人。教主様や騎士団長に何と言われるか……!」
「文句が出たら、すべて私のせいだと言ってくださって構いません。それに私は、その一人を得られたことは、今回の募集遠征最大の成果だと思っています」
「ん?」「え?」
僕もベサージュ小隊長も同時に反応してしまった。
「その一人って、この田舎者のことですか?」
「ええ、ハイネさんは。ベサージュ小隊長が放った『聖光弾』に臆することなく、完璧に対処してきました。初見であるにもかかわらず」
「うぐっ……」
「迅速かつ的確な判断力。さらに俊敏な動き。即戦力として申し分ないです。我々はそういう人材をこそ求めていたのではないですか?」
「うぐぐぐ……!」
カレンさんの言うことは正論なのだろう。しかし僕にしてやられた過去をもつベサージュ小隊長の方は素直に承服することもできず、歯噛みしていた。
そして僕は、話がややこしくならないように沈黙を決め込む。
「で、ですが、この田舎者が騎士団に入れるかどうかも入団試験の結果次第です」
「その点なら問題ありません。私は彼を信じています」
何の話だろう?
二人の会話に漠然とした不安を感じずにはいられない。
そうこうしているうちに、僕たちは旅の最終地点へと到着した。
アポロンシティの中央にある、光の大聖堂。
そこが光の女神インフレーションを信奉する、光の教団の総本部だった。