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68 書に隠れた神

「闇の神、エントロピーを……?」


 その名を聞いて僕は戸惑った。

 何故ならその神の名は、僕自身の中にある神の魂と、同じ名なのだから。


「そうです。ヨリシロ様からその神の存在を教えていただいてから、私なりに色々と調べてみたんです。この図書館は、そのための絶好の情報源でした」

「ここより大きな図書館は、世界中探してもありませんからねえ。調べ物をするには、たしかに最適でしょう」


 ヨリシロが付け加える。


 かつて炎牛ファラリスを敵とした、ラドナ山地での戦い。

 そこで僕は初めてカレンさんたちの目に暗黒物質による戦闘を晒し、それに関する追及を余儀なくされた。

 そこへ折よくヨリシロが現れ、六人目の創世神、闇の神エントロピーの存在を明かした。

 世界には、地水火風光に加えて闇という構成素があり、人の中にはごく稀に闇の属性が極めて濃く現れる人間がいる。

 そういう『設定』で、僕の操る暗黒物質のことをカレンさんやミラクに納得させることができた。

 真実は違う。僕の中にある魂が、闇の神エントロピーそのものだからだ。


「私、ずっと気になっているんです。これまで何百年と信仰されてきた創世神様。それが五人じゃなく、本当は六人いた。凄い事実だと思いませんハイネさん?」

「はい、たしかに……?」


 最初から知っていた僕には実感しづらい。


「でもその話が本当なら、何故闇の神様は、他の神様同様、人々に知られていないのか? 誰からも崇められていないのは何故か? 疑問が次々湧いてくるんです!」

「それで、闇の神を調べるために図書館通いを?」

「はい、それに……!」


 カレンさんは一旦モジモジして、次に意を決するようにして言う。


「好きな人の主属性である神様ですから、ますます気になって……!!」


 うわー。

 一度告白したカレンさんは、もはや躊躇いなどなく攻める攻める。


「わかりますよカレンさん。好きな人のことは何でも知りたくなりますものね」

「そうなんですヨリシロ様! それでですね、そもそも闇の神様の情報をもたらしてくださったのはヨリシロ様ですし、何かもっと知ってることはないかな、と……?」

「申し訳ありません」


 ヨリシロは本当に申し訳なさそうに言う。


「わたくしも、光の女神様より賜った神託以上のことは知らないのです」


 よく言うわ。コイツ自身が光の女神なのに。

 僕もヨリシロも、自身が神の転生者ということは秘密にしている。

 言ったところで誇大妄想家と思われるのが関の山だし、仮に信じられたとしても、いたずらに世を騒がすだけで、利点など何もないと思うからだ。

 そもそも僕は神としてでなく、人としてこの世界を楽しみたいのだ。ヨリシロ――、光の女神インフレーションも恐らく同じ考えだろう。

 だから僕の中にある神の部分は、知られなくていい秘密なのだ。


「光の女神様が、わたくしに神託をくださったのは、ハイネさんという特異な存在が近づいていると告げるためだったのでしょう。多くのことは語ってくださいませんでした」


 そしてヨリシロは、よくこんなスラスラとウソがつけるな。神としての本性を隠すために必要なスキルなんだろうが。

 人を陥れる類のウソではないから、罪はないとしよう。


「神は人に、自分で考えることを求めておいでなのです。だからいかなる時も明かしてくださるのはほんの一部。すべてを解き明かすのは、人自身の手に委ねるのです」

「そうですか……、そうですよね。求めるものは、自分の手で掴まないとダメなんですよね!」


 そしてカレンさんは健気でいい子だ。


「で、私なりに調べてみたんです。この図書館から、可能な限り古い蔵書を引っ張り出して、片っ端から読んでみました。そしてエントロピー様に関すると思われる記述を見つけ次第抜き出して、書き写したものがコレです!」


 ドンッ! と机の上に出されたノート。

 凄くボロボロだ。


「……あの、カレンさんがエントロピーのこと知ったのって、ついこの間ですよね?」


 ならば調査開始だってつい最近のこと。なのにこんなにノートがボロボロになるまで調べたのか?


「と言っても、明確にエントロピー様の名前が出てくる記述は、今のところ一つもないですけど。やはり今日まで一切存在の知られなかった隠れ神だけのことはあります。でも……」


 カレンさんがノートの表紙をめくる。

 一ページ目には、カレンさん当人のものと思われる可愛い筆跡でこう書いてあった。


『まず闇があった。そこにインフレーションが光を創り、クェーサーが天を風で満たした。次にマントルが大地を創り、コアセルベートが地の間を水で埋めた。最後にノヴァが炎にてすべてを溶かし合わせ、世界が出来上がった』


「創世神話の一節ですわね」


 ヨリシロが言う。


「そうです、でもここの『まず闇があった』って部分、おかしくないですか? 光も風も大地も水も火も、どの神様が創ったか明確に書いてあるのに、闇だけが最初からポツンとある。以前は別におかしいとも感じませんでしたけど、今読むと凄い違和感あります」

「……たしかに?」

「恐らくこの一節は書き換えられたものじゃないんでしょうか? そして書き換えられる前は、こう記してあったんじゃないでしょうか? ……『まずエントロピーが闇を創った』って」


 まあ実際そうなんですが。


「他にも興味深い記述がありました。この図書館の蔵書でもとりわけ古いものに、こんな語句が出てくるんです。『二極四元素』」

「六神のことですね」

「そうです! さすがハイネさん!」


 しまった、ここは一回とぼけるべきだったかな?


「本に書いてある前後の文脈から、たしかにこの語句が創世神様を指すことは間違いないんですが、創世神様は五人。なのに『二極四元素』なら、二+四で六。数が合わないんです。でもそこに闇の神エントロピー様を加えればしっくりくる」


 よく調べたなカレンさん。

 創世六神はその中にも明確なカテゴリ分けが合って、光と闇の二極、地水火風の四元素。この二者間には強力な上下関係があったはずなのだが、二極の一方である僕が敗れて封印されたことで、あやふやになったようだな。


 しかしよくここまで調べ上げたものだカレンさん。

 僕、つまりエントロピーは世界の始まりに封印されたわけで、つまり最初から誰も知らないのが普通だ。

 だから記述なんて残ってる以前に最初からあるはずがないのに。創世六神というグループの切り口からよく攻めている。

 でも、この辺りが限界なんじゃないかな?

 僕が封印され、創世からまったく存在していない以上。闇の神個人(?)の記述が出てくることは絶対にない。

 その存在を匂わせる程度が精一杯のはず。


「そしてですね、最後のとっておきがあるんです」

「はい?」

「その昔、闇の神エントロピー様を崇拝していた人たちがいるらしいんですよ」

「えッ!?」


 そんな、バカな……!?


「その人たちが暮らしていたらしい都市を古書から見つけたんです。……その名は、闇都ヨミノクニ」

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